優先するのは
ご覧いただき、ありがとうございます!
俺としゆのさんは、バイトが終わったその足でしゆのさんの実家に向かった。
ご両親に相談して、色々と段取りがつき次第、俺は和也と話をするつもりだ。
「それで……うちのお母さん達にどんな話するの?」
「うん……さすがに和也の行動は目に余るから、場合によってはお母さんやお父さんを通じて、警察に被害届を出してもらおうかな、って」
「ああー……」
俺がそう説明すると、しゆのさんは納得した表情を浮かべる。
「確かに塔也の弟がやってること、ほぼストーカーだし」
「うん。それに、俺達のバイト先を知ってるのだって、クラスの女の子に聞いたってアイツは言ってたけど、それも無理があると思ってる」
「うん……普通に考えて、知ってる訳ないし」
そう、俺達は学校の誰にも詳しいバイト先について教えたことは一度もない。
それは、後藤くんや古賀さんにだってそうだ。
しゆのさんに関しては、まあ同じ学校の瑞希さんがいるからそこからってこともあるけど……でも、今日の瑞希さんの話しぶりだと、その可能性も薄いかな。
「うん、アタシが喫茶店でバイトしてて、一度もうちの学校の生徒が来たことないから、やっぱりバイト先が知られてるってことはないと思うし」
「だとすると……俺達のバイト先を知る方法なんて一つしかないよね」
「? それって……」
「ああ……アイツが、放課後に俺達の後をつけてたってことだよ」
うん、もうそれしか考えられない。
転校してきたばかりのアイツに、そんなこと教えるほど仲の良い生徒がいるとも思えないし、そもそも他の生徒達は、俺の話題なんてしたくもないだろうからな。
「うわあ……それってガチでストーカーだし……」
「そうだね……しかも、それを血の繋がった兄弟がしていたなんて……」
そう考えると俺は頭が痛くなり、思わずこめかみを押さえる。
「だから塔也は、うちの両親に相談するんだね?」
「そういうこと……って、着いたね」
家に着くと、しゆのさんが玄関のドアを開ける。
「ただいまー! ホラ、塔也も!」
しゆのさんは靴を脱ぐと、俺にも上がるように促した。
「お、お邪魔します」
そう言って家に上がろうとして。
「えー……塔也くん、そこは『ただいま』って言って欲しかったかな」
と、苦笑するお母さんが立っていた。
「あは! ただいま!」
「そ、その、ただいまです」
「おかえり二人共! さあさ、早く中に入りなさい!」
お母さんが笑顔で俺達をリビングへと通してくれた。
「やあ! いらっしゃい!」
リビングでは、お父さんが笑顔で出迎えてくれた。
「それで二人共……今日は急にどうしたの?」
挨拶もそこそこに、ソファーに座った俺達にお母さんが問い掛ける。
「その……実は……」
俺はお二人に、和也についての相談を持ちかけた。
俺のバイト先やアパート、特に、今日はしゆのさんのバイト先にまでやって来たことも含めて。
「……それで、さすがにこの状況はまずいと思いまして……」
「そう……」
俺も含め、四人が視線を落とす。
それだけ、今回の件は深刻だってことだ。
「塔也くん」
「は、はい」
「それで……君はどうしたらいいと考えているんだい?」
お父さんが視線を俺に戻して尋ねる。
「はい……ここに来る途中、しゆのさんにも話したんですが、こうなったら“被害届”を出して未然に防ぐしかないのかな、と……」
「そうか……一応君にとっては弟になる訳だけど、大丈夫かい?」
そう言いながら、お父さんが心配そうに俺の様子を窺う。
だけど、俺の答えは一つだ。
「はい、構いません。俺が何よりも優先するのは、しゆのさんだけですから」
「塔也……」
「……うん、分かった。じゃあ早速明日にでも警察に行って被害届を出してくるよ」
「ありがとうございます……そして、申し訳ありません……」
俺はお二人に深々と頭を下げた。
俺の弟のせいで、大切なしゆのさんを危険な目に遭わせただなんて、正直、謝って済む話じゃない。
だけど。
「塔也くん、君がそんなに思い悩む必要はないわ。悪いのは君じゃなくて、君の弟なんだから、ね?」
「そうだよ塔也くん。それに、君だってつらいんだ。だから、君が責任を感じる必要はないんだ。だって……君は、僕達の大切な“家族”なんだから」
「っ! ……ありがとう、ございます……」
ああ……本当に……。
「あは……塔也がアタシのこと想ってくれるように、アタシ達だって塔也のこと、想ってるんだし……」
「うん……そうだったね……」
そっと俺の膝に置いたしゆのさんの手を、俺はキュ、と握った。
すると。
「さあさ! そんなことより、あなた達も晩ご飯まだでしょ? せっかくだから食べて行きなさい!」
「あは! じゃあアタシも晩ご飯手伝うし!」
しゆのさんとお母さんの二人が仲良くキッチンへと向かった。
俺はそんな二人を眺めていると。
「まあそれに、これなら……」
二人を眺めていた時、ふいにお父さんが呟く。
「? お父さん?」
「ん? ははは、ああいや、ただの独り言だよ」
俺が反応すると、お父さんはそう言って口の端を少し持ち上げた。
……お父さんは何か考えがあるようだけど、俺はそれ以上あえて聞かなかった。
だって、お父さんは俺やしゆのさんのために考えてくれていることは、その優しい瞳からも分かるから。
それから俺達は、四人で晩ご飯を食べながら楽しい時間を過ごした。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の朝更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




