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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「リナ。落ち着け。そいつの言葉に耳を貸すな」

「レオ? 私、人間でいられないの?」

 リナの体がカタカタと震える。


「大丈夫だリナ。俺の言葉を信じろ。どんな姿でも俺はリナを愛してる」

「て、天使になっちゃうの? 私…?」

「可能性だ。リナ。今は人だからそのままの可能性が高い」

 レオが飛んでくる矢をはじきながら、リナに必死に語り掛ける。


「それはちょっと、楽観的過ぎるかな。リナフェリックス。ちゃんと説明してなくてごめんね。君は、まだ卵の状態だよ。天使でも人間でもある。でも、天使に羽化するほうが可能性が高いんだ。だから異世界から君を呼んだ」

「え?」

「だって、異世界でいきなり天使になったら、君、実験動物かなにかみたいに扱われたんじゃない?」


 もし、リナの世界で背中に羽が生えた人間がいたら。

 考えただけでぞっとする。

 必ず見世物みたいに扱われていただろう。

 普通の生活がいきなり崩れる。友達も恋人もいなかったけど、知り合いには奇異の目で見られただろう。

 なんなら恐ろしい生き物として攻撃されてもおかしくない。


(アリステッドはそれをわかってて私を呼んだ? 天使になるのが確定してるから?)

 頭が混乱する。


「リナ!!」

 どうっと飛び掛かってきた天使を蹴り飛ばしてから切り付け、大きくジャンプしてレオは距離をつめてきた。


「気にすることない。リナはリナだろ?」


 中庭ではパニックになった人たちが逃げ惑っている。

 新しく天空都市に招かれた人たちが、タラップに人が溢れている。


「リナ。愛してるんだ。リナしかいらない。リナしか欲しくないんだ。俺のリナ」

 必死の説得。

 レオはこれしか持っていない。

 リナを愛する気持ちは、誰と比べようもない。

 レオの心が、リナを欲している。


 ぐらり…


 地面が、天空都市が揺れた。


 バオーーーーーーーーーーーーーー!!!!


 低い低い、聞いたことないくらい低い楽器が鳴らされたかのような、体を震わせるような音が響く。


「あ。解放されちゃった」

 アリステッドは暢気につぶやいて、リナを抱きしめる力を強めた。


 バサッと羽を広げると、リナを抱いて飛ぶ。


「リナぁ!!!!」


 この世界のすみわけ。

 魔族は地上。天使は天上。空を飛べるのは天使のみ。

 どんな偉大な魔法使いも、比翼を持った魔物以外は空を飛ぶことが出来ない。

 それでも天空都市を超えて飛べるものは少ない。


「リナフェリックス。天空都市が落ちるところを一緒に見よう」

「え?」

「君はそうしたいんでしょ?」

「…そうよ。魔王様を燃料にしてあんな目に合わせて!! こんなところ、地上に落ちればいい!!」

「あはは。そうこなくちゃ。君を呼んでよかったよ」


 空高く飛び、足元のレオが小さく見える。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 天空都市が大きく揺れる。


 バオーーーーーーーーーーーーーーン!!


 強烈な破壊音。

 低い楽器の音。


 どかん!!


 がれきを吹き飛ばしながら、巨大な冬の魔王様が上半身を現した。


 楽器の音だと思った低い音は、魔王様の叫び声だった。


「レオ!逃げて!!」

 がれきが舞い、大きく揺れる天空都市の中で、レオは天使と戦っている。


「リナフェリックス。きちんと見ないと。天空都市が落ちるところを」

 ほら、というように指さした先には魔王様。

 リナの影犬のワンちゃんが周りをぐるぐる回っている。

 北の女王様が乗っているはずだが、それにたいしても巨大な腕を振るって潰そうとしているように見える。


「魔王様…もしかして、意識がはっきりしてないんじゃ…」

「そうだねぇ。三百年ずっと魔力を吸い取られて来たんだもの。錯乱しててもおかしくないよね」

「アリス!他人事みたいに言うのやめて!!」

「あはは。やっとリナフェリックスが僕をアリスと呼んでくれた!」

 きゅうと力を込めて抱きしめる力を強められた。


「リナフェリックス。大好きだよ。君がこの天空都市を落としたいって言うなら落とす。ほかの天使が必要ないって言うならすべて消してもいい。それが、最後の4枚羽の僕ができる愛情表現だから」

「なによ! 私にかこつけて自分がしたかったことを私に押し付けないで!」

 リナの言葉にアリステッドはあっけにとられた顔をした。


「アリスは誰も好きじゃないじゃない。私って言うきっかけが欲しかっただけでしょ? この世界を恨んで、天空都市を恨んで、他の天使たちを恨んで。自分では何もしなかった自分を恨んでるじゃない!」


「あは! あはははははははは!」

 アリステッドは初めて本当に腹の底から笑った。


「どうしてちょっとしか顔を合わせてないのに、君にはわかっちゃうのかなぁ? ほかの誰も、兄さん以外だれもわからなかったのに…」

 ぽつりと漏らされた言葉を、リナは拾うことが出来なかった。


 リナは集中していた。


(魔王様。助けに来ました。落ち着いてください。北の大地に帰りましょう)

 リナは祈って祈って、額に汗をかくくらい力を込めた。


 魔王は地下にいる自分の体を外に出そうと、地面に手をついて上半身を浮かせた。


 ガクン


 天空都市が落ちる。

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