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「足元、気をつけてね」


「は、はい…!」


 リヒトに案内されるがまま向かった先は、いつも薬草を採りにいく森だった。

 しかし、いつもと違うこととすればどんどん森の奥へと進んでいることだろうか。

 木々の生い茂った森の中は薄暗い。足元に注意を払いながら、プレセアはリヒトの後を追う。

 あまり歩きなれないでこぼこした道。しかしリヒトは違うらしい。足どりがそれを物語っているのだ。けれど、リヒトは常にプレセアの歩くスピード、歩幅に合わせて歩いてくれた。そんな気遣いに思わず頬が緩む。

 


 そうして漸く薄暗い森の中を抜けた。

 一気に差し込む日差しに眩しさを感じたのは束の間。

 次の瞬間、プレセアの視界に映ったのは空のように青い花畑だった。


 そのあまりの美しさにプレセアは瞬きするのさえも忘れてしまった。

 風が吹き、花々が揺れる。

 そもそも森の奥にこんな美しい花畑があるなんて思いもしていなかった。


 そんなプレセアの反応にリヒトは満足気に笑う。



「想像以上の反応で嬉しいよ」


「とても綺麗な場所ですね…。まさかこんなところがあるなんて...!」


「あまり知られていない穴場スポットなんだよね」


 リヒトはそう言って笑うと手のひらを叩く。

 すると次の瞬間、彼の手にはシートが握られていた。


「こ、これも魔法ですか!?」


 興奮した様子でプレセアが尋ねれば、リヒトは首を横に振る。


「これはどちらかと言うと手品かな」


  そう言って手にしていたシートを広げる。


「テーブルとか椅子とか出せる魔法があれば良かったんだけど。そこまで便利なものではないんだよね」


「けど、道を案内してくれる魔法はありましたよね?」


「うん。一応、魔法書が存在してね。それに記されている通りにすれば魔法は使えるんだけど……如何せん恐れられた力だからね。もう残っている魔法書は極わずかなんだよ。まぁ、残っていたとしても相当鍛錬を積まないと使えないと思うけど」


 魔法使いという存在を父の影響で知っているプレセアでも、その魔法の源が魔法書であるということは初めて知る事だった。

 そしていとも簡単に使用できるものだと思っていたが、それもどうやら違うらしい。

 何事も練習を積み重ねていくと上達していく。どうやら魔法もそれと同じらしい。



「まぁ、魔法のことは置いといて。早速食べてもいい? 実はお腹ペコペコなんだよね」


「結構歩きましたもんね。はい、早速頂きましょう!」



 リヒトがキラキラとした瞳でその様子を見てくるので、少し恥ずかしさを覚えつつ、プレセアはバスケットを開ける。


 そうすれば綺麗に具材が挟まれたサンドイッチと……お世辞でも綺麗とは言い難い少し歪な形をしたサンドイッチが姿を現した。こちらは間違いなく、プレセアが作ったものだ。

 具材は野菜がたっぷりな物から、卵やチーズを利用したもの。またやフルーツサンドにも挑戦してみたりした。


 リヒトは食事に無頓着故に、特に好みが無いらしい。それどころか胃に入れば全て同じ……という感性を持ち合わせている。

 嫌いな物が無いのはいいことなのだが、如何せん好きな物が無いというのも困りものだった。しかし、裏を返せば彼は何でもとても美味しそうに食べてくれるのだ。


「……もしかして今日はプレセアさんも作ってくれたの?」


「え!?」


 予想だにしない問いにプレセアは思わず声を上げて驚いてしまった。

 いつもはメイドに任せて作ってもらう料理たち。しかし、今日は違う。プレセアなりに手伝いをしたものだ。

 確かに、メイド達が作ってくれた物に比べれば形は歪だろう。

 しかし、それだけでプレセアが作ったもの……と見破られてしまうとは思わなかった。


「指。怪我してるみたいだから。本で切ったのかな……とは最初思ったけど。それにしては多いし、処置がしっかりしてあるから」


 なんという観察眼だろうか。

 にしても……不慣れな料理をした事がリヒトに知られ、恥ずかしさで顔に熱がたまるのを感じた。


「にしてもどうして急に料理を?」


「そ、それは……」



 __貴方に、食べて欲しくて。

 __料理ができるようになれば、リヒト先輩の力になれると思ったから。



「こ、好奇心ですっ! メイドと一緒に作ったものなので、味は保証します! 形が歪なものは私がたべますので…!」


「もしかしてこれはプレセアさんが作ったもの?」


 リヒトが指さしたサンドイッチは、間違いなくプレセアが作ったものだった。

 そんなサンドイッチへリヒトは手を伸ばす。そしてパクッと口に含んだ。

 その行動にプレセアは瞳を瞬かせた。あまりに一瞬の出来事だった。


「すごく美味しい! プレセアさん、料理本当に初めてなの?」


 そう言って微笑み、また一口、一口……とどんどん咀嚼し、嚥下していくリヒト。

 本当に美味しそうに食べるものだから、彼の言葉に何の嘘偽りも無いと分かる。


「まだまだたくさんあるので、いっぱい食べてくださいね」



 こんな幸福な時間がもっと長く続けばいいのに。

 プレセアはリヒトを見つめながら、そう心から願った。




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