13話
「自分が運命の番だって気づいたのは、初めて竜王陛下を見た時らしいよ!」
――あの朝礼の以降、魔術師団内は、エルマの噂で持ちきりだった。
当の本人といえば、婚約に向けて準備があるとかで長期休暇を申請していた。
……そうなると。
「へえー、そうなんだ! 一目見てわかるなんて、まさに運命って感じ!」
「あっ、団長! 団長はエルマ隊長の親友だから、もっと詳しくご存知ですよね!!」
きらきらと輝く瞳がこちらを向く。
本人に直接聞けない分、噂の真相を私に確認されることが恒例となっていた。
「いえ、あまり――」
「運命の番のことを親友にも話さないなんて、さすがエルマ隊長!」
「ずっと胸に秘めていたなんて、健気すぎる!!」
私が何を答えようと、最後にはエルマへの賛辞に変わるので、答える意味はない。
ため息を吐きたくなるのを抑え、そっとその場を離れた。
「団長、いらっしゃいますか」
控えめなノックと共に、ノクト殿が執務室へ入ってきた。
「どうしました?」
「はい。こちらの書類なのですが――」
ノクト殿の言葉に耳を傾けながら、その横顔をちらりと見る。
ノクト殿とのわだかまりはまだ、解けていない。
仕事の話はちゃんとできる。
でも、私的な話をしようとすると、ノクト殿がやんわりと拒絶するのだ。
――私は、こんなにもノクト殿を傷つけてしまったんだ。
この8年間でそんなこと一度もなかった。
ノクト殿は怒っても、謝ったら許してくれたし、謝る機会さえ与えてくれないことはなかった。
「団長?」
「はい、聞いていますよ。この欄の再確認の必要性ですね」
私の言葉に満足げに頷くと、ノクト殿は、では、と立ち去ろうとする。
「――ノクト殿」
名前を呼ぶと、振り向いた。
金の瞳と目が合う。
「私、あなたに――」
「申し訳ありません、団長。実は仕事が押しておりまして」
すらすらと言葉が出てきたのは、その言葉を何度も私に言ったからだろう。
「……わかりました」
けれど、そう言われては、頷くより他はなかった。
副団長の仕事と私的な用事なら、仕事が優先される。
「では、失礼いたします」
執務室の扉が閉じられる。
その扉は、まるでノクト殿の心のようだと感じた。
「……はぁ」
ため息が漏れる。
私はもう、ノクト殿と笑い合える日はこないのだろうか。
――コンコンコン。
ノクト殿と入れ違いに、誰かが扉を叩いた。
「団長、いらっしゃいますか。エルマです」
「! はい」
エルマが入ってくる。
エルマは、深青に銀の刺繍が入った――竜王陛下色のドレスで、微笑んだ。
「私、ずっとロイゼ、あなたと話したかったの。」
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