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近くの公園でつかまえて

 父が高校生の時に、大工だった祖父が死んだ。事故だった。




 祖父は保険に入っていなかった。我が家は農家である。残ったのは煙草畑と田んぼと子牛ぐらいだった。あまりに唐突な出来事で、我が家は途方に暮れたらしい。




 父は飛行機のパイロットになる夢を諦めた。そして、父は高校を卒業して、家計を助けるために地元の畜産会社に入社した。そこで母と出会った。そして、僕が生まれた。




 僕は長男である。いつも寝ていて、のんびりしていたそうだ。そして、いつも空想にふけっていた。




 その2年後に次男が生まれた。やんちゃで活動的だった。




 さらに、その2年後、三男が生まれた。眼が大きく、肌が白く、外国人みたいな容姿だった。




 そして、父の転勤により、僕らの家族は、実家に祖母を残し転居を余儀なくされた。見知らぬ土地。実家に比べると狭い部屋。帰りが遅い父。寂しさが募る母。その寂しさが伝播し、僕らたち兄弟は泣いた。




「大きいお家に帰ろうよ。ばあちゃんに会いたいよ」


 


僕が言ったらしい。母はそれを聞いて泣いた。




 父が帰宅すると、母と僕たちはまだ泣いていた。父は決心した。実家に帰ろう。父は僕らのために転職した。




 それから、父は変わった。




 休みの日は近くの公園に連れてってくれた。遊具がたくさんあった。追いかけけっこをした。楽しかった。




 別の日、父が仕事から帰ってくると、兄弟三人が父の二の腕にぶら下がる。



「ねえ、回って」



 僕らが催促すると父が回る。メリーゴーランド。僕らはキャッキャとはしゃいだ。



 もう少し兄弟が大きくなると三男がかくれんぼを始めた。父の車が帰ってきた音がする。三兄弟で会議。今日はどこに隠れる。そうだな、この前はお風呂場だろ、今度はこたつの中はどうだ。嫌だよ、こたつの中、変なにおいがするもん、今日は押入れに隠れるよ。三男が座敷の押入れに隠れる。



「帰ったぞ」



 と玄関を開ける父。



「三男は?」



 と父。



「え、知らないよ」



 と僕と次男。



「また隠れたな」



 父はゆっくりと三男を探し始める。茶の間のこたつ、お風呂場、台所、子供部屋、そして、座敷。座敷に入ると、三男の笑いをこらえた声がする。クスクス。



「ここだな」



 座敷の押入れを開ける。



「見つかっちゃった」



 三男は満面の笑み。そして、父に抱えられた。



 そして、小学校の時に家族でディズニーランドに出かけた。その日、ホテルへの帰り道だったと思う。人身事故でプラットホームは大混雑。僕ら兄弟の小さな目線を埋め尽くす乱立した人だかり。待たされた人たちの静かないら立ち。殺伐とした空気を幼い僕らも感じていた。僕たち兄弟はいつの間にか手を繋いでいた。



 電車が到着する。ドアが開く。流れ込む人だかり。流れのまま電車に押し込まれる僕たち家族。殺気立つ人々。押しつぶされ、痛いよ、と叫ぶ三男。三男と繋いだ手が離れそうになる。



三男と手が離れちゃうよ、三男がどっかに行っちゃうよ、嫌だよ、僕たちを押さないで。



痛い。怖い。気持ち悪い。



「小さい子がいるのです。押さないでください」



 と父は怒鳴った。



 電車の中は静まり返った。すると僕たち兄弟の間に空間が生まれて、急いで父のもとへ。僕は覚えている。当たり前のことを指摘した父や僕らが、周りから冷たい目線で見られているのがとても印象的だった。でも、父は格好良かった。



 時は流れた。



 三兄弟は大きくなり、社会人になり、そして、子供ができた。長男はまだ子供はいないが、次男、三男には子供がいる。父にとっての孫である。



 父は仕事が終わると、早めに帰ってきて、孫の相手をした。とてもあやし方がうまい。体力的にきつくても、根を上げない。いつも真剣に相手をしている。そんな父に似たのか、僕も子供のあやし方がうまい。



「じぃじ、おじちゃん、近くの公園に行こう」



 三歳の甥っ子が言う。



「いいよ。行こう」



 僕らは公園に行った。僕らが小さい頃より、遊具が減っていた。



「じぃじ、追いかけっこしよう」



 甥っ子が走り出す。



「まてまて~」



 追いかける父。



 そして、つかまえた。甥っ子ははしゃいでいた。楽しそうだった。



 僕は思った。



 父の夢は飛行機のパイロットから、祖父の代わりに公園ではしゃぐ子供をつかまえる、に変わっていたのだと。




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