ハロルド 0-3話
ファーストダンスが終わり、二人でお辞儀をする。
温かな拍手が私たちを包んだ。
ちらりとミルフィアを見ると、嬉しそうな顔をしている。
――私もつられて笑顔になった。
◇◇◇
数年は穏やかに過ぎた。
「……アレク!」
ミルフィアが駆け寄る。
「気をつけて行ってきてね」
今日は、普通の貴族が3年通うことになる学校への出立の日。
「うん、ありがとうフィア」
ミルフィアを抱きしめて、その柔らかな金糸の髪に顔を埋める。
「ふふ、くすぐったい」
楽しそうに笑う君にため息をついた。
「はぁーあ。兄上だけずるいよなぁ」
貴族学校は、王太子や魔術師を目指す子供は入学する必要はない。
「私ももう少し早く生まれてたら、フィアとずっと一緒にいられるのに」
「そうね。……でも、私も貴族学校に3年後入学しないといけないわ」
「――そうだった!」
王太子になっても、ミルフィアと離れる時間があるんだったら意味がない。
「……入れ違いになっちゃうね」
私たちの年の差は三年。
貴族学校も三年。
「ええ。でも、大丈夫。ちっとも心配してないわ」
ちっとも!?
「だって、私の婚約者さまはいつだって飛んできてくれるもの」
幼い頃、交わした約束。
「もちろんだよ」
今のところ、ミルフィアが私を呼んだのはただの一度もないけれど。
それでも私が会いたいから、何度も公爵邸まで飛んで行った。
「本当に呼ぶんだよ。困ってても困ってなくても、私はフィアが大好きだからね」
「ええ……アレク」
ぎゅっともう一度抱きしめる。
ミルフィアの陽だまりの香りが胸いっぱいに広がった。
「ミルフィア、知らない男について行ったらダメだよ。相手が女性でも怪しいと思ったら、すぐに逃げること。私がそばにいないからと言って、近寄ってくる男は碌な男じゃないからね。せめて、私がいるときに奪い取ってくるような男じゃないと――」
早口でそう言った私にくすくすとミルフィアは笑う。
「浮気心を起こすはずがないわ。だって、私の中はこんなにもアレクでいっぱいだもの」
「私だってそうだ。竜の執念深さを舐めてもらったら困る」
……まあ、私は王太子じゃないから完全な竜にはなれないんだけれども。
「――アレク、愛してる」
愛してる。
幼い頃、君が背伸びをして言った言葉。
でも、今のは――。
「私も愛してる。ミルフィアだけを、ずっと」
ベルが鳴った。
そろそろ出立の時間らしい。
急いでミルフィアの頬に口付けると、馬車に飛び乗る。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
ミルフィアに手を振る。
その姿が竜の目をもってしても見えなくなるまで、ずっと、手を振り続けていた。
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