14話
「……エルマ」
エルマは私の呼びかけにもう一度にこりと微笑むと、防音魔法を展開した。
「ふふ。……ねぇ、ロイゼ」
エルマは、胸に手を当てると首を傾げた。
「このドレスね、ハロルド陛下からいただいたのよ」
「……竜王陛下、から」
あの雨の日に、もう前世のことを忘れようと決めた。
でも、結局、一度その言葉を聞いただけで、こんなにも胸が掻き乱される。
「うん、そう。似合ってる?」
「……、似合ってるわ」
エルマの輝く金髪に美しい桃色の瞳は、どんなドレスを着ても、負けることがない。
銀糸の刺繍が施されたドレスはとても豪華だったけれど、エルマに似合っていた。
「ありがとう」
エルマはくるりと回ると優雅にお辞儀をした。
その様子も様になるのはさすが侯爵令嬢というところだろう。
「――でも」
エルマは薄く微笑むと、首を傾げた。
「おかしいわ。――思ったより、取り乱さないのね」
「……っ、え?」
エルマの声が急に、変わった。
冷たく刺すような声だった。
「だって、そうでしょう? ふふ、でも、あの日のあなたの顔は見ものだった。覚えてる――?」
そう言って、エルマがぱちりと指を鳴らすと、映像魔法が展開される。
その映像は、私と竜王陛下の面談のときが映されていた。
くるくると風で花びらが舞い散る中、竜王陛下は私に告げる。
『ここにいるエルマ――彼女が私の運命の番なんだ』
『…………え?』
そこで、映像を止めて、エルマはくすくすと笑う。
「このときの、絶望の顔。今でも何度も思い出すの」
「っ、エルマ――」
なんで、エルマがそんなこと。
エルマは、私のことを親友と呼んだし、私もそう思っていた。
エルマにこんなに嫌われていたなんて。
「あら」
エルマは笑って、首を傾げる。
「もちろん、あなたのこと親友だと思ってるわ。だって、あなたのおかげだもの」
私の――おかげ?
「ロイゼ、可哀想で可愛い、私の親友」
「……」
歌うように告げられた言葉は、どこまでも悪意に満ちていた。
「あなたがいたから、私はハロルド陛下の『運命の番』になれたの」
私がいたから――?
どういうこと。
「そうね、まだ分からないって顔をしてる」
エルマは一歩近寄ると私の頬に触れた。
香水が、香る。
「分からないならそのままでいいわ、って言いたいけれど――」
その強すぎる香りはあまり好きではない。
思わず顔を顰めた私に、エルマはくすりと笑った。
そして耳元に顔を近づける。
「でも……そんなのつまらないわ」
まるで、吐息の音さえ聞こえるほど、近く。
――そんな距離でエルマはささやいた。
「ロイゼ――ううん、ミルフィア。あなたの居場所、私がもらうわね」
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