3話
――私だけが、陛下を名前で呼ぶ権利を持つ?
それは、いったいどういうことだろう。
兄妹なのかな。
でも、いくら親しいとはいえ、ノクト様は王族を呼び捨てにするだろうか。
「君は、私の『運命の番』なんだ」
運命の番。
――前世で深く愛し合い、来世もと望んだ二人。
でも――。
「私が……?」
運命の番、だなんて言われても、私は陛下を見ても美しいひとだとは思うけれど、何も感じなかった。
運命の番とは、もっとこう、湧き上がるような何かがあるのではないだろうか。
「……そうだ」
竜王陛下は頷くと、私の目を見つめた。
「だが――私は君を深く傷つけてしまった。君が記憶を失くした原因の多くは、私だ」
想定していなかった答えに、ゆっくりと瞬きをする。
「騙されていたとはいえ、君ではない女性が運命の番だと信じ、君の言葉を疑った。その結果、君を深く傷つけることになった」
「……そう、だったんですね」
でも、「運命の番」って、そう簡単に偽れるものなのだろうか。
陛下相手でさえ偽れてしまうのだったら、誰でもなり放題……とまではいかないまでも、「運命」とは呼べない気がする。
そんなことを考えていると、急に陛下が頭を深く下げた。
「すまなかった」
「!? 頭を上げてください!」
一国の王相手に謝罪されるほど、上の立場じゃない。
「記憶がない君にこんなことを言っても、困らせるだけだとわかっている。――だが。傷つけてすまない」
「……陛下」
頭を下げられ続けて、どんな顔をすればいいのかわからない。
私の記憶がない原因は、陛下によるところが大きいのだという。
でも、その記憶が無いせいで、悲しいとも、怒りたいとも、思えなかった。
ただ、この状況は、困る、というのが今の私の感情だった。
「頭を、上げてください」
もう一度言うと、ようやく、陛下は顔を上げた。
「正直に申しますと、今の私は記憶が無いことも、陛下にされたことも、何と感じれば良いのかわかりません」
「……そうだな」
陛下は、ゆっくりと頷いた。
「だから、謝られても、赦すとも赦さないとも言えないのです」
「……そうだな。困らせてすまない。君のことを考えられず、ただの自己満足に付き合わせてしまった」
――そこまでは、言ってない。
という言葉をなんとか飲み込み、陛下を見つめる。
「現状、私にとって最も重要なのは、生活です」
「……ああ」
頷いたのを確認して、話を続ける。
「仕事――団長職に復帰できない確率の方が高いと思うので、新しい仕事が見つかるまで、最低限度の生活を保証していただけますか?」
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