バイト先への来訪
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——キーンコーン。
今日も一日の授業が終わり、俺としゆのさんは帰り支度を始める。
とりあえず、朝の件以降、和也が絡んでくることもなかったので、一安心……とはいかないか。
なにせ、アイツもうちの学校の生徒になったんだ。今後いつ同じように絡んでくるか分からないしな。
とはいえ。
「あは! 塔也、行こ!」
しゆのさんの笑顔を曇らせるような真似をしようっていうんなら、俺は絶対に許さないけど。
「? 塔也?」
「ああいや……じゃ、行こうか」
キョトンとするしゆのさんにニコリ、と微笑みかけると、俺はカバンを持って一緒に教室を出た。
で、下駄箱に向かって廊下を歩いていると。
「「…………………………」」
下駄箱の傍で女子生徒と嬉しそうに談笑している和也の姿があった。
まあ、楽しそうで何より。
だから、これ以上俺達に関わってくるなよ。
俺としゆのさんは、そんな和也を無視しながら、その横を通り過ぎる。
和也も和也で、俺達に一瞥をくれることもなかった。
「(あは、朝の塔也の言葉が効いたのかもだし)」
「(かもね)」
俺としゆのさんは小声でそう言うと、クスクスと笑い合った。
俺達は靴に履き替え、校門を出ると。
「じゃ、しゆのさん頑張って!」
「あは! 塔也こそ!」
俺達はハイタッチを交わし、しゆのさんは喫茶店へ、俺は運送会社へそれぞれ向かった。
◇
「ふう……」
一通り荷物の仕分けを終え、俺は一息吐く。
というか、お父さんの会社の荷物が日に日に増えてるなあ……。
まあ、それだけ仕事が好調だって証拠なんだろうけど。
「おう! 塔也、ご苦労さん! ちょっと事務所でゆっくりしろよ!」
支店長が豪快に笑いながら、俺に休憩するよう促す。
じゃあ……お言葉に甘えるかな。
俺は支店長と一緒に事務所に向かい、椅子に腰かけてペットボトルのお茶を飲む。
「ぷは! 美味い!」
うん、一仕事終えた後に飲むお茶はやっぱりいい。
「ハハハ! お前もすっかりうちの仕事が板についたな! ところで、高校卒業したら真剣にうちの就職考えてみないか?」
「え?」
支店長からの言葉は意外なものだった。
まさか、そんな誘いを受けるなんて……。
「ま、その前に大学があるか!」
「あ、あはは……」
支店長にバシン、と背中を叩かれ、思わず俺は苦笑する。
大学って……俺にはそんな金、ないからな……。
すると。
「おや、いらっしゃい!」
「お父さん!」
「はは、やあ」
何故かお父さんが事務所にやって来た。
「佐久間社長、今日はどんなご用件で?」
「ああ、最近仕事が好調で、配送についての契約を見直そうかと思いまして。ほら、今後の計画なんかもありますから」
「ああ、そうですかい!」
お父さんの言葉に気を良くした支店長が、お父さんを応接室へと案内する。
「それじゃ俺は仕事に戻ります」
そう言って、俺はまた倉庫に向かおうとして。
「あ、そうそう。塔也くん」
「はい、なんでしょう?」
お父さんに呼び止められたので、俺はお父さんの傍に寄ると。
「例のアパートの件、上手くいったよ」
そう言うと、お父さんがニコリ、と微笑んだ。
「あ、ありがとうございます!」
俺はお父さんに深々と頭を下げる。
やった…! これで、これからもしゆのさんとあの部屋で一緒に暮らせるんだ!
「はは、やったね!」
「はい!」
俺はお父さんとグータッチをすると、小躍りしながら倉庫へと向かった。
「さあ! 仕事の続きだ!」
と、張り切ってはみたものの……うん、配送用のトラックが来ないことには、まだ特にやることないなあ……。
あ、そういえば……しゆのさんはもうこのこと、知ってるのかな……。
俺はポケットからスマホを取り出すと。
『アパート、これからも暮らせることになったよ!』
そんなメッセージとスタンプを、しゆのさんのRINEに送った。
はは、しゆのさんも大喜びするだろうなあ。
今日はお祝いだ! とか言って、ものすごい晩ご飯になりそうな予感がする。
すると、ちょうどトラックが倉庫に横付けされた。
よし! 荷物を積み込むか!
俺は意気込んで荷物を運ぼうと……「おーい、塔也!」……って、支店長!?
「ど、どうかしましたか?」
「あー……何つーか、お前の弟とかいう奴が来てるぞ?」
「え……!?」
アイツ、どうやってここを!?
俺は支店長と一緒に事務所へと向かうと。
「やあ、兄さん」
そこには、確かに弟の和也がいた。
「和也……なんでお前がここに!? というか、どうしてお前が俺のバイト先を知ってるんだ!?」
「あー、うちのクラスの女子に教えてもらったんだよ。ていうか、本当に兄さんって学校で有名人なんだな」
和也はニヤニヤと嗤いながらそう話した。
だが、うちの学校の連中も、なんで俺のバイト先を……。
「まあ、僕も教えてもらっただけだから、その子がどうして知ってるのかは分からないけど」
「…………………………」
オイオイ……なんで勝手に俺の情報が流出してるんだよ……。
ま、まあ、それは今は置いておくか。
「それで……お前は一体何の用だ?」
「やだなあ、学校だと兄さんの弟だって思われたくないから、わざわざバイト先に来たんじゃないか」
悪びれもせずにそんなことをのたまう和也。
……色々と言いたいことはあるが、俺も時間がもったいない。
「そうか。俺は仕事中だし、お前と話すこともない」
話は終わりだとばかりに、俺は踵を返して倉庫へ戻ろうとすると。
「えー、あれだけ家の中引っ掻き回して、なんの責任も取らないワケ?」
「…………………………は?」
コイツは何を言ってるんだ?
まあいい……無視して仕事に戻ろ……って。
「……和也、離せよ」
「ダメだよ兄さん。いい加減、自分の立場分かってよ」
「は? お前の言う立場っていうのは何だ?」
「あはは、そんなの考えたら分かるよね?」
そう言うと、和也はニタリ、と口の端を吊り上げた。
それは、一応兄である俺から見ても醜悪なもので。
「まあ、弟だか何だか知らねーが、コイツは仕事中で暇じゃねえんだ。悪いが帰ってくんねえか?」
見かねた支店長が、クイ、と顎で事務所の出入り口を示した。
「イヤイヤ、家族の話のほうが大事ですから。そんなの後回……「だから、テメエの事情なんか知らねえんだよ!」……う……」
支店長に一喝され、和也がたじろぐ。
その時、ポン、と俺の肩を叩かれた。
「あ……お父さん」
「ははは、あれが塔也くんの弟?」
見ると、お父さんが俺の肩に手を乗せたまま、興味深そうに和也を見ていた。
「は、はあ……」
「ふうん……彼、塔也くんと違って、あまり頭が良くはなさそうだね」
「はあ!?」
お父さんの言葉に怒ったのか、和也が顔を歪めた。
まあ、今までずっと俺より上の立場にいたんだ、和也にとって、そう言われるのが何よりの屈辱だろうな。
「だって、支店長の言ってる意味が全然理解できないだなんて、小学生以下なんじゃないかな?」
「…………………………フン」
諭すようにお父さんに言われ、バツが悪くなった和也は、鼻を鳴らして事務所の出入り口へと向かう。
「……兄さん、覚えてなよ?」
そんな捨て台詞を残した和也に、俺は手で払う仕草を見せた。というか、そんなこと知るか。
で、やっと和也は出て行った訳だが……。
「……お二人共、すいませんでした……」
「いやあ、いいんだけどよ……とても塔也の弟とは思えねえくらいバカだな」
「本当だね……いや、僕だったらあんなの、絶対に採用しないね」
「言えてる!」
「「わははははははは!」」
そう言って笑い合う支店長とお父さん。
だけど……俺は、最後に言った和也の言葉が何故か耳に残っていた。
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次回は今日の夜更新!
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