5話
「……な」
よほど予想外のことだったのか、陛下は言葉を詰まらせた。
「騙せてしまった誰かがいるなら、私が陛下を騙せない理由がなくなります」
「いや、違う! 君は確かに私の――」
「証拠があるのでしょうか。あやふやなものではなく」
じっと深青の瞳を見つめる。
陛下は、目を彷徨わせていたが、やがて観念したように息を吐いた。
「……君が自身に消失魔法を使ったあと、私は倒れた」
……消失魔法。
そう頭の中で反芻した時、知識が蘇った。
理論はわかっていないが、魔力で対象を包み、消えろと念じたら、消える魔法。
でも、消失魔法は対象の質量が小さくても、かなりの魔力を消費する。
私一人を消そうとしたなら、相当量が必要になったはず。
1日でどうにかできる量じゃない。
魔術師団長とは言え、一週間以上かかるだろう。
その日だけでなく、何日も願っていた、ということになる。
「消失魔法を使うほどに……私は追い詰められたんですね」
「!!」
陛下が息を呑む。
「っ!」
なぜか、ノクト様もショックを受けているように見えた。
死にたいではなく、消えたいと願ったかつての私。
何も残さず消えてしまいたかったのに、こうして記憶をなくして生きている今の私を見て、何を思うんだろう。
「申し訳ありません。……話が脱線してしまいましたね」
「……いや」
陛下が首を振る。
「すまない、ロイゼ。私が君の言葉を信じていれば、こんなことにはならなかった」
別に責めたいわけじゃない。
正しくは、今の私はそうされた記憶が無いから、責めることに何の意味もない。
「いえ。先ほども言った通り、今の私に謝罪は必要ありません」
胸がすく思いも、優越感もない。
ただ、忘れてしまった思いに、悲しさが募るだけだ。
「……ロイゼ」
泣きそうな顔だった。
でも、そんな顔をされても慰めることはできない。
もしかしたら、私は記憶と一緒に、なにか大事なものを置いてきてしまったのかもしれない。
「話を戻しますが――、陛下がお倒れになったことと、私の魔法の関係性は解明されているのでしょうか?」
ただの偶然ではなく、それが運命の番によるものだと。
「……ああ」
陛下が頷く。
「私は倒れた後、しばらくして、竜の姿になった。これは、運命の番の危機の証に他ならない」
「どういう意味でしょうか?」
「竜王族の王は、女神と盟約を結んでいる。――その盟約があるからこそ、私はこの姿をとれるのだ」
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