ギャルは勉強がキライです
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今回から新章突入です!
「お疲れ様でしたー!」
「おう! お疲れさん!」
今日のバイトが終わり、支店長はじめ皆さんに挨拶して事務所を出る。
ポケットからスマホを取り出して画面を見ると……おっと、もうこんな時間だ。
少し急がないとな。
俺は少し足早に住宅街の中を通り抜ける。
そして。
——カラン。
「いらっしゃ……あは! 池っち!」
「萩月さん!」
喫茶店に着くと、テーブルを拭いていた萩月さんが笑顔で出迎えてくれた。
「やあ、いらっしゃい」
「マスター、こんばんは」
カウンターの向こうでコーヒーを入れる器具の手入れをしているマスターもにこやかに挨拶してくれた。
「あー……池田くん、待ってた……待ってたよお……」
そして、マスターの娘さん……瑞希さんが、それはもう九死に一生を得たかのような表情を浮かべ、その場に崩れ落ちるかのようによろよろと壁にもたれた。
ああ……今日も萩月さんのプレッシャーにやられたかー……。
「あは! 店内の掃除ももう少しで終わるから、チョット待ってて!」
そう言うと、萩月さんがテキパキと掃除をしていく。
さて、それじゃ……。
俺はマスターに断りを入れてバックヤードへと行き、床清掃用のモップを取り出すと。
「萩月さん、俺も手伝うよ」
「ダメだし! 池っちだってバイトで疲れてるじゃん!」
萩月さんはほんの少し怒った様子で俺を窘めるが、当然、俺はそれを聞き入れるつもりはない。
「いや、手伝う。だって、そうすれば早く一緒に帰れるしね」
そう言って、俺は床の清掃を始める。
「あうう……もう、池っちのバカ」
萩月さんはというと、口を尖らせてブツブツ言うが、それでも少し頬を赤らめている時点で喜んでくれているのは丸分かりだったりする。
こういうところ、本当に萩月さんは可愛いなあ。
「池田くん、助かるよ。瑞希、店の入口に閉店の看板を掛けておいてくれ」
「了解!」
そして瑞希さんは嬉しそうに入口へと向かって行く。
まあ、彼女も早く萩月さんに帰って欲しいもんなあ。
と、手分けして清掃作業をしたから、ものの十五分で全て終わった。
「「お疲れ様でした!」」
「ああ、二人共お疲れ様」
「お疲れ様でしたー!」
マスターの労いの言葉と瑞希さんの早く帰れオーラを受け、俺と萩月さんは喫茶店を出た。
「さて、それじゃあスーパー寄って帰ろうか」
「あは! うん!」
萩月さんは笑顔で返事をすると、俺の腕にしがみついた。
「えーと……萩月さん?」
「んふふー、今日は寒いから仕方ないし!」
そう言って、悪戯っぽい微笑みを浮かべる萩月さん。
くうう……もちろん嬉しいんだけど、恥ずかしいし、その、きょ、今日もその胸の感触が俺の腕に……!
俺は何とか萩月さんに悟られまいと、顔を伏せて誤魔化しながらスーパーを目指した。
◇
「ごちそうさまでした!」
「あは、お粗末様でした」
いや、今日も最高の晩ご飯でした。
ちなみに今日のメニューは、萩月さん特製のロールキャベツとほうれん草のお浸しだ。
萩月さんには、バイトも始めたんだし晩ご飯もスーパーのお惣菜なんかでいいと言ったんだが、彼女は「池っちにはアタシの手作りを食べさせたいし!」と、絶対に譲らなかった。
い、いや、嬉しいかと言われれば最高に嬉しいが、それでも彼女の身体が心配になってしまうのは仕方がないと思う。
だから、せめて後片づけはと、俺が全部やることにした。
ということで、俺は食器をシンクへと運ぶと、スポンジに洗剤を付けて食器を洗う。
「もう……ホントに池っちは頑固だし」
俺の傍に来た萩月さんが、口を尖らせてそんなことを言う。
つまり、彼女は俺が一人で後片づけをすることに不満なのだ。
だけど、そんな萩月さんに俺は声を大にして言いたい。
「萩月さんも頑固だからな」
「ア、アタシは別に頑固じゃないし! むしろそれは池っちだし!」
「いいや! 萩月さんのほうが頑固だ!」
「池っち!」
「萩月さん! ……って、コレ、何の言い争いだ?」
「あは! 確かに!」
「「あははははははは!」」
そう言って、俺達は今日も声を出して笑い合う。
はあ、こんなに幸せでいいんだろうか……。
でも。
「……この後片づけが終わったら、萩月さん……分かってるよね?」
「……ね、ねえねえ池っち、やっぱ明日からにしない? ホ、ホラ! 池っちも疲れてるでしょ? ね? ね!」
はい、萩月さんが縋るような瞳で俺を見つめるが、俺はこれだけは絶対に譲らないからな。
「ダメ! もうすぐ学年末テストだし、赤点取って補習受けたくないだろ?」
「あうう……そ、それはそうだけど……」
萩月さんは悲しそうな表情を浮かべ、少し俯く。
だが。
「ダメなものはダメ!」
「池っちの鬼~!」
何と言われようが、そこだけは譲れない。
だって。
「俺は、萩月さんと楽しく春休みを過ごしたいんだ! だから、ちゃんと勉強するの!」
「あうう……その言い方は反則だし……」
萩月さんが上目遣いで指をツンツンさせている。
ふう……やっと観念してくれたようだ。
そんなやり取りをしているうちに後片づけも終わり、いよいよ俺達は勉強を始める。
「ねえねえ池っち、ここはどうやって解くの?」
「ああ、ここは……」
しかめっ面の萩月さんが指差した問題を、俺はできる限り分かりやすいように説明する。
「あは! すごい! 簡単に解けたし!」
「はは、まあ数学の問題は、基本的に公式と使い方を暗記するのが一番だから、数をこなしてパターンを覚えてしまえば結構解けるようになるよ」
「そうかもしれないけど、池っちの教え方が上手いからだし!」
「そ、そうかな……」
萩月さんに笑顔で褒められ、照れくさくなった俺は頭を掻いて顔を逸らした。
「そうだし! ……それに、池っちと一緒だと、嫌いな勉強も少しだけ楽しいし」
「あ……お、俺も、萩月さんと一緒なら、勉強も楽しいよ」
「あは……じゃあ、一緒だね」
「う、うん……」
萩月さんが照れくさそうな、それでいて幸せそうな、そんな表情を浮かべる。
何というか、そんな表情をされると俺もその……幸せというか、満たされるというか……。
「あ、あは! ちょっと休憩しよっか! アタシ、お茶入れるね!」
そう言うと、萩月さんはそそくさとシンクへと向かった。
その時。
——ブブブ。
マナーモードにしてある萩月さんのスマホが震えた。
そして、ディスプレイには、『お母さん』と表示されていた。
萩月さん……。
俺は、シンクの前で機嫌よくお湯を沸かしている萩月さんの背中を眺めていた。
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次回は今日の夜更新!
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