全部終わったら
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「ごちそうさまでした!」
「あは! お粗末様でした!」
夕食を終え、俺と萩月さんは手を合わせた。
うん、今日も最高の晩ご飯でした。
というか。
「~~♪」
今日のお母さんの言葉が頭から離れず、俺は鼻歌を歌いながら食器を重ねる萩月さんを見つめる。
俺のこと……“世界一”、だって。
すると。
「あ、あは……なんだか今日、池っちとよく目が合うね……」
「そ、そうかな……」
いかん、意識しすぎるせいか、どうしても萩月さんを目で追ってしまうから、必然的に目が合ってしまう訳で……。
「ん、んふふー。そっかー、池っちは可愛いアタシのことがそんなに気になるか~」
萩月さんはそう言いながら俺の隣に来ると、からかうように肘でウリウリと俺の二の腕を突いた。
だけど、萩月さんのその頬は赤くなっていて……。
「あ、う、うん……」
俺はといえば、そんな萩月さんが愛おしくて、どうしても意識してしまって、つい素直に返事をしてしまった。
というか、顔が熱くて仕方がない。
「あうう……も、もお……池っちのバカ……」
はは、確かに俺、バカ、だな……。
だって、萩月さんにとって俺はお母さんの“代わり”でしかないの、分かってるのに、それでもひょっとしたらって、そう思っている自分がいるんだから……。
「あ、そ、そうだ。萩月さん、今度の土曜日なんだけど、お互いのバイトが終わったら、時間が欲しいんだ」
「えええええ!? どど、どうしたの……?」
俺がそう告げると、萩月さんは急に正座して背筋をピン、と伸ばすと、どもりながら尋ねてきた。
「うん……お母さん達と、話をしよう……」
「っ!」
萩月さんは、一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたかと思うと、すぐに緊張した面持ちになった。
「……池っちも、一緒にいてくれる、んだよね……?」
「ああ」
俺がそう返事すると、萩月さんは少し俯く。
そして。
「……分かった。お母さん達に会う、し……」
「うん……」
萩月さんは膝に置いた両手をギュ、と握り締めると、口を結んで頷いた。
「あ、あは、じゃあ、お母さんに連絡しないとだし……て、あ……」
そこまで言って、萩月さんは思い出したかのように表情に影を落とした。
電話もメールも、拒否していたことを思い出したんだろう、
「ああ、連絡先ならうちの会社と取引してるし分かるから、俺から連絡しておくよ」
「あ、う、うん……」
……今は、お母さんと連絡先を交換していることは伝えないほうがいいだろう。
変に誤解されでもしたら、それこそ萩月さんは心を閉ざしてしまいそうだから。
「そ、それじゃ、俺は後片づけするよ」
「ア、アタシも一緒にするし……」
「そ、そう……?」
「うん、そう……」
俺と萩月さんは一緒に食器をシンクへと運び、いつものように並んで食器を洗う。
そして、俺は隣の萩月さんが気になって、やっぱり何度も見てしまう訳で……。
「い、池っち……そ、そんなに何度も見られると、その……は、恥ずかしいし……」
「え!? あ、い、いや、その……」
うう……また指摘されてしまった……って、ちょっと待てよ?
俺が萩月さんを見てるってこと、なんで彼女はそう何度も気づいたんだ?
「あ、あの……萩月さん……?」
「っ! み、見ないで……あ、ち、ちが……」
萩月さんは耳まで真っ赤にしながら、顔を手で覆い隠した。
あ……可愛い……。
俺は無意識のうちに萩月さんへと手を伸ばそうと……して、ギリギリ踏み止まった。
あ、危ない……。
「あう……」
一方で、萩月さんはガッカリした様子で、シュン、と俯いてしまった。
と、とにかく気をつけないと、な……。
その後、俺と萩月さんはお互い俯いたまま、無言で食器を洗い続けた。
◇
次の日、俺はバイトの休憩時間を見計らって、お母さんへと電話を掛ける。
——プルルルル……。
『はい、佐久間です』
「あ……池田です」
『塔也くん! で、電話をくれたってことは……』
「はい、萩月さんにも了承してもらいました」
『っ!』
俺の言葉に、お母さんの息を飲む声が電話越しに聞こえた。
『そ、それで……いつ……?』
「今度の土曜日、俺と萩月さんのバイトが終わってからなんですが……大丈夫、ですか?」
『土曜日……ええ、もちろん。私もあの人も、必ずその日は空けるわ』
「ありがとうございます。では、その日は十九時半頃、先日のカフェで待ち合わせってことで」
『ええ、分かったわ。あ、それと……』
「? はい」
『その日……塔也くんさえ良ければ、一緒にいてくれないかしら……』
お母さんからの提案は意外なものだった。
俺のほうから切り出そうと思っていたのに、まさかお母さんからも頼まれてしまうとは……。
「はい。俺もちょうど同席をお願いしようと思っていました」
『あら……それは、しゆのに頼まれたの?』
「いえ……俺の意志です……」
『そっか……本当に、あの子は幸せな子ね』
お母さんの言葉に、俺は胸が熱くなる。
だけど。
「いえ……俺は、萩月さんに一生かかっても返しきれない程のものをもらったんです……だから……」
『ふうん……ふふ、そういうことにしておくわね』
そう言うと、お母さんはクスクスと笑った。
……くそう、バレバレだ。
確かに、俺は萩月さんに一生かけても返せないものをもらった。
だけど、それ以上に……俺は、萩月さんが好きなんだ。
俺は、彼女が幸せになるためなら、どんなことだってしてあげたいんだ。
だから……。
「……それでは土曜日、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」
俺はスマホの通話終了のボタンをタップすると、ふう、と息を吐いた。
萩月さん……俺が必ず、君の居場所を取り戻してみせるから。
たとえ……君が俺の傍から離れることになっても。
◇
「あ、あは……池っち……」
土曜日の夜になり、俺は喫茶店に萩月さんを迎えに来た。
これから一か月振りに両親に会うためか、緊張しているのが窺える。
「そ、それじゃ、支度してくるし」
「うん」
萩月さんは急いでバックヤードへと向かう。
「い、池田くん……萩月さんと、何かあったの……? 今日一日、ずっと様子がおかしかったんだけど……」
マスターの娘の瑞希さんが、おずおずと尋ねてきた。
「大丈夫。明日になれば、すっかり元通りだから」
「だ、だけど……「瑞希、やめなさい」……あうう……」
マスターに咎められ、瑞希さんが口ごもる。
「あは、池っちお待たせ」
「うん、じゃあ行こうか。マスター、失礼します」
「うん、お疲れ様」
俺達は喫茶店を出ると、待ち合わせ場所のカフェへと向かう。
その道中、俺と萩月さんは無言のままだ。
そして、いよいよカフェの前にたどり着いた。
「ねえ、池っち……」
「ん?」
「アタシに、勇気をちょうだい? アタシが、ちゃんと自分の想いを二人に伝えられるように……」
俺は、萩月さんの想いに応えるように、俯く彼女の手をそっと握る。
「萩月さん……俺が、君の傍にいるから。君の手、ずっと握っているから」
「あは……ありがとう。やっぱり池っち、だよ」
「はは、何それ」
「ん……全部終わったら、その……話すし……」
「そっか……俺も、全部終わったら、君と話がしたいんだ……」
「あは、じゃあ一緒だし」
「だね」
俺は萩月さんと一緒に、カフェの扉をくぐる。
萩月さんを……萩月さんの心を、救うために。
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