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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 半年後。

 リナはスレンダーラインのウェディングドレスをシンプルに着こなし、子供達からもらった花で頭を飾った。


「りにゃきれい」

「りなみたいなおひめさまのどれしゅ、シーシもきたいな」

「シーシも今日、お姫様みたいよ」

「やん!おっきくなってながいのきたい」

 シーシたち女の子はフリルたっぷりのお姫様ドレスだが、いかんせん足回りが危なっかしいのでミニスカートである。


「素敵な男性と出会ったら着れるわよ。その時はお姫様ドレスよ」

「シーシもけっこんしゅるから、このどれしゅ、シーシにかしてね」

「じゅえるも~」

「もちろん。ちゃんとみんなが着れるように大事においておくわ」


「聖女様。そろそろお時間です」

 モーラがリップを塗ってくれて、化粧も完了した。

 この日のために、モーラはお化粧の勉強を頑張ってくれていた。

 ヴェールを下ろす。


「シーシ。ジュエル。お花まくの上手にできるかな?」

「できるにょ」

「うん!」

 2人は青バラの花びらがたくさん詰まった籠を、モーラから受け取る。


「じゃあ。参りましょう」

 皆で部屋を出て、シーシとジュエルが先を歩いてパラパラと、道に花びらを撒いてくれる。

 2人の足に合わせてゆっくりゆっくりと歩く。

 リナの手はモーラが握ってくれている。


 ヴェールで視界が悪い中、それでも白の礼服を着た大きな背中が見える。

 ぱちぱちとみんなの拍手が聞こえてくる。

 それと同時に心臓がどきどきと高鳴る。


 どんどん近づいてくるリナを、レオは少し振り返って固まった。

 よく見えないが、ぽかんとしているようだ。


「レオ?」

「……きれいだ。リナ」

 呆けたように口から滑り出たような言い方だった。


「レオもかっこいいよ」

「惚れ直したか?」

「うん」

 こそこそ二人で話していると、魔王様が祝いの言葉を紡いでくれた。


「2人はこれで運命を共有する夫婦となる。聖女リナ。誓いの言葉を」

「はい。私、リナ・トウノは病めるときも健やかなるときもレオナルドを信じ、敬い、愛し抜くことを誓います」

「レオナルド。誓いの言葉を」

「はい。私、レオナルドはリナ・トーノを何よりも愛し、敬い、死ぬまで離さないことを誓います」


「では、指輪の交換を」

 ローガンが運んでくれたリングの交換をする。

 左手の薬指。

 ここに指輪をすることになるとは思ってなかった。

 チカチカと光る、日常でも邪魔にならないシンプルな指輪。

(レオとお揃い…)


「では、誓いのキスを」

 大勢の子供たちの拍手と歓声。

 胸が詰まって、リナの大きな目から涙がこぼれた。


 ヴェールをめくって泣いているのを見たレオは、ちゅうと涙を舐めた。

「もっと泣いていいぞ。リナの涙は甘い」

「甘いわけないじゃない」

 ふふふと笑っていたら、さっと抱きしめられてキスされた。

 子どもたちはキャーキャー言って喜んでいる。


「誓いは天に届けられた。おめでとう。2人はこれより夫婦となる。末永く幸せに」

「ありがとうございます」

 2人で礼を言って、笑いあった。


 本来、結婚式というものは近所の人を招いてパーティーをすることが多く、ドレスは着るが、こうした誓いの言葉や指輪の交換などはないものらしい。

 それを、リナの思い浮かべる結婚式のイメージを根気強く聞いて、慣れないことなのに叶えてくれたみんなには感謝である。


「ブフーーーーーー」

 トーマスが大きなワゴンを押してきてくれた。

 ウェディングケーキだ。


 ケーキの入刀をして、子供たちに分け、レオもリナにファーストバイトで食べさせてくれた。

 お互いに食べさせあって、口の周りをクリームだらけにして、子供たちと大いに笑いあった。

 結婚式は大成功である。


 その夜。

 リナはレオナルドと2人、女王様に呼び出されて魔王様の部屋の奥にあるドアをくぐった。


「普段はだーれも入れないところだが、2人の結婚の祝いだよ」

 バチンとウインクして、リナに笑いかけてくれる魔王様。


 そんなところで何があるんだろうか。


 しばらく階段を降りて、地下に行くと、石造りの部屋の中に、ポツンと泉のようなものがあった。

 水は光を浴びているから光っているのかと思ったが、光り方が不自然だ。

 たいまつが部屋の四隅に燃えているのに、泉は青白く発行しているのだ。


「魔王様、これは?」

「ああ。説明は後にしよう。レオナルド、聖女リナ。履き物を脱いで泉に入ってくれ」

 レオは泉に近づいて、靴をぽんと脱いでリナを促した。

 リナも履き物を脱いで、先に泉に入ったレオに手を引かれて泉に入る。


 水は不思議な感触だった。


 触れ合っているが、肌と水の間に膜があるような感じがする。水と直接触れ合ってる気がしないのだ。


「レオナルド。始めなさい」

「ああ」

 レオはリナの両手を握って、目を閉じた。


「俺の妻、リナ。愛している。長く2人でいるために、レオナルドの寿命をリナに分け与える」

 リナがレオの言葉に咄嗟に声を出そうとした瞬間、2人の体を泉の水が取り巻いた。

 ぐるぐると蛇のように2人に巻き付いてきたのだ。


(体が熱い!! レオ!!)

 一瞬のようだった。長くも感じた。リナは瞼を閉じても感じる光が収まるまで目を開けられなかった。


「レオ…?」

 やっと光が収まってきたので目を開けた。

「リナ。これで俺たちは寿命を分け合った。リナは長く生きられる。ずっと死ぬまで一緒に居よう」

「レオ…どれだけ? どれだけ私に寿命を分けちゃったの? レオの寿命が短くなっちゃうの?」

 慌てて聞いたがレオは笑うばかりだ。

 魔族と異世界人の寿命については考えたことがないといえばうそになる。

 それをこんなに無理やりに合わせてくるなんて、リナは想像もしていなかった。


「俺の人生は、リナがあってこそだ。リナと一緒に寿命を迎えたい。俺のわがままだ」

「レオ。…勝手に決めて、だめじゃない!」

「説明したら止めたろ?」

「それは――」

「リナ。愛してる。リナと一緒に老いて、死にたい」

「レオ…」

 もう、こんなことを言われたら、怒っていいのか喜んでいいのかわからない。

 いや、嬉しいのだ。

 命を賭けて愛してくれると誓ってくれたのだから、嬉しいのだ。


「ありがとう。レオ。一緒におじいちゃんとおばあちゃんになりましょう」

「ああ。どれだけ年をとっても、リナはかわいいままだろうな」

 泉の中で抱き合い、唇を合わせた。


「まずはかっこいい父親とかわいい母親になろうな」

「任せて!」


 2人はどんな家庭がいいのかを話しあって、笑いあって、夜明けまで眠れなかったので、次の日盛大に寝坊してモーラに気を使われてしまったのだった。





 了



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