表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/33

14


「駄目じゃないか。お客様を驚かせては」


 今度は何処からか心地よい柔らかな声が聞こえてきた。

「今度は何!?」とプレセアが身を潜めれば、カウンターの奥のカーテンが開く。

 次々に起こる現象に、プレセアの頭の中は混乱状態だった。


「私の飼い猫がとんだ失礼をしてしまったみたいだね」


 そう言ってカーテンの奥から姿を現したのは、淡い緑色の肩まで程の髪と鮮やかな金色の瞳を持った幼い少女……否、少し人間と断言してよいのか分からない。なぜなら彼女の耳は人間とは違って横に長く、そしてとんがっているのだから。

 少女は一見十二歳程の少女に見えるが、妙な落ち着きと不思議な雰囲気を漂わせているように思う。


「立てるかな?」


 手をさし伸ばされ、プレセアはその手をとる。

 少女にしては力強い力で引き上げられ、思わずバランスを崩しそうになる。


「リヒトから話は聞いているよ。こっちだ、いらっしゃい」


「は、はい」


 手を引かれ、少女の後についていく。

 そんなプレセアの後を、あの子猫だったはずのものがついてくる。


 歩きながら少女が言う。


「私の名はエリン。この古本屋の店主さ。で、その子はロキだ」


「プレセアと申します。リヒト先輩の後輩で、今は研究のお手伝いをさせて頂いています」


「……まさかあの坊が手伝いを頼むなんて驚いたけど、誰かを頼れる様になったのも成長の一つだな。よろしく、プレセア。君と会えて私は嬉しいよ」


 エリンの表情は後ろからでは見えないが、柔らかな声から確かに言葉通りの思いを持っているのだと分かった。


 エリンがカーテンを開ければ、そこに広がる光景にプレセアは唖然とした。

 なぜならそこには螺旋状の階段が続いていたのだ。そして、その周囲を囲むようにまた大きな本棚が並んでいるのだ。

 あの外観からは想像のつかない店内の次は、無限に続くような螺旋状の階段と本棚。

 まるで魔法の世界のようだと思っていると、ロキが弾んだ声で言う。


「驚いただろ? これね、エリンがぜーんぶ集めたんだぜ」


「こんなにたくさんの本を!?」


「まぁ、伊達に長生きはしてないからな。完全な趣味ではあるが」


 それから階段を降りて行く。

 一体どこまで続くのだろうと思っていると


「あった。これだな」


「なぁ、エリン。わざわざ降りてくる必要あったのか~? いつもなら用意して渡すだけじゃん」


「まぁ、そうした方が効率はいいな。けど、せっかくの新しいお客様だ。このお店のことを知ってもらいたいじゃないか」


 エリンは一冊の本を手に取るとプレセアへと差し出した。

 とても古びた本だ。

 頁は黄ばみ、表紙もかなり傷んでいる。

 タイトルは……読めない。初めて見る文字が記されていたのだ。


「ここは色々な本がある。プレセアは読書は好きか?」


「はい、大好きです!」


 反射的に答えてしまい、プレセアは少し恥ずかしくなった。

 しかし、嘘偽りのない答えである。


「……うん。曇りない美しい瞳だ。プレセア、ここには沢山の本がある。好きなものを持っていくといい」


「い、いいんですか?」


「あぁ。ロキ、探すのを手伝ってやれ。あまりにも数が多すぎるからな」


「分かってるならいい加減整理しろよな~」


「馬鹿を言え。集めるのに何千年かかったと思っているんだ。まぁ、とにかくだ。プレセア、少しゆっくりしていくといい。坊も直ぐには戻れんだろうからな」


エリンはそう言い残すと店の方へと戻って行ってしまった。


まさか本を譲ってもらえることになるとは…。これだけ多くの本があるのだ。きっと……いや、間違いなく心躍る本と運命的な出会いをするのは間違いないだろう。


しかし、一つ気になることが出来てしまった。


(直ぐには戻れないだろう、ってエリンさんは言ってたけど……何かあったのかな)


少し……胸騒ぎがした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ