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間違えられた番様は、消えました。  作者: 夕立悠理
二章 私が消えたあと

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ノクト 0-3話

 エルマ嬢と別れたロイゼに話しかける。

「ロイゼ」

 この頃には僕もロイゼと呼ぶ仲になっていた。

「はい、ノクト様」

 ただ、ロイゼは頑なに僕のことを師匠だからと様付けで読んだ。


「明後日、休日だけれど一緒に来てもらえる?」

「あぁ、お代の件ですね。わかりました」


 僕はロイゼに魔法を教えている。

 でも、ただ教えるわけじゃない。


 きっちり、貰うものは貰っていた。


 だからこそ、ロイゼを教える時は手を抜かなかったし、僕の持てる知識や技術を全て注ぎ込んだ。


「いつものように、動きやすい服で来てね」

「はい、もちろんです」



◇◇◇


 そして、約束の休日の日。

 ロイゼと共に公爵家の馬車に乗って、領地に向かう。


 その馬車に揺れる間も、ロイゼはノートを食い入るように読んでいた。



「……ふふ」


 その様子に思わず、笑みが溢れる。


「ノクト様?」


 どうやら、笑ったのが聞こえていたみたいだ。

 ロイゼが顔を上げた。


「ううん。ロイゼは一生懸命だなって」

「それは――、せっかくノクト様に教えていただいていますし、何よりまだほど遠いですから」


 遠い。

 それは、初めて聞く言葉だった。


「何から遠いの?」

「魔術師団長です」


 躊躇いもなく言い切られた言葉にはっ、と息を呑む。


 ロイゼは魔術師団長の座を狙っているのか。


「私は――魔術師団長になりたいんです」

 紫の瞳が強く煌めく。

 その意志の強さに、誤魔化しもなく言えるその度胸に。


 僕は、撃ち抜かれた。


 想像が、できてしまったのだ。



 ロイゼが将来、魔術師団長になる、姿が。


 当然、僕も父にそうなるようにと期待されている。

 それなのに。


 平民なのに、とか、天才じゃないのに、烏滸がましいとか。

 そんな言い訳を。

 誤魔化しを。

 ――ロイゼはしない。


 ただただ、強い意志がそこにはあった。


 きっと、そう想像できてしまった時点で、僕はもう魔術師団長にはなれない。


「……はは」

「変でしょうか?」

「違うよ、君を笑ったんじゃない」


 

 自分は、天才だという自負があった。

 そして、その才能にあぐらをかかず、努力をしているという自負も。


 でも。


 きっと、この子はいつか、僕を越してしまう。

 僕を越えて、もっと先へと高みへと駆け抜けてしまう。



 ――そのときに、僕は。


「ノクト様?」


 紫の瞳が不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。

 何より綺麗なその瞳には、僕だけが映っている。


「っ!!」


 そのことを意識した瞬間に、急にかっと頬が熱くなった。


「大丈夫ですか……?」


 さらにロイゼが顔を近づける。

「大丈夫……大丈夫、だから」

 それを慌てて手で制し、跳ねた心臓を落ち着ける。



 ――君が僕を越していく時、そのときに、僕は。


 僕は君に置いていかれたくないと、思った。

 ただ、ライバルとして嫉妬したわけじゃない。


 先へ先へ進む君の隣に並び立つのは、僕がいいと、そう思ったんだ。



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