2話
遅刻しました!!
昨日の更新分です!!
――逆行性健忘。
つまり、俗にいう記憶喪失というもののようだった。
「彼女の記憶は、戻るのか……?」
美しい人が医者に尋ねる。
「今のところ――戻るとも戻らないとも断定できませんね」
それだけ、難しい病気なのだと医者は言った。
「ひとまず、日常生活に問題はなさそうなので、今回の診療はここまでですね」
医者が診察道具をまとめて帰って行った。
ばたん、と扉が閉じられたのを最後に部屋に沈黙が落ちる。
「…………」
みんな暗い顔をしていた。
私のせいなのだと考えると……気まずいし、申し訳ない。
「……あの」
無言に耐えきれず、口を開く。
みんなが一斉に私を見た。
「私って、どんな仕事をしていたのでしょうか……?」
なんだか豪華な部屋に寝かされてはいるものの、自分がお姫様だとは到底思えない。
だから、何かしら働いたものだと思う。
記憶がないと仕事にも支障が出るだろうし、早く仕事場に連絡したほうがいい。
「君は――」
美しいひとが、口を開く。
「魔術師だった」
「魔術師!?」
――ということは。
「私は魔法が使えるんですか!?」
すごい。
魔法はみんながみんな使えるわけではないと、私に残った「知識」が言っている。
「……ああ」
美しい人が頷いた。
「訳あって、魔術師団長を辞するつもりだったようだが、まだ私は退職願を受理していない」
退職願を受理していない――ということは、この人は私の上司だったのか。
それに。
「……団長?」
聞き間違いでなれけば、このひとは団長と言わなかっただろうか。
「そうだよ。君は、魔術師団長だ。そして、僕が副団長」
綺麗な黒髪の人が私を見た。
「ああ、そうだ。まだ名前を言っていなかったね、僕はノクト・ディバリー。君の元師で、ライバルで、友で、副団長だ」
「あなたが、ノクト……様」
私がそう呼ぶと、ノクト様は目を細めた。
懐かしむような、瞳だった。
「うん。そうだよ、ロイゼ」
ノクト様が頷く。
「あれ、でも、そういえば、魔術師団長の上司って――」
団長の更に上とは、一つしかない。
私はおそるおそるその美しい人を見た。
「ああ。私は竜王、ハロルド・ソフーム」
「――陛下、大変、失礼致しました!!!!」
記憶がないとは言え、一国の王相手に失礼なことをしなかっただろうか。
だらだらと冷や汗が流れる。
震える手をぎゅっと握りしめながら、頭を下げる。
「!?」
温かな手が、私を包んだ。
「そう畏まらないでくれ」
「いえ、あの……」
冷や汗が止まらない。
畏まらない方が無理ではなかろうか。
「君は、君だけは私を名で呼ぶ、権利を持つのだから」
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