ハロルド 1-2話
「魔術師団長――ロイゼ・イーデンが?」
ロイゼ・イーデン。
私の運命の番を騙った、魔術師団長。
「はい」
側近が頷く。
「陛下が倒れた原因を探すため、副団長――ノクト・ディバリーを呼んでおります。団長の件は彼に聞くのがよろしいかと」
魔術師を呼んだというのは、側近たちは何者かによる呪いや魔法がかけられたことを案じてのことだろう。
だが――。
「――違う」
「陛下?」
私にはわかる。
私がこの姿になったのは、第三者による呪いによるものではない。
呪いでとれる姿ではないからだ。
「魔法ではない。これは――盟約によるものだ」
「盟約に!?」
私の言葉に側近たちがざわめき出す。
徐々に声を大きくする彼らとは違い、私の心は冷えていった。
――なぜ。
頭の中で、声がする。
――お前はいったい何のために。
「陛下、副団長が到着しました!!」
「――通せ」
「しかし、そのお姿は……。魔法が原因でないのなら、彼には見せない方が――」
初代竜王が真に竜だったと知っているのは、今では限られた人間だけだ。
そのことを案じた側近たちに首を振る。
「――構わない」
「かしこまりました。……お通しします」
副団長が入ってきた。
「陛下、副団長のノクト・ディバリーと申します。団長不在のため、団長代理で参りました」
恭しく礼をする、ノクト・ディバリー。
彼は、私の姿を見て一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。
「拝見したところ、魔法の残滓はないようですが――」
「ああ。私が倒れたのは、魔法が原因ではない」
頷く。
――お前はいったい何のために。
頭の中の声は、依然としてやまない。
だが、現時点ではその回答を持ち合わせない。
確証がないからだ。
いや、予感はある。
けれど、信じたくない。
自分の過失を、間違いを。
「――何が、あった。魔術師団長ロイゼ・イーデン、彼女になにがあった?」
ロイゼ、その名前を呼ぶたび、ふわりと胸をくすぐる、何か。
これがエルマへのミルフィアへの裏切りではないのなら。
私は、いったい。
「……消えました」
彼が顔を歪めた。
――心音が強く鳴り響く。
「出奔したということか?」
「違います。言葉の通り、消えました。塵ひとつたりとも残さず、消えたのです」
ロイゼ・イーデンが、消えた。
「消失魔法でした。……僕が教えた最後の魔法。それで、ロイゼは……」
副団長は、言葉を詰まらせ顔を覆った。
「親友に裏切られ、愛しい人も、同僚も部下も誰も信じてくれなくて、それでも踏ん張っていたのに。……僕が、僕の言葉が――その背を押した」
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