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あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~  作者: 古芭白あきら
第1部 その婚約、本当に必要ですか?

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第30話 その王妃様、魔王と手を組むんですか?

「あ、あなた、いったい何を?……」


 ウェルシェのトンチンカンな行動にオルメリアは戸惑った。

 それは他の夫人達も同じようで、みな一様に困惑している。


「えっ、ですから、シキン夫人はオーウェン殿下が即位されるまでに何処かへ行かれるのですよね?……かなり遠方の国へご旅行されるのでしょうか?」


 ウェルシェが的外れな返事をするので誰もが呆気に取られた。

 ウェルシェ自身も相当に苦しいと思うほどの完全なる曲解だ。


「他の国へ行って見聞を広められるのはとても素晴らしい事ですわ」


 それでもウェルシェは貫き通す。


 こんな時は多少苦しくても強引に話題を変えて、一気に自分の土俵へと持っていく力技こそ有効。どこかトボけたウェルシェの腹黒交渉術の一つだ。


 おっとりした不思議ちゃんを演出していたのも、この交渉術を成功させるのに大きく寄与している。


「えっ、ええ……そうですね」


 話を振られたジャンヌも対応に困って曖昧に頷いた。案の定、他の者も呆気に取られて目をパチパチ(しばたた)かせている。


「本当に素敵!」


 ここまで来ればもうしめたもの。

 再びウェルシェの手の平の上だ。


「シキン夫人はそうやって見識を深めてこられたのですわね」

「はい?」


 ジャンヌはいまいちウェルシェの意図を掴みかねた。いや、それはオルメリアを始め会場の誰もが同じであろう。


「夫人のお言葉に私とても感銘を受けましたの」

「私の……ですか?」


 それはオルメリアへの諫言だろうかともジャンヌは思ったが、それにしては変だと感じた。


 先程の大胆な曲解からウェルシェがジャンヌの諫言をうやむやにしてしまおうとしている魂胆は見えすえている。


 だからウェルシェがここでその話題を蒸し返すはずはないのだ。


「学園は小さな王国、この国の将来を映す鏡……仰る通りだと思いますわ」


 ウェルシェは両手を軽くパンッと叩いた。


(話を切り変えてきた。このタイミングで何か振ってくる)


 それが一種の合図だとオルメリアは気がついた。


「学園生活は私達貴族子弟にとって試金石なのですわね」

「ええ、学園は王国の縮図です。ならば生徒達は学内での言動で試されているのです」


 だからジャンヌはオーウェンを糾弾したのだ。彼は将来この国を背負って立てる器ではないと。


「まったく仰る通りですわ。つまり、私達は試されていると同時に将来国政に携わる予行練習をしているのですわね」

「そ、それは……」


 だが、ウェルシェはまったく違う見解を持ち出し、ジャンヌは言葉に詰まった。


「小さな王国での失敗は国政には影響しませんもの。まだ未熟な私達ですからきっと間違える事もありますわ。ですが、王妃殿下やシキン夫人のように素晴らしい先達が叱咤してくだされば道は正せると思いません?」


 つまりウェルシェは今は学んでいる最中で失敗もあるが、まだこれからがあると言いたいのだ。


「その通りね」


(この娘、やってくれる)


 オルメリアは内心で会心の笑みを浮かべてウェルシェに感謝した。


「確かに、まだ学園は始まったばかりです。オーウェンの器量に判断を下すのは時期尚早(じきしょうそう)ですね」


(後は私次第ってことね)


「ですが、シキン夫人やウェルシェの懸念ももっともです」


 ここで舵取りを誤ればチャンスを作ってくれた自分の半分以下の年齢の娘に笑われてしまう。


「この度の件は私が責任を持って対処しましょう」


 オルメリアは真っ直ぐウェルシェを見据えた。


「まず、あなたとエーリックの婚約についてですが」

「はい」


 王妃としての威厳ある眼力を受けてもウェルシェはにこりと微笑み動じた様子が見えない。


(本当に大した娘だこと)


「あなた方の婚約に障害となるものは全て私が排除すると王妃である私が保証します。それでもエーリックの婚約に横槍を入れる者があれば、それが誰であろうと構いません……国王陛下と私の名を出しなさい」

「ご配慮痛み入ります」


 それはつまり、国王と王妃の名の下に婚約の正当性が守られると言っているのだ。これに難癖をつけるならばオーウェンであろうと最大級の不敬となる事を意味する。


「次にシキン夫人の苦言についてですが」

「はい」


 オルメリアは視線をジャンヌへと移したが、こちらもさすがである。僅かに視線を落とし目元涼しく動揺を見せない。


「オーウェンの態度は目に余るものがありますが特に罪を犯してはいません」

「ご高察にございます」

「ですが、あなたの指摘通り無視もできません」


 ここで完全に不問にすればシキン伯爵家の心は王家から離れる。


「ですので、オーウェンと側近には課題を与えます」


 それが分かるオルメリアは実の息子に厳しくあらねばならない。


「彼らが在籍中に己を省みれば良し。そうでなければ相応の対処を致しましょう。詳しい沙汰は後日下しましょう」


 最後にオルメリアはケイトへと顔を向けた。


 その鋭い眼光にケイトはぶるりと震えたじろいで、みっともなく目をきょどきょどと泳がせる。


「ケヴィン・セギュルに関しては調査の上、王家に対して軽はずみな発言をしていたのが真実なら……停学とし、実家へ戻して再教育をしなさい」


 王妃オルメリアの裁定が下され、その場の皆がこうべを垂れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >小さな王国で失敗しようとも国政には影響しません よくよく考えると。 もしも、他国の重鎮の息子だけどそれを隠してる生徒がいて、王太子がその子に横暴な態度をとったらもしかするとその子の故郷に外…
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