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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
二章 私が消えたあと

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ハロルド 0-1話

 私たちが出会ったのは、ミルフィアが5歳のころだった。

「アレク、ねぇ、見て!」

「ミルフィア、そんなに走ったら危ないよ」


 ――ミルフィア。

 私の婚約者。


 公爵家と王家のつながりを強めるための政略的な婚約だ。


「アレク、アレックス!!」

「もう、見てるよ。私が君を見失うはずないじゃないか」


 私の言葉に、君が、大きな目をまんまるにする。

 大きな蝶を追いかけていたのも忘れて、私だけを映す、桃色の瞳。



 ――これは政略的な婚約だ。

 それは、間違いない。

 でも――。


「だって、私は君が大好きだもの」

「!!!!!!!」


 途端に顔を真っ赤にする、君に、笑う。


「……っ、アレク!」

「なに? 大好きなミルフィア」


 公の場では、小さなレディの君。

 だけど、私の前だけでは、お転婆な少女の君。



「私は、アレクのこと――あいしてるわ!」


 その顔は得意げで、言ってやった! と言わんばかりの顔だった。


「……っふ、ふふ」


 堪らず笑みが溢れる。


「もう、何がおかしいの!」

 怒ったミルフィアが、私に飛びつく。

 それを受け止めて、くるりと回ると、ミルフィアは頬を膨らませた。


「アレクはひどいわ!」

「フィア、背伸びをしなくてもいいんだよ」


 私たちには年の差がある。

 でも、それはたったの3年。

 大人になれば気にならなくなるわずかな年の差も、今の私たちには大きな壁だ。


 貴族学園に通う時期がズレる。

 背の伸び方が違う。


 そのほかにもいろいろあるけれど――。


「私は、ちゃんと待ってるよ」

「……うん」


 ミルフィアには、私が先へ先へと進んでいくように見えるみたい。

「忘れないで、ミルフィア。私は、君が大好きだよ」


 屈んで、額を合わせてそういうと、ミルフィアは笑った。

「私だって、アレックスが大好きよ」


 ミルフィアの綺麗な金色の髪が、風で頬に当たってくすぐったい。


「うん。……それにね、ミルフィア」


 私は、小指を差し出した。

 それを見て、ミルフィアが不思議そうに目を丸くする。


「私たちには、まだ年の差があるけれど――、大丈夫。だって、君が困っていたら飛んでいくし、困ってなくても飛んでいく。約束だ」

「でも、それってアレク大変じゃない?」


 ミルフィアが心配そうな顔で小指を絡ませる。


「大丈夫だよ。ほら、だって、私は竜の血を引くからね――」


 そう言って、私はミルフィアと絡ませた小指を上下に振る。

 そして、普段は消している翼を出した。



「ほら、見て。いつだって、飛んでいける」


 翼を少し動かしてみせると、ミルフィアは笑顔になった。


「――きれい」


 その瞳には憧憬が浮かんでいた。

「完全な竜の姿になれるのは、王太子である兄上だけだけどね。私には、フィアの元へ飛べるこの翼があれば十分だ」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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