ノクト 1-1話
これで――僕に教えられることは無くなった。
「ロイゼ」
その名を、呼ぶ。
「はい、ノクト様」
僕は、手を差し出した。
「ロイゼ、これからはもう僕は君の師じゃない。これからは――、君の友でライバルだ」
ロイゼが僕の手を握り返す。
「ありがとうございます、ノクト様。あなたが私の師でよかった」
そう言って笑った顔が、僕だけを見つめた、紫水晶の瞳が、今、走馬灯のように駆け抜ける。
「ああああああああ!!!!!!!!」
叫ぶ。
みっともなく、ロイゼが座っていた椅子に、縋りつく。
そんなことをしても、そこには輝く光があるだけだ。
やがてその光さえ、消えてしまった。
「ロイゼ、ロイゼ、……っ!!!!!」
ロイゼが使ったのは、消失魔法。
僕が教えた、最後の魔法。
消えたかったのか。
死にたかったのか。
そこまで――僕が君を追い詰めたのか。
ただ、頼って欲しかったんだ。
君と僕の間に隠し事があるのが嫌だったんだ。
竜王陛下のことが好きだと知って嫉妬したんだ。
僕だって、ずっとずっと君が好きだったから。
君が、ロイゼが、嘘をつくはずないのに。
ロイゼは、隠し事はしても嘘はつかない。
それが君だった。
それが君だと知っていた。
だって、8年君をみていた。
ずっと、君だけを、みていた。
ずっと、ずっと、みていたんだ。
それなのに。
目の前にあるのは、空の椅子。
そこに君のぬくもりを探す。
けれど、そこにはもう冷たい革の感触があるだけだった。
――きっと、僕が、殺した。
僕の言葉が君を追い詰めた。
煌めく紫水晶の瞳、濃紺の髪の女の子。
笑うとまるで太陽のような、僕の大好きな子。
そんな君を、僕が。
「……っ、……っく」
エルマ嬢が選民思想が強いのに、ロイゼを親友に選んだこと。
ロイゼが僕に隠し事をしたこと。
「ロイゼ……」
きっと、僕には何度も助ける機会も気づく機会もあって。
でも、僕は自分の幼稚な嫉妬心のために、迷っていたロイゼの背中を押した。
嘘をついてまで、僕がそう言ったときの君の瞳には間違いなく絶望が映っていた。
「僕が……殺したんだ」
消えろ、と自分で念じるほどに、君を追い詰めた。
一朝一夕で、貯められる魔力じゃない。
きっとずっと迷ってて、その最後の一歩を踏み出さずに踏ん張っていた。
それでも。
その最後の一歩を踏み出させたのは紛れもなく――僕だった。
「……ロイゼ、ロイゼ」
とめどなく溢れる涙も、君を呼ぶ声も、とまるところを知らない。
いつものように、どうしました、と少し首を傾げて笑って欲しい。
あの紫水晶の瞳に僕を映して欲しい。
そして、これが悪い夢であったらいいのに。
――やがて僕の叫び声を聞きつけた同僚が入ってくるまで、ずっと、僕は、ロイゼの名前を呼び続けていた。
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