アリアside
母が急死した。
そんな知らせが届いて私は……愕然とした。
今まで頑張ってきた苦労はなんだったのだろう?
何のためにこんな学校に入ったの?
これから何を希望にして生きていけばいいの……?
葬儀も何もかも終わったその日は、激しい雨が降り注ぐ日だった。
まるで私の心情を描くように降る雨に……私は苦笑した。
大好きな母の死を受け入れられず、私はただ雨に打たれながら空を見上げた。大嫌いな貴族に溢れた学校。そこに四年間も通うなんて地獄も同然だった。
……彼女に出会うまでは。
「風邪、引いちゃいますよ」
そう言って自分が濡れることをお構い無しに私に傘を差してくれた女の子。
それが……プレセアとの出会いだった。
とにかく誰でも良かった。
この悲しみを……誰かに受け止めて欲しかった。
村の人達は、母の死を知った時なぜか安堵した様な表情を浮かべていた。
その表情を見た時、怒りが湧いた。
だから私は彼等を突き飛ばして、村を飛び出した。もう引越の準備は終わっていたし、後は身一つで王都へ行くだけだったから。
もう絶対に関わる事がないであろう村にさようならも告げずに、私は王都へと発った。
お葬式は直ぐに終わって、ただ一人私は呆然と母のお墓を見つめていた。
そんな私に声を掛けてきたのが、プレセアだったのだ。
見ず知らずの女の子。
けど、話を聞いてくれるなら誰でも良かったから……私は子どもの様に声を上げ、泣きじゃくりながら話をした。
そんな私にプレセアは……何も言わずにただ傍にいてくれた。
その後、プレセアもまた幼い頃に亡くなった母親のお墓参りに来ていたという事を知った。
お互い幼い時に母親と離れ離れになってしまったこと。母親が大好きで、まだその面影を追っていること……どこか似ている境遇にいる事を知った。
けど………偶然出会った女の子が、同じ学校に通う同級生で……まさかクラスメイトになるとはその時の私は思いもしなかった。
プレセアは私を見るなり、嬉しそうな笑顔を浮かべて駆け寄ってきてくれた。
そして私の名前を呼んで、大丈夫? なんて心配の言葉をかけてくれた。
大丈夫だよ、と返事をすればまるで自分の事のように安心した様な表情を浮かべていた。
それから気づけば、私はいつもプレセアと一緒にいた。
とても美しい容姿と所作をしていると初めて出会った時から思っていたけど、プレセアはやはり貴族だった。
母を狂わせた大嫌いな貴族。
プレセアもそうなのだと分かった時、悲しみや怒りよりも私の中に溢れた感情は……。
「プレセア。大好きだよ」
「急にどうしたの?」
「ううん。伝えたくなったの」
私はプレセアの腕に自身の腕を絡める。
密着する体。
感じる体温。
自然と頬が緩む。
そんな私の言動にプレセアは少し恥ずかしそうにしながらも、受け入れてくれた。
大好きなプレセア。
誰よりも大好き。
……けど、プレセアの一番は私じゃないみたい。
「ルイス。あの、今度のお休みの日のことなんだけど」
「ごめん。生徒会が今忙しくて。また今度でいいか?」
プレセアの視線の先にいる婚約者。
彼の存在が、私は一番気に食わなかった。
そもそも、プレセアもあんな奴のどこがいいの? プレセアを放ってばかりいるのに。それに私知ってるよ。同じ生徒会の女の子と仲良く話して遊びに行く約束を交わしてたの。
きっとあの男はプレセアのこと眼中に無いんだと思う。
話を聞く限り、幼馴染みたいだし、長い時間共に過ごすと異性として感じられなくなるのは正直分かる。だって私も同じ孤児院の男の子達を異性として見られなかったし。
あんな男のどこがいいの?
どうしてそんな男のことばかり考えるの?
だって、プレセアには私がいるじゃない。
そう思った瞬間、私の中でずっと忘れかけていた感情が再び芽生えた。
そんなにあの男が大切なら……あの男を私が奪ったら、プレセアは私のこと……もっと見てくれる? ずっとずっと……私のことを考えてくれる?
母の様に声を荒らげ、愛を与えてくれるのかな?
それからの私の行動は早かった。
歯止めが利かなかったの。
だって私にはプレセアが必要だから。
ルイスからの愛情を得るのは本当に簡単だった。
ひ弱で愛らしくて、甘え上手な……そんな可愛い後輩を演じて見せた。
そうしたら彼はコロッと私に落ちてくれた。本当に滑稽だと思った。こんな私に恋するなんて愚かな生き物だと思った。
けど……!
これでプレセアの一番は私になった。
母のようにプレセアも私に愛を伝えてくれるかな?
___けど、孤児院で祈りも捧げず、女神様なんて馬鹿らしいと思い、内心笑っていた罰が回ってきたのかな?
ルイスの告白を受けて以降、プレセアは忽然と姿を消してしまったのだ。




