ノクト 0-3話
エルマ嬢と別れたロイゼに話しかける。
「ロイゼ」
この頃には僕もロイゼと呼ぶ仲になっていた。
「はい、ノクト様」
ただ、ロイゼは頑なに僕のことを師匠だからと様付けで読んだ。
「明後日、休日だけれど一緒に来てもらえる?」
「あぁ、お代の件ですね。わかりました」
僕はロイゼに魔法を教えている。
でも、ただ教えるわけじゃない。
きっちり、貰うものは貰っていた。
だからこそ、ロイゼを教える時は手を抜かなかったし、僕の持てる知識や技術を全て注ぎ込んだ。
「いつものように、動きやすい服で来てね」
「はい、もちろんです」
◇◇◇
そして、約束の休日の日。
ロイゼと共に公爵家の馬車に乗って、領地に向かう。
その馬車に揺れる間も、ロイゼはノートを食い入るように読んでいた。
「……ふふ」
その様子に思わず、笑みが溢れる。
「ノクト様?」
どうやら、笑ったのが聞こえていたみたいだ。
ロイゼが顔を上げた。
「ううん。ロイゼは一生懸命だなって」
「それは――、せっかくノクト様に教えていただいていますし、何よりまだほど遠いですから」
遠い。
それは、初めて聞く言葉だった。
「何から遠いの?」
「魔術師団長です」
躊躇いもなく言い切られた言葉にはっ、と息を呑む。
ロイゼは魔術師団長の座を狙っているのか。
「私は――魔術師団長になりたいんです」
紫の瞳が強く煌めく。
その意志の強さに、誤魔化しもなく言えるその度胸に。
僕は、撃ち抜かれた。
想像が、できてしまったのだ。
ロイゼが将来、魔術師団長になる、姿が。
当然、僕も父にそうなるようにと期待されている。
それなのに。
平民なのに、とか、天才じゃないのに、烏滸がましいとか。
そんな言い訳を。
誤魔化しを。
――ロイゼはしない。
ただただ、強い意志がそこにはあった。
きっと、そう想像できてしまった時点で、僕はもう魔術師団長にはなれない。
「……はは」
「変でしょうか?」
「違うよ、君を笑ったんじゃない」
自分は、天才だという自負があった。
そして、その才能にあぐらをかかず、努力をしているという自負も。
でも。
きっと、この子はいつか、僕を越してしまう。
僕を越えて、もっと先へと高みへと駆け抜けてしまう。
――そのときに、僕は。
「ノクト様?」
紫の瞳が不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。
何より綺麗なその瞳には、僕だけが映っている。
「っ!!」
そのことを意識した瞬間に、急にかっと頬が熱くなった。
「大丈夫ですか……?」
さらにロイゼが顔を近づける。
「大丈夫……大丈夫、だから」
それを慌てて手で制し、跳ねた心臓を落ち着ける。
――君が僕を越していく時、そのときに、僕は。
僕は君に置いていかれたくないと、思った。
ただ、ライバルとして嫉妬したわけじゃない。
先へ先へ進む君の隣に並び立つのは、僕がいいと、そう思ったんだ。
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