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美容室で髪を切ったらモテました。  作者: ねがえり太郎
おまけ2 同級生から見た僕
14/31

彼の変化

主人公の男の子の同級生視点のおまけ話です。

※ちょっとイタい部分もあるので、不安に思う方は回避してください。

 機械工学科なんて武骨な学科を選んだのは偶々だった。化粧品会社に入社したいと考えていた私はもともと応用化学科を目指していた。だから総合理系に入学したのだけれど、人気が高い応用化学科は成績上位者じゃないと進学できないのだ。自分の能力目いっぱいを使い切って難関大学に入学した私は、入試後気の抜けたようにダラダラ過ごしていた。当然、そんなギリギリの成績の私に選択肢は無い。

 応用化学科は学科の三分の一ほどが女子。だけど機械工学科の同じクラスには女子は私を含めて二人しかいない。新しいクラスのオリエンテーションに一歩踏み込んだ時、その光景の色の少なさを目にして現実として実感した。男の子が多い、そして地味な男の子が多いから色味が地味!黒や紺色、あってもカーキとか茶色が圧倒的に多いのだ。

 なぜ機械工学科を選んだのかと言うと、単純に人気が無くて成績が悪くても入れたって言うのと、たまたまロボットコンテストを題材にした映画を観たからだ。結構、いやかなり面白かった。それに好きな人気俳優が何人か出ていたのも良かった。だから何となく「あ、ロボットとか面白いかも」なんて思ったのだ。そう言えば小さい頃ブロックで遊ぶの好きだったな、とか思い出して。でも入ってから分かったけど、この学科実際ロボットを作るようなゼミばかりじゃないんだよね……。


 だけどやっぱり、と言うかまあ当り前だけど同じクラスの子に人気俳優みたいなカッコイイ男の子がいる訳もなく。いや、偶にはいるんだよ?でもそう言う子ってもう既に高校、若しくは総合一年次の時に彼女が出来ちゃってるんだよね。医療系とか専門的な分野を省けば一応北海道で一番難関の大学だし、ちょっとでもカッコイイ男の子はサークルとかで他の女子大の子に唾を付けられてしまっている。

 そして地味な見た目に見えるけど眼鏡を外したら実はイケメン……!なんてのも映画の話。クラスの男子はオタクっぽくて、女子に対しては一歩引き気味。まあ良く言えば紳士な子が良いって言うか友達として付き合うならイイ奴は多いけど、私的には彼氏にするなら、もっとグイグイ来て欲しいって言うか男らしくリードして欲しい。じゃないとトキめけないって言うか……。




 はい今、私がどれ程のもんかってツッコミ、聞こえましたっ……!




 まあまあ可愛いと思う。体型も気を付けているし、メイクは割とナチュラル風味だけど手先が器用な所為かそれなりに見える。だけど一緒にいる二人しかいない女子の一人がそれこそ私がここに来る切っ掛けになった『ロボ甲子園!』って言う映画に出て来る人気女優並みに綺麗なんだわ!その子は見た目が可愛いだけでなく、成績も上位なのにわざわざ機械工学科を選んだと言う本気でロボット好きな才女で……かと言って偉ぶった所も無く、それでいて結構面白い事も言えると言う性格も良い完璧な女の子なのだ。だから一緒にいるとクラスの男の子のトキメキは全部そっちに流れてしまうので―――私はまあ、そう言う事もあってクラスで彼氏を作るのは諦めました。つまりちょっとさっきのは言い訳と言うか強がりも混じってましてね……大目に見てください。


 と、言う訳で切り替えが早いのだけが取り柄な、そこそこの容姿の私は、サークルとか合コンとかそう言う場所で恋をする事に決めたのだ。


 ウチの学科って正直居心地は良い。多分恋愛の揉め事が無いからって言うのもあるかもしれない。男の子は合コンで顔を会わせるようなタイプと違ってガツガツしていないし、クラスのアイドルである彼女は既に彼氏持ちだし、私も付き合う相手は学科の外で探している。その反動だろうか?私はノリが良い、ちょっと女慣れした強引な男の子に迫られると弱かった。だけどそう言う女慣れした男の子って―――当然私以外の女の子にも優しいんだよね。そうなの、サークルで出来た彼氏、この間後輩に取られましたっ……!二股で振られるの二度めだよ……ううっ本当にツイてない。いや、今回は二股じゃない、好きな子が出来たからって告白されて振られたんだ。私を振ってから彼女に告白するんだから一応誠実と言えば誠実なのか……でもね?サークルの飲み会で後輩ちゃん、あからさまに私の彼氏に甘えてたし、酔ったふりしてべたべた触ったり悩み事相談と称して喫茶店で二人切りで話したり……浮気一歩手前だよ、って言うか気持ちはすっかり傾いていたよね?彼氏の気持ちが傾いて行くのが目に見えるのが、本当にツラかった。心の狭い嫉妬深い女って思われたくなくて、深く追求しなかった。それが裏目に出たのか、それとも私より彼女の方が単純に好みだったのか。今となっては何が悪かったのか分からないけれど。暫く恋愛はいいや、と私は日々穏やかに過ごす事に決めたのだ。


 そう、学校は勉強する所ですからね……!勉強第一!


 恋愛を諦めるとウチの学科って本当に居心地が良いなぁって思う。トキメキとは無縁だけど穏やかな子が多いし、男子って女子より付き合い易い部分がある。女子率が多いクラスにはプライドが高かったり気を遣わないと自分は傷つけられた!とアピールする難しい女の子が必ず一人か二人はいる。その点男子は良い、こっちが失言したかもと思って謝っても「え、なんだっけ?」って全然気にして無かったり。まあ私が気にして欲しいと思っていた注意事項も忘れられている事も多いけど。要するにあまり細かい事を気にしない子が多いのだ。


 そんな感じで色気も素っ気も無い日常を過ごしていたんだけど……この間久し振りに少しだけトキめいてしまった。


 ちょっと手間取って実験棟に行くのが遅れてしまった私は慌てていた。だからギリギリでそこに飛び込んだ時、足元にあった資材の入った段ボールのちょこっと飛び出していた部分に引っ掛かり躓いてしまったのだ。咄嗟の事に持っていた荷物を手放せなくて、コンクリートの床に顔から突っ込む……!っと覚悟して目を閉じた。


 だけどそんな事にはならなかった。


「大丈夫?」


 ガッシリと私を支えてくれた男の子は、演習の班分けで一緒になる事が多い男子だった。女の子に自分から話しかけると言う事も無く、私が話しかけても女子慣れしていないのか、ああ、とかうんとか相槌を打つくらいで話を膨らませたりすることも無い。私に興味がないって言うよりただ単に女の子が苦手ってだけかもしれない。消しゴムを忘れて困っている時スッと差し出してくれた事があったから嫌われている訳では無いと思うし、男子とは結構楽しそうに笑っている所を見掛けていたから。


 グイッと傾いでいた体を起こしてくれた後はサッと手を離す。ずっと触っていては悪いと気を遣ってくれているのかもしれない。鬱陶しいくらい長い前髪をしているから、その瞳がどういう感情を浮かべているか分かり辛いけど。


「あ、うん。大丈夫!ありがと」

「そう、良かった」


 ホッとしたように呟いて、ソッポを向いた。もしかして……照れているのかもしれない。




 ドキドキした。


 と、言うかトキめいた。




 前髪が長めのその子は、あまり体格が良いようには見えない。ちょっとサイズの合わない大きめな服を着ているからかも。お洒落にもあまり興味が無いようで微妙な取り合わせのセレクトだし……でも。


 男の人、なんだな。


 そう意識したら胸の中がギュッと絞られるように切なくなった。


 久し振りのトキメキにドギマギして、胸の高鳴りを必死で押さえた。

 いや、もう惚れた腫れた恋愛のゴタゴタはコリゴリだしっ……!と自分に言い聞かせつつ、いや、今まで女慣れした男子ばかり相手していたのが悪かったのであって、こういう真面目な人ならもしかして大丈夫かも……と考えてみたり。


 まあ、その日一日悶々としたけれども。

 翌日はスッキリとして憑き物が落ちたみたいに普通になった。あの男の子を見ても特にドキドキしたりしない。




「なーんだ、気のせいか」




 なんてポツリと呟いたら、隣に座っていた我が科のアイドルが「どしたの?」と首を傾げた。


「ううん!何でも!」


 首を振って、講義に集中した。そう、学生の本文は勉強ですから……!

 そう心の中で宣言して、心の中のモヤモヤにケリを着けた。






 そんな事があった―――なんてのも忘れた頃。

 一緒に歩いていた我が科のアイドルが「ん?」と呟いて立ち止まり、クルッと方向転換すると、パタパタと入口の方へ戻って行った。


 忘れ物かな?


 と思い、彼女の背を見ていると、ピタっとある男の子の前で立ち止まった。




「どうしたの?目がある!」

「えっと……」




 彼女はマジマジと一人の男の子の顔を覗き込んでいる。女優さんみたいな彼女に顔を近づけられた男の子は、オロオロと戸惑っている。


「ずっと思ってたのよねー、もっとサッパリした髪型のほうが似合うんじゃないかって」


 そう言ってニコリと笑い掛けられた彼は頬を仄かに朱くして固まってしまった。周りの男子達もチラホラその様子に視線を向け始める。彼女はいつも注目の的なのだ。


 私はゆっくりと彼女の背を追って二人に近付いた。


 あれ、こんな子いたっけ?




「たまたま……切る店を変えて」

「もしかして美容室?」

「あ……そう、美容室だよ」




「おはよー」と、声を掛けてみる。あ、この子……ひょっとして。


「どうしたの……あれ?」

「見て!カッコ良くなったと思わない?」

「……」


 彼女に並んでマジマジと同じように彼の顔を覗き込んでしまう。




 アラ、アラアラ、まあ……!




「……うん、良いと思う」




 吃驚した。鬱陶しかった前髪が無くなって、こざっぱりしちゃっている。


「でしょ?」

「どうしたの?目が出てる……」


 と言うか、ちょっとカッコいいかも……。

 もの凄いイケメンって訳じゃない。でも全然身だしなみに気を遣って無かったもっさい(失礼!)外見だった彼が、キチンと髪を整えて今までは目が会う事も無かったのにシッカリこちらを見返している。以前と比べて『ちゃんとしている』ってギャップにグッと来てしまった。


 ドクドクと心臓が音を立てる。抱き留められた感触を思い出して、あの時のトキメキが胸に蘇って来てしまう。でも何だか恥ずかしくって彼女みたいに『カッコ良い』なんて素直に口に出せない。隣の彼女には下心は無い、だからすんなりと褒め言葉が出るんだ。一方私の方は……。




「美容室で切ったんだって」

「へえ、うん。イイね」




 うん、凄く『良い』。




 思わず大きく頷いて同意を示す。


 すると目の前のこざっぱりした男の子は、今度こそ耐えきれなくなったように瞬きを繰り返し視線を外してしまった。頬と耳が朱い。もしかしてやっぱり……照れているのかな?口元をモゴモゴしていて「どうも……」と呟く。だから少なくとも、嫌がっているのではないと言う事は分かった。


 褒められて嬉しい?若しくは恥ずかしい?

 何だか可愛いな。……そう思ってしまった。




お読みいただき、有難うございました。


もう一話追加する予定です。

(……が、難しかったらそっと完結表示に直すかもしれません)

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