私の変化
追加しました。
が、もう少し続くかもしれません<(_ _)>
演習が一段落着いた所で打上げを提案した。
「カラオケ行かない?」
モチロンいつも私の隣にいる彼女、我が科のアイドルも乗ってくれる。機械工学科には女子は二人きり、先約が無い限り彼女は大抵私の提案には合わせてくれる。ただ実家暮らしだから、広く浅く参加して遅くまで残る事はほとんど無い。彼氏も心配するしね。
こざっぱりと変身したあの彼は今回アイドルの彼女と同じ班。彼自身は女子と話す事に積極的では無い様子だけど……人気の高い彼女がいれば周りの男の子達に付き合って打上げに参加するのでは、と密かに期待した通りになった。
今回集まったのは八人ほど。個室に入ると案の定、あの彼は私達女子チームからは距離を取り男子の間に落ち着いてしまう。決して自ら女子の近くには寄って来ない。ジリジリしつつ機会を待っていると、トイレから帰って来たタイミングで漸く彼の隣に腰掛ける事が出来た。
少しソワソワするような、こんな気持ちは久しぶりだった。率直に言うと、私の好みと正反対。彼のようなタイプと距離を詰めたいと考えるようになるなんて、これまでは想像もしていなかった。
「曲、入れた?」
無難な話題で話し掛けてみる。そう言えば自分から積極的にアプローチするなんて初めてだ。私が好きになるのはちょっと強引な所のある、あちらから能動的に動いてれる相手ばかりだった。だけどそう言う男の子って結局―――『私』だから特別に優しい訳じゃない。良く言えば面倒見が良い、人見知りしない人ってだけで。
……そんな頼りがいのありそうな男の子にコロっと行くのは私ばかりじゃない。自分から動かない女の子は皆、そんな風に優しくされると『ひょっとして私に興味があって特別に気遣ってくれるのかな?』って期待しちゃう。で、キュンと来て好きになっちゃうんだ。そして実際、私は彼の特別じゃなかった訳で……。
二度の失恋で漸く身に染みた。だから相手の出方を待つんじゃなくて、今度は自分から行動してみる。この衝動に素直になってみよう。女子から行くのはガッツいているみたいで微妙かも?……なんて自分の常識に捕われないで。
「あ、いや……僕はいいよ」
「え!せっかくカラオケなのに。一曲くらい入れようよ」
「皆が知ってるような流行りの曲、知らないしな」
「何でもいいんだよ!好きな曲なら。いっそ童謡でも良いんだし」
「ええと……じゃあ、これ」
と彼が選んだ曲を見て、私は思わず声を上げた。
「『Under_world』!えっ……私も好き!」
流行りもの、知らないって言ってたのに。彼は吃驚したような表情で私を見た。
「そうなんだ。でもこれ……僕が好きなアニメのオープニングってだけなんだけど」
「えっ……これ、アニメの主題歌なの?」
人気バンドの曲が、アニメの主題歌なんて初めて知った。驚く私に彼はニコリと笑って言った。
「そう、アニメ自体も面白いけどオープニングが凄くカッコイイんだよね」
「へえー!このバンド今、すっごく人気なんだよ」
「そうなんだ、知らなかった」
漫画はそれなりに読むけれど、アニメって子供の頃以来敬遠していた。それに偏見かもしれないけれど、アニメが好きだと言う男の子はちょっと幼いような気がして付き合う相手として見ようと思った事が無かった。
「あ、曲始まったよ!マイクちょうだい」
向かい側の男の子からマイクを貰って、彼に渡す。すると彼は恥ずかしそうに微笑んで、こう言った。
「ありがとう」
丁寧に御礼を言われて、何だか新鮮な気持ちになった。幼いどころか、真面目な大人しい男の子って―――実際はずっと大人なのかもしれない。急に今まで付き合っていたノリの良い彼等が幼く感じられた。灯台下暗し、目の前にこんなに良い男の人がいたのに、私は隣の芝生ばかり見て羨ましく思っていただけなのかもしれない。
ちょっと低い声の彼が歌う歌は―――なんだか耳に心地良い。
「……アリ、かもしれない」
歌う彼の横で手拍子を取りながら、私はポツリと呟いた。
『目から鱗』
ありきたりの諺が教えてくれる当り前の事に―――二十歳を過ぎて漸く気が付いた私だったのだ。
一話に収め切れませんでした。
もう少しエピソードが残っているので、上手く収められればもう一話(?)追加すると思います。




