66「リリアン嬢、冬入りの舞踏会……楽しみですね」
秋が立ち去り、今年も終わり月、王の月がやって来る。十三の月は王都の冬の始まりであり、街中がユルノエルの祝祭に染まる。
あちらこちらで白百合のリースを販売し、街の屋台にも祝祭関係のものが増えていく。ユルノエルのマーケットが催されるのもこの頃からだ。川沿いにあり、週末の昼間にはこの時期にだけ聞けるベル演奏などもやっている。
朝晩の寒さが辛くなってくるのも、同じ時期。室内に暖房が入れられて、夜は湯たんぽを用意してもらう。
わたしは毛糸のおパンツを穿き、寝る前の羽織ものに綿入りキルトが用意される。室内ばきが暖かな起毛のものへ変えられ、寝台の側の敷物が毛足の長いものに変わっているのも、この頃だ。
王都は雪がそう滅多に降らないが、寒さは厳しい。外出時には厚手のコートと手袋は絶対に欠かせない。首に巻くマフラーかショールも欲しいところだ。
さらに来月になれば、冬の名物のスケートリンクも開放される。わたしは転ばないだけの技術はあるので、是非デミオンを誘ってみたいと思っている。
(多分、デミオン様ならすぐに滑れるようになりそうなんだよね。それにきっとデミオン様とスケートリンクは相性バッチリで、映えるに違いない!!)
デミオン用に仕立てた冬のコートも、合わせた手袋も、冬用の靴も、この間ベネットが一式届けてくれた。これで、彼の冬支度もバッチリだ。
「デミオン様、お早うございます」
朝食前に、デミオンの部屋にジルと一緒に向かう。彼の髪を整えるためだ。この日課は季節関係なく、続いている。
「リリアン嬢、お早うございます」
彼とにっこり挨拶を交わし、それからジルにバレないように閣下に挨拶する。会釈となるが、閣下は慣れているので「うむ!」と、頷き返す。
「今日は三つ編みにしますか? それとも結びますか?」
デミオンのプラチナの髪は、雪の結晶にも負けぬ輝きを放つ。まるで繊細な氷細工のようでもあり、わたしはいつも触れる度に感動する。
「今日も三つ編みをお願いします」
「デミオン様は三つ編みが大好きなのですか?」
昨日と同じリクエストに、わたしは問う。
「三つ編みですと、リリアン嬢が触れる時間が長く感じて……嬉しいんです」
朝からイケメンの美声を浴びるのは、多分健康に良い。心に沁みる。
わたしの長寿は約束されたようなものと思いながら、彼の素晴らしい髪に触れた。櫛でとかし、サラサラの髪を丁寧に編んでいく。
(この髪、超サラッサラなのに、三つ編みしても解けなくて、凄いんだよね)
髪の毛の持ち主に似て、髪の毛も良くできた髪になるのだろうか。反抗的なわたしの髪と大違いである。
「リリアン嬢、冬入り舞踏会……楽しみですね」
「ええ、今年はわたしとデミオン様とで参加するよう両親から言われてますので、凄く楽しみにしてます」
冬入りの舞踏会は、その名の通り冬の始まりにする舞踏会だ。そして、今年最後の舞踏会でもある。
傍系の公爵家の三家で持ち回りするイベントで、けれども季節柄参加者は夏の宴ほどではない。だから、全ての貴族が参加することもない。
しかし、終わり月は精霊王の月でもあるので、前世風に言えば縁起担ぎのため家族の誰かを参加させるという家も多い。また、帰宅時にもらえる祝いの砂糖菓子を食べると幸せになれると、言い伝えがあるからだろう。
わたしとデミオンの場合は、この二人まとまりました的な、お披露目も兼ねた参加だ。夏の宴の一部始終を見ていた貴族ならば大体察しがつくだろうが、こうして公の場に立つことも大切なのだ。
舞踏会に合わせて、わたしはデミオンとダンスの練習もした。ダンスは人並みに踊れるつもりのわたしだったが、デミオンとのダンスはまた格別だった。
(羽根がついてるようって、まさにデミオン様とのダンスのためにあるような言葉でしたよ)
デミオンはあの綺麗な顔を僅かに染めて、ダンスの経験は片手の指もないのだと告げた。言われれば、わたしも彼がアリーシャ王女と踊ったところを見た記憶がない。
昔はあったのだという。婚約のお披露目の時だ。お城で大々的に行ったので、その子供時代に踊った数回が最後の経験らしい。
体が覚えているか不安なのですがと、困ったようにしていたが、実際動けば回数など関係なかった。
(やはり、デミオン様はデミオン様!!)
幾つかの曲をお試しで踊ったのだが、むしろわたしがステップを間違える事態となった。そう、デミオンはミスなど何ひとつない。
わたしは元婚約者と踊ったことがあるが、彼とホールドをすると腕が疲れたり、肩が上がって綺麗に見えてないように感じたのだ。
けれども、デミオンは違う。
デミオン自身、わたしへアドバイスをしてくれたからか。腕だけ上げようとするのではなく、肩全体を使うらしい。
そうして、言われた通りにダンスを始めると、動きが違って感じてくる。
(多分、デミオン様の支え方も良いのだと思う)
安心して任せられる気持ちと、いつもより楽に動ける気持ちで、ダンスが楽しかったのだ。
(だから今は、デミオン様とダンスするの大好き!)
彼の髪を編みながら、わたしがニマニマしてるせいか、リボンを渡してくれるジルに怪訝な顔をされてしまう。
それどころか、デミオンにもどうしました? と、聞かれてしまった。
「……ちょ、ちょっとした、思い出し笑いです」
「それは、どんなことかお聞きしても大丈夫ですか?」
「……で、デミオン様とダンスの練習した時です。とても楽しかったから、つい」
返せば、彼が柔らかな顔になる。
「俺も、リリアン嬢がずっと笑顔でいてくれていたので、とても幸せでしたよ。本番が楽しみで仕方がないです」
リボンを結び終わった指に手を重ねられ、そう告げられるとわたしは困ってしまう。朝から美人に褒められるのは、ドキドキして心臓に負担なんです。
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