彼女は女の子3
久し振りに投稿します。
現実世界では春ですが、小説の中はまだクリスマス前です。季節感なくてスミマセン。
映画のあとは彼女に手を引かれて雑貨屋巡り。僕が今まで素通りしていたようなお店の中へ、彼女は躊躇いもなくズンズンと分け入って行く。ジャングルに冒険に行く!と言う方がよほど現実的だと思った。僕にとってカラフルな色の洪水の中にどぶんと飛び込んでいくのは、とても勇気がいることなのだ。
「ねぇ、これ可愛い!」
と彼女が持ち上げたのは、真っ赤なぽってりとしたお椀状の……これは食器で良いのか?
「お茶碗?」
僕が真剣に首を傾げると、プッと彼女は噴き出した。
「ふふっ!カフェオレボウルだよ」
「『カフェオレボウル』?」
「カフェオレ専用の、マグカップみたいなもの」
「へー」
ちょっと色合いが派手だけど、どっからどう見ても『お茶碗』って感じなのになぁ。カフェオレ専用の容れ物があるなんて知らなかった。普通のマグカップでいいじゃん、と思ってしまうのはこの場合間違った反応なのだろうか。取っ手も無いから飲みづらそうだな。僕は渡された赤い『カフェオレボウル』を持ち上げて、下から上から眺めてみる。
「あ!あの帽子、イイかも!」
彼女のターゲットは目まぐるしく変わるようだ。カフェオレボウルを棚に戻した僕の腕を取って、今度は帽子ばかりが沢山並べられた一角を目指す。ずらっと並べられた帽子が三段の棚に所狭しと並べられていて、更に周りの壁にも中心の棚を囲むようにL字型に設置された棚にどっさりと帽子ばかりが置かれている。
思わず目を瞬いた。こんなに種類があるものなのか。つばのあるなしか、素材が編み物か布かしか帽子の違いが分からない僕には、どれが彼女の言う『イイ』帽子なのか全く判別出来ない。しかし彼女は迷いなく一つの帽子を選び取り、そのまま俺に向き直ったのだ。
「ね、被ってみて?」
「ええ!」
ニット帽を差し出されて思わず狼狽える俺に、彼女は目を丸くした。そしてケラケラと笑う。
「そんなに慌てなくても!」
「いや、スキー授業以来ニット帽なんて被っていないから……パーカーで十分だし」
それにニット帽って被った後、ぺったりした変な髪型になるんだよな。今日は何だかそんな情けない格好を彼女に見せたく無いと思った。勿論美容室でカットする前に髪を洗ったりするから、ぺったりした髪型なんて彼女は見慣れているのだけれど。
すると彼女は気を悪くした様子も見せずニコッと笑って、手に持ったニット帽を自ら被って見せた。
「こんな感じです!」
「……」
「どう?」
「あ、うん。イイんじゃない?」
「……微妙な反応。ひょっとして変だった?」
すると不安そうに彼女は上の棚に置かれた鏡を爪先立って覗き込む。僕は慌てて首を振る。
「全然変じゃないよ」
「そぉ?うーん……」
納得しきれない顔で彼女はニット帽を脱ぎ、鏡に向かってチョッチョッと萎んだ髪を摘まんで整えた。簡単に髪型が戻って羨ましい。僕の髪は猫ッ毛で柔らかいから一度ペシャッとなってしまったら戻らないのだ。
本当に返したかった言葉は、喉に引っ掛かって胃に落ちてしまった。
ニット帽は彼女にとても似合っていた。物凄く可愛いかったんだ!―――思わず見惚れて、一瞬言葉を失うくらいに。
ハッと我に返ってかろうじてフォローした言葉の真意はきっと、この様子じゃ彼女には伝わっていない。
だけど『可愛い』とか『それ似合ってるよ』なんて軟派な言葉、使い慣れなくて恥ずかしい。浮かない表情の彼女を目にすると、胸がカサカサと落ち着かなくなって来る。
『女の子を褒める』って……やっぱ経験値の低い僕にはハードルが高いよ!だって上手い台詞も見つからないし、勢い付き過ぎて変なこと言って、引かれたらと思うと怖い。
これまで、女の子が喜ぶような言葉をペラペラ喋って笑わせているヤツを傍から見ていて、いい加減だしチャラいなぁ、言葉かるっ!……なんて批判的に考えていたけれど。
今、認識を改めた……!
チャラい男って実はすげぇ!
これほどまでに女の子を褒めるのが難しいとはっ……!




