とある舞踏会の会場で
なろうラジオ大賞参加作品第十二弾。
《メアリー! 俺はお前との婚約を破棄する!》
舞踏会の会場で婚約破棄劇が始まった。
何度も何度も見届けた、ひと昔前に流行った婚約破棄劇が。
ちなみに婚約破棄を告げたのはいかにも王子な男。
ついでにいえばそのそばには小動物系の女がいる。
なんかいけ好かない二人だ。
《えっ!? なぜですか殿下!? なぜ婚約破棄を!?》
声をかけられた相手――おそらく主人公だろう女が困惑した顔で訊いた。
なかなかの美人。
しかもモデルの如き体型をしてる。
気にならない男はいない。
なぜ婚約破棄されるか分からんほどだ。
だが俺はすぐ目を逸らす。
俺は、彼女が目的でここにいない。
というか俺はこの婚約破棄劇の主要キャラですらない。
ていうか主人公の女ばかり見ていたら、この婚約破棄劇の裏側で俺と同じく暗躍してる同業者の一人にして、最近カレカノになっt――
『繰り返し見た感じ、向かって右側の……赤髪のモブ。そいつは祓っていい参加者だね』
なんて思ってたらその彼女が無線で声をかける。
まさかよその女に見とれてたところを見られてないよななんて思いながら、俺は彼女に「了解。すぐ祓う」そう言ってすぐに仕事に取りかかった。
この場に集う数万体の幽霊の内の数体を祓うという、日本の除霊史上最大規模の除霊の仕事に。
ライブRPGというイベントがひと昔前――百年近く前にあったという。
コスプレして参加する体験型ゲームイベントであり、そしてそれは過去に何度か行われた……のだが、その内の一回は血で血を洗う凄惨な結末を迎えたという。
その原因は、昔の人の心の中にあるので分からん。
分かってるのは当時の参加者が幽霊となり、夜な夜なそのイベントを繰り返している事のみ。
凄惨な結末を迎える度に最初に戻る感じでループしてるのだ。
理屈は分からん。
だが怪異を祓う霊媒師としてほっとけない。
だがしかし、そう簡単に解決できる案件じゃない。
大勢いる参加者の内の、あまり物語に関わらないモブキャラから順に祓わんと、他の参加者にイベントを妨害する敵と認定され総攻撃を受ける。
当時のイベント内容――婚約破棄ものの参加者は、イベントにのめり込みすぎて狂気に支配されてるから。
「はぁ。いつになったら仕事が終わるやら」
失敗すれば数万体の幽霊の総攻撃。
そうならないためにはキャラを見極め一人ずつ慎重に祓わなきゃいかん。
そしてこの仕事は俺達の親の代から開始してるらしいが……こりゃ、少なくとも俺達の代じゃ終わらんな。




