閑話4 高瀬響介の場合
え、俺?
いやだねえ、副会長。お前うがった見方しすぎだよ。
この王理高校生徒会長様をバカにすんな。もし俺がウメちゃんを好きなら、もっと直球勝負しているって。
そんなことより麗香先生の話をしようぜ。
俺もさあ、もしかしたらちょっとしつこいかな我ながら、って思ってたんだよね。
「彼氏としてみることはできません」なんていわれたあの晩は、ベッドの中ですすり泣きながら寝たんだよね。この繊細なハートにヒビはいりまくり。
なあ、麗香先生は俺の何がだめなんだろうな。
え、年?うるせーよ、そんなことはわかってんだよ、
でも欠点だって見方によってはチャームポイントじゃん、なあ?
は?久賀院さんが励ましてくれたから元気になったんでしょ、って
…だからウメちゃんと麗香先生は全然次元が違うの!二次元の萌えと三次元のオカズは違うっしょ。
ウメちゃんは麗香先生と違うんだ、全然。
俺がウメちゃんに感じているのは。
そうだなあ。なんなんだろ。
まあとにかく飲めよ。これ実家からくすねてきた日本酒なんだけどレアもんだぞ。まあ飲め飲め。ウメちゃんは実家帰っているらしいから今日は理事長も油断しまくりだ。今もずっと寮監と話しこんでいるらしいしさ。宴会日和じゃん。
つーか、マジうめー!やっぱり純米大吟醸は最高。いや、実家からパクんのは楽勝だったんだけどさ、これを寮に持ち込むことと、理事長の目を盗み続けることが至難の技だったんだよね。おい、お前一人でサケトバ全部食うなよ?ぶん殴るぞ。
で、なんの話してたっけ。あ、そうか、久賀院梅乃ちゃんの話ね。
まあ可愛いよな。
ほら、入学式の新入生挨拶あったじゃん。
あの時、こんだけ可愛くて成績よかったら、別にうちで修行僧しなくたっていいじゃんって驚いたな。下界にはもっと普通の共学あるわけだしさ。何考えてんだろって思ったね。でも偶然美術室で会って話してさ。面白いなあって思ったんだ。
ウメちゃんはさ、ちゃんと自分が可愛いって自覚はあるんだよ。
でもさ、可愛いが故に起こりうるオイしい事もムカつく事もまったくわかってないのな。モテたい、とかは言っているけどそれがどういうことなのか分かってない。大体可愛い子ってのはさ、昔からそうだからある程度経験値があるんだよね、だから良いことは利用するし悪いことは事前に回避する能力が身についているんだ。
でもウメちゃんはまるで昨日いきなり可愛くなりました、みたいで。
危なくて、ほぼ男子校でこりゃまずいだろって思ったよ。で、テツ…熊井先輩も、ありゃ危ないから見ててやれって言うし。
仕方ないからフォローしてんだよ、俺も。
そういえば副会長にも手伝ってもらったことあるんだっけ。
悪かったなあの時は、ケンカ沙汰に巻き込んで。
あ、そうか、知らない奴もいるか。たち悪い三年が、三人、ウメちゃんにやばいことしようとしていたことがあったんだよ。
いぇーい先制攻撃に乾杯!超ボコりまくり!圧勝!……というささやかな出来事があったんだ。ん、どうした、顔色変えて。
久賀院さんは大丈夫だったんかって、おめー、俺と副会長、影で熊井先輩と梓先生が関わったんだぞ。完全勝利。ウメちゃんはそんな計画があったことも知らないよ。あ、副会長、おめーサケトバ食い過ぎだぞ。
まあ、麗香先生なら、さりげなく俺の活躍をアピールして恩に着せるけど、ウメちゃんじゃなあ…別にして欲しいこともねえしなあ…。
いや、俺もさ、ベタ過ぎてあれかなあって思うんだけど『麗香先生悪漢に襲われる→俺参上、悪漢コテンパン→麗香先生俺に感涙→俺おいしい目に会う』って展開を考えたこともあるんだけど、副会長が「高瀬は絶対殴るとき手加減しないからいやだ」って言って悪漢の役を引き受けてくれないんだよね。ケチ。
え、あれ?
なに、お前本気で好きなの?
ウメちゃんを…?
そ、そうか…。
…まあ早いところ諦めた方がいいぞ、うん。俺も味方してやりたいのはやまやまだが、鳥海の味方をすると約束してしまった。すまん。かといって鳥海が上手く言っているってわけでもないんだけどな。あ、鳥海がウメちゃんの彼氏だって噂はガセだぞ。まあこれくらいなら言ってもいいか。
ウメちゃん、一応フリーはフリーだ。すげえ好きな相手はいるみたいだけど。
なあ、しょげるなよ、誰だって欠点はあるんだよ。ウメちゃんは『男の趣味が悪い』っていう不憫な欠点を持っているんだ。『男運も悪い』って言うコンビネーションアタックなんだよなあ。お前はいい奴だしいい男だよ。
おかしいのはウメちゃんと周りの連中だ。
悪いことは言わない、早く諦めておけ。悪いものを見ちゃったと思って記憶を消した方がいい。まあ飲め飲め。
いいか、彼女の周りには、メフィストフェレスが目を光らせているんだ。鳥海も鳥海だしなに考えてんだかわからねえ魔王子もいるし。なんつーか百鬼夜行だ。
『命が惜しくば久賀院梅乃には関わるな』 それが俺の恋の真剣なアドバイスだ。
そんなことより俺がどうやったら麗香先生と上手くいくかを真剣に考えてくれ。
そのために秘蔵の日本酒開けたんだからな。
とりあえず、まず手をつながないとね。知っているか、麗香先生、すっげえ手が綺麗なんだぞ。まあいつも絵の具はついているんだけど、指とかほっそいの。すらーってしていてさあ。爪なんて薄くて綺麗な楕円形しているし。
俺が握ったらポキっていっちゃいそうだよなあ。でも冬になると、朝とか指がかじかんでいるみたいで、チョークとか落としているし。こう握ってあっためてあげたいよなあ。
は?久賀院さんは誰を好きなのかって?
だからウメちゃんの話なんていいから、麗香先生の話を!俺の話を聞けぃ!
ウメちゃんは確かに可愛いけど、あれなんだよ。まったく女を感じないんだ。
そりゃ下ネタ言わない程度の気は使うけど。書記っちと同じ、ただの後輩。それに比べたら麗香先生は別格だよなあ。
あのさ、本当はもう麗香先生のこと諦めようって思っていたんだけど、
でもやっぱり無理。好きなんだもん、仕方ない。
もうちょっと頑張ってみるさ。
しかし、手段を考えた方がいいのかなあ。
ああなるほど、押してだめならひいてみろ、か。
いいこと言うな。
でも俺、麗香先生に会わなかったら寂しくて死んじゃうかも。ん、何、副会長何か?
……俺の女運も悪いってどういうことだ?
だって麗香先生と会えたんだよ?メガヒットな幸運じゃん。
「久賀院さんと高瀬の気が合うのはわかる」って俺に意味がわかんねえよ。俺はウメちゃんほど不運じゃないもんね。
ウメちゃんが誰を好きかって…だからそれは俺が言うわけにはいかんでしょー。
なんでみんなウメちゃんの話ばっかりするかなあ。麗香先生のほうがよっぽどいいのに。
え、じゃあ一度美術室に遊びに行ってみるって…?
ダメだダメだ何言ってんだ。俺の麗香先生の空間に立ち入るものは許さん、来るな馬鹿!
あっ、副会長、お前サケトバ全部食いやがって!一人で食う奴があるか!
おいこら逃げるな…って、マジ!?理事長、部屋見て回ってんの?
隠せ隠せ、やべえ!ダミーのコーラ出せ!
早く!
※くれぐれもお酒は二十歳になってから




