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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
三章 私という存在

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34/80

2話

遅刻しました!!

昨日の更新分です!!

 ――逆行性健忘。

 つまり、俗にいう記憶喪失というもののようだった。


「彼女の記憶は、戻るのか……?」

 美しい人が医者に尋ねる。

「今のところ――戻るとも戻らないとも断定できませんね」


 それだけ、難しい病気なのだと医者は言った。


「ひとまず、日常生活に問題はなさそうなので、今回の診療はここまでですね」


 医者が診察道具をまとめて帰って行った。


 ばたん、と扉が閉じられたのを最後に部屋に沈黙が落ちる。


「…………」


 みんな暗い顔をしていた。


 私のせいなのだと考えると……気まずいし、申し訳ない。


「……あの」


 無言に耐えきれず、口を開く。

 みんなが一斉に私を見た。


「私って、どんな仕事をしていたのでしょうか……?」


 なんだか豪華な部屋に寝かされてはいるものの、自分がお姫様だとは到底思えない。

 だから、何かしら働いたものだと思う。

 記憶がないと仕事にも支障が出るだろうし、早く仕事場に連絡したほうがいい。


「君は――」



 美しいひとが、口を開く。


「魔術師だった」

「魔術師!?」


 ――ということは。


「私は魔法が使えるんですか!?」


 すごい。

 魔法はみんながみんな使えるわけではないと、私に残った「知識」が言っている。


「……ああ」


 美しい人が頷いた。


「訳あって、魔術師団長を辞するつもりだったようだが、まだ私は退職願を受理していない」


 退職願を受理していない――ということは、この人は私の上司だったのか。

 それに。


「……団長?」


 聞き間違いでなれけば、このひとは団長と言わなかっただろうか。


「そうだよ。君は、魔術師団長だ。そして、僕が副団長」


 綺麗な黒髪の人が私を見た。


「ああ、そうだ。まだ名前を言っていなかったね、僕はノクト・ディバリー。君の元師で、ライバルで、友で、副団長だ」


「あなたが、ノクト……様」


 私がそう呼ぶと、ノクト様は目を細めた。

 懐かしむような、瞳だった。


「うん。そうだよ、ロイゼ」


 ノクト様が頷く。


「あれ、でも、そういえば、魔術師団長の上司って――」


 団長の更に上とは、一つしかない。

 私はおそるおそるその美しい人を見た。


「ああ。私は竜王、ハロルド・ソフーム」

「――陛下、大変、失礼致しました!!!!」


 記憶がないとは言え、一国の王相手に失礼なことをしなかっただろうか。

 だらだらと冷や汗が流れる。


 震える手をぎゅっと握りしめながら、頭を下げる。


「!?」


 温かな手が、私を包んだ。


「そう畏まらないでくれ」

「いえ、あの……」



 冷や汗が止まらない。


 畏まらない方が無理ではなかろうか。


「君は、君だけは私を名で呼ぶ、権利を持つのだから」

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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こちらも覗いていただけたら幸いです。完結作なので安心して読んでいただけます。
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
― 新着の感想 ―
皆で嘘を教え込むのか……腐った国ですね
どっちとも出来ればくっついて欲しくないですね
この後、何か事件が起きてどっちかの男が命をかけて守ったりなんていうエピソードを挟んで許された雰囲気になってどっちかの男とくっつくみたいな展開だったら嫌だなぁと思いながらもドキドキ楽しく読んでます!
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