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美容室で髪を切ったらモテました。  作者: ねがえり太郎
おまけ2 同級生から見た僕
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元彼の変化(1)

 在庫が予想以上に早く売り切れて、早々に店じまいとなった。


 『テリヤキ&箸二つ』ショックから抜けきれない私は、カラ元気も振り回せないほどの落ち込みよう。黙々と後片付けの為に手を動かし続けるしかなかった。だけど心の中ではまだ一縷の望みに縋ってしまう……だって直接的な言葉は彼からも周りの男の子達からも発せられていない。誰と『待合わせ』とも言っていないし。そりゃ『リア充』って言えば恋人としか受け取れないけれど……例えば、恋人になり得る『従妹』とか『幼馴染』とか、そう言う恋人未満の関係の女の子との待ち合わせの事を、ふざけて揶揄っているだけかもしれないし……。


 大きな鐘が耳元でぐあ~んと鳴らされて、その余韻が続いているみたいに心が震えてしまう。後片付けが終わって解散となった後、私はボンヤリとその日学祭日程も終盤となった大学構内の道路をトボトボと歩いていた。本当はアチコチウロウロして楽しみたかったんだけどな。色々気になるイベントもあったし。


 悄然としながらも、もしかして彼にバッタリ出会うかもって、そんな予感がして時折キョロキョロと周りを確認してしまう。彼と同じ背丈の男の子を見つけると、思わずジッと眺めてしまうし。だけどその隣に女の子がいたら―――しかも後輩ちゃんによく似た茶髪のゆるフワな可愛らしい女の子だったら、どうしよう。私の中の女としての何かが、確実にガラガラと崩壊してしまうような気がする。


 ある種の怖い物見たさ、なのかもしれない。ドキドキと胸を高鳴らせながら私は構内を歩いた。だけどこんな広いキャンパスで偶然彼と再会するなんて無理な話だ。もう既に待合わせの後、何処か別の場所に出掛けたかもしれないし……あーあ、不毛。ちょっと飲み物でも飲んで休憩しよ。


 私は正門の入口にあるカフェに足を踏み入れようとした。すると、すぐ後ろ、背中から声が掛かる。


「なあ」


 先ほどまで一緒に作業していた元カレだ。今日はやけに後ろから呼び止められる日だな……と、ボンヤリと思う。


「何?」


 私は仕方なく返事をした。本当は後輩ちゃんからの見当違いな嫉妬防止の為に、なるべく関わりたくないんだけど。でも元カレの方もそうだろうから、きっと世間話で呼び止めた訳じゃないのだろう。忘れ物か、それとも連絡事項の言伝か。

 視線の先で、怯んだように彼は一瞬押し黙る。それから意を決したように言葉を絞り出した。


「昼の……アイツが変な絡み方して、ゴメン」


 少し緊張しているのか、強張った表情でそう言う。

 ああ、と思う。なるほどそうか、あの時最後まで謝罪の言葉を言わせなかったから。彼としてはスッキリしなかったのだろう―――そういう所、律儀だよね。熱が冷めてしまった今ではちょーっと煩わしいけど。……面倒だけど、これは謝罪をちゃんと受け入れないと終わりそうもないな。私は溜息を吐いて、首を振った。


「いいよ、別に。彼女の気持ちも分かるし」

「―――」


 彼はちょっと息を飲んで言葉に詰まった様子を見せたので、仕方なく説明を継ぎ足す。


「優しいのも分かるけどさ、『彼女』以外に優しさを大盤振る舞いされると女の子は不安になるんだよ。もう彼女を悲しませちゃ駄目だよ」

「……お前もそうなのか?」

「は?」


 何故そんな当り前の事を聞くのだろう。と言うか傷を付けた本人の癖にせっかく塞がったカサブタを剥がすような真似、やめて貰いたい。


「当り前じゃん……人を何だと思っているの?」

「その、お前は平気そうにしてたから……俺にそれほど興味がないのかと」

「……」


 何を言いたいのか分からない。

 愚痴?もしかして今まで溜め込んでいた恨み言を言われているの?


「なに今更。『好きな子出来たから』って私を振ったのそっちでしょ」

「いや、『好きな子』じゃなくて『気になる子』だよ」

「同じじゃん」


 なにコレ?


 同じ科の彼がサプライズみたいに現れた時は、少し嫌な事はあったけど今日はツイてる!なんてワクワクしていたのに、今はすっかり意気消沈してしまって。おまけに訳の分からない事で元カレに絡まれている。―――ああ、もう勘弁してくれ。


「どっちでも良いよ、私喉乾いたからカフェで休みたいの。じゃね」


 ヒラヒラと手を振ってカフェの自動扉に踏み込み、さっさと中に入った。本当に振った元カノの事なんて放って置いて欲しい。そんな事より新しい『好きな子』いや、『気になる子』に集中した方が良いのに。







 明るいカフェの入口には大学のノベルティグッズが置いてあって、観光客や学祭に訪れたお客さんがお土産を買おうと物色している。背の高い観葉植物の横には眼鏡を掛けたスーツの老紳士の等身大パネルがお出迎え。知らない人には違和感ありまくりのパネルだけど、知っている人は知っているノーベル賞をとったこの大学の名誉教授なのだ。スゴイよね、本当に同じ大学でもピンキリと言うか……私には絶対到達できないレベルだよなぁ、まず大学に残って仕事として研究員を続けて行くって言うのも狭き門と言うか苦難の道だというのに。


 レジカウンターで『氷マンゴー・オーレ』を注文する。この間飲んだ『氷いちご・オーレ』美味しかったからコレも気になっていたんだよね。支払いを終えて飲み物を受け取り、ちょっと気分を変えようと外のテラス席に座る事にした。


「あ~うまっ!」


 独り言ってカッコ悪いけど、こうでもしなきゃ気持ちが持ち上がらない。

 『マンゴー・オーレ』はウマいし、天気が良いし。うん、ちょっと元気出て来たかも?


 なんて油断していた私の目の前に、珈琲の入ったマグカップが置かれて反射的に顔を上げる。仏頂面の元カレがカップをテーブルに置いて向かいの椅子に腰掛ける所だった。


「え……なに?」


 まさか追いかけて来た?


 と咄嗟に感じたけれども、自意識過剰かもしれないと考え直す。さっきだってそう、ここに入るつもりで偶然一緒になったから声を掛けたのかも。そして同席はただ単に席が埋まっていて仕方なく、と言う可能性も無きにしも非ず。周りを見渡すと確かにほぼ満席だ。あっ……でも中のテーブル、一つ空いてる。


「あの、中空いてるよ」

「……」

「外が良いなら、私が中に入るけど……あ」


 と、言っている間に席が埋まってしまった。あーあ。

 こうなると『立って飲め!』と無碍な事も言えず、私はストローに手を当てて再びマンゴー・オーレを飲む事に専念した。こうなりゃサッサと飲んで、駅前の本屋でも冷やかして帰ろう、うん。




「『彼女』じゃない」

「?」




 目の前の珈琲に口も付けず、彼が話し始めたので私は首を傾げた。


「アイツと別に付き合ってなんかない」

「え……」


 もしかして後輩ちゃんとの事を言っているのだろうか。


「確かにアイツのこと気にはなってた。中途半端な気持ちでお前と付き合うのもどうかと思って別れるって言ったけど―――お前と別れた辺りからアイツが妙に皆の前……と言うかお前の前で親し気にしたがるの見て、なんか違うなって思って」


 そうなんだ。確かに私もそう言う態度は良くない、と感じたんだよな。元カレもそう感じていたんだって思って何だかホッとした。付き合っていた相手にこれ以上失望したくない、と思うから。だってイコール私の見る目が無かったって事でしょ?それって。


 そして少し溜飲が下がったのと同時に、妙に納得してしまう。


 そうか、だからなのか。後輩ちゃんは努力(?)の結果、やっと彼を手に入れられると思っていたのに、いわばお預け状態なんだ。きっと彼が私に未練を持っている……と言うより、私が彼に未練があるうちは彼が躊躇しちゃうのだと考えたい(・・・・)のだろう。



スイマセン<(_ _)>話が長くなったので、ここで一旦切ります。

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