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49 「だ、だけど……このすべもちほっぺの魅惑に抗え、ない……!!」

本日は短めです。

 

 

 窓の外の景色が変わる。

 庭木は全体が黄色や赤へと転じ、花のように身に染める。

 我が家の庭はどこもかしこも秋色に深く馴染んでいた。王都では、きっとあちらこちらに焼き栗の屋台が並んでいることだろう。もしくは、栗蜜芋の焼き芋屋さんか。


「お嬢様、きつかったですか?」

「大丈夫よ」


 ジルにコルセットを締めてもらいながら、わたしは身支度をしていた。


「本日はデートとお聞きしてますから、お嬢様をとびきり美しくいたしますね」

「ありがとう。ジルはいつもそう言って、わたしを素敵にしてくれて嬉しいわ」


 他のメイドにも手伝われながら、わたしは本日のドレスに腕を通す。


「お嬢様が大怪我をされた時、どうしたらよいかと思いましたが……どこにも傷痕が残らず安心しました」

「毎日、ジルや他のみんながわたしの世話をしてくれたからね。本当に感謝しているの」

「むしろ、以前よりもお綺麗な肌になったのではないでしょうか? きっとお薬が良く効いたのですね」


(そうなんだよ、薬の効き具合が最高だったのか……お肌の調子が良いんだよね)


 ジルの指摘通り、わたしの肌は前よりもすべっとしていて、ちょいともちっとしていて、肌美人に近づいた感触なのだ。


(……デミオン様に追いつくにはまだまだで、ぶっちゃけ、比べること自体おこがましいレベルだけど、ちょっとでも良いのは嬉しいな)


 デミオンはわたしが怪我をして以来、ずっと毎日見舞いに来てくれた。閣下と一緒にお茶をしたり、お話ししたり時間が紛れて楽しく過ごせた。

 その気持ちも、今日は上手く伝えたい。


「お嬢様、お似合いです」


 ジルが背後から声をかけてくれる。

 姿見に映るわたしは、季節に相応しい装いだ。


「お嬢様の髪色にも映えますし、深いお色の花柄が秋らしく美しいです」


 鏡には、赤ワインのようなボルドーに、やや黄色をおびた花柄の刺繍がされたドレス姿のわたしがいる。ボレロは紺色にしましょうと皆にお薦めされて、それにしたのだけど、我が家の使用人の目は流石だ。


(センスが良くて、ありがたいです。……それに、デミオン様の瞳のような色で綺麗)


 彼を想って、ほんの少しドキドキする。同時に上品な感じがして、自分が少しだけ賢くなったような心地にもなる。華やかとは評し難い顔立ちなので、誰かに綺麗にしてもらえるのは、純粋に嬉しい。


(……お父様もお母様も綺麗なのに、わたしちょっと髪が真っ直ぐ過ぎて重い感じがするんだよね)


 母がいうには、母の祖父に似ているそうだ。男性ならば短く切ってしまえば関係ないので、羨ましい。


(編み込みする時も、はねてピンピン髪が飛び出ないよう、みんなが頑張ってくれるし)


 今日も髪型には沢山時間をかけた。

 剛毛な髪質ながら丁寧に巻き、流行りのふわんふわんにできなくとも、リボンと一緒に緩めに編み込むことで軽やかにしてくれたのだ。

 リボンはデミオン様の髪色を意識した白に銀の刺繍入りの物。


「本日が、お嬢様の特別な日となりますようお祈りいたします」


 そう告げて、ジルが他のメイドより小さな箱を受け取る。


「……そうね。素敵な日になるよう願ってます」


 わたしはしずしず歩きながら、デミオンと待ち合わせているエントランスホールに向かった。

 

 

 

 

「おお……着るもの次第だな。そうすると、普通に見えるぞ」


 ホールに響いた閣下の声に、わたしはこめかみがぴくりとするがここで文句はいわない。閣下はわたしとデミオンにしか見えない存在だ。わたしはもう学習している。

 それもあってか、髪を払う振りをしてデミオンが肩から落とす。あ、こちらに近づくついでに閣下を蹴り飛ばした。

 ぎゃん! と声を上げるも、閣下はゴム毬のように跳ねていく。


「リリアン嬢、今日も美しく、可愛らしいです。俺の色を身にまとってくれて……嬉しいですよ」


 開口一番に、彼はそういう。

 類い稀な美貌のデミオンにいわれると、そのオーラに圧倒される。腰が引けると同時に、柔らかな声過ぎて腰砕けになりそうだ。


 それから、彼がリボンを渡す。わたしの瞳の色そっくりの緑の刺繍がされた物だ。今日の彼は襟元でひとつにまとめていた。


 だから、彼に少し屈んでもらい襟足にリボンを巻く。左右対称の蝶々結びをする。

 本当は髪を結うのもしたかったが、わたし自身の準備もあるので今回はリボンを結ぶだけ。そのせいか、彼がわたしの手を取り、指先へ唇を触れさせる。


「ぁ……」

「貴女に、今日も感謝を」


 そのまま微笑まれ、わたしは動けなくなってしまう。ならばと、わたしはデミオンにねだった。


「わ、わたしも、デミオン様の頬に触れたいです!」


 出かける前から緊張させられたのだから、そのすべもちほっぺで癒してもらうのだ。全世界ナンバーワンの頬を、わたしに差し出して欲しい。


「ええ、どうぞ」


 そこで、彼が華麗に跪く。

 まるで献上品の如く、彼がわたしの手に頬を委ねる。あれ? これ……妙に倒錯的だと感じてしまうのは、何故だろう。


「リリアン嬢のお好きにしてください」


 目を瞑り、吐息のように吐き出される台詞が、そこはかとなく破廉恥だ。おかしい、わたしはほっぺを撫でるだけのとても健全路線だ。子供でもするスキンシップだというのに、卑猥な気がする。

 背後で、ジルが息を呑むのを感じてしまい、わたしはよりそう感じた。


(だ、だけど……このすべもちほっぺの魅惑に抗え、ない……!!)


 はあ、本日のデミオンの頬も素晴らしい。見舞いの日々でも頬に触れ、閣下に罵られたりもしたが、止められそうにない。

 イケメンの頬、恐るべし!!


「娘、そろそろ出かけんのか?」


 跳ねて戻ってきた閣下の指摘で我に返るまで、わたしはデミオンの頬に夢中になってしまったのだ。

 


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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