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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 春の地は巡礼者たちが押し寄せて混沌としていた。

 元々の地上に住む魔族には、「天空都市への道が開かれる」と言っても「へー」ってなもんである。

 大勢の金持ちの教会関係者は宿に泊まり、それ以外の一般的な巡礼者は続々と街の周りにテントを張って野宿の準備だ。


 町の商売人は巡礼者のための食事処や屋台の準備をしたりと、いまが稼ぎ時だと活気がある。

 しかし、旅人が増え、住人以外の者が集まれば治安も不安が出るということで、トラブルに対応するための冒険者たちも巡回に当たっているようだ。


「レオナルド? 何してんだそんな恰好で」

 巡礼者の格好をし、フードをかぶっていたが、町に入っていきなり見つかった。


「ギャリー」

 鬼人の女冒険者、ギャリーだ。夏の地ではリナの風呂の世話をしたことがある。


「そんな格好してなんだよ。リナは? 買い物か?」

 レオの足元をぐるりと見て、姿が見えないので不思議そうにしていた。


「ギャリー。話がある」

「なんだよ、怖い顔して…」

 ギャリーを連れて、路地裏に入る。


「聖女様が天空都市への入り口を開くという噂だが…」

「ああ。結婚式な。巡礼者が多くてトラブルも増えてるよ」

『リナだ』

 冒険者の間で使われる、指文字でしゃべるレオ。


『なにが?』

『花嫁は、リナだ。攫われた』

『…異世界人だったのか。道理で…』

 ギャリーは風呂でリナが魔力を流すことが出来なかったのを見ている。


『俺はリナを助けに来た』

『助けにって…勝算はあるのか?』

『ある。俺は手段を選ばないからな』

『久々にギラついたレオナルドを見たよ』

 ギャリーは笑う声を堪えてレオの顔を見る。こんな好戦的な表情、リナは見たことがないだろうなと思った。


『何でも言ってくれ。手助けする』

『ありがたい』

 二人は拳を合わせて、約束を交わした。



 春の町から少し離れた広場では、テントがぼこぼこと設置されて、場所取りが始まっている。

 普段は節約している冒険者や、旅行者がちらほら使っているくらいだが、もうすでに満員である。

 町に雇われた冒険者はここを中心に見回り、巡礼者同士のトラブルや、窃盗犯などが出ないようにしているようだ。


 レオは端の暗い場所にテントを張って、空を見上げる。

 遠くの空に天空都市が浮かんでいるのが見える。

 こちらにゆっくりと近づいているのだろう。

 巡礼者たちは歌ったり踊ったりと、夜になってもお祭り騒ぎだ。


(リナ。リナ。迎えに来た。もうすぐだ。もうすぐだから気を強く持ってほしい)

 レオはリナに話しかけるが、応答がない。


(リナ? 眠っているのか?)

 いつもならリナの返事が返ってくる時間だが。リナの様子が知りたい。

 あの切迫した悲しみの声が最後だった。

 レオはリナの姿を想い浮かべて集中する。


 音がすべて消える。


 周りの気配が消える。

 レオはただ1人。

 全てを削ぎ落して、レオただ1人で意識を飛ばしてリナに会いに行く。


(リナ)

(…レオ)

(泣いているのか?)

 暗闇の中で座り込んだリナがボロボロと涙を流している。


(リナ。助けに来たから、もう泣かなくていい)

 レオはリナを抱きしめた。


(レオ。北の魔王様が捕まってる。まだ生きてる。助けてあげて)

(先代の魔王のことか? 捕まってる?)

(この天空都市を浮かせる生きた燃料にされてる。助けて)

(なんて…ことだ…)

 流石のレオも驚いた。

 先代魔王は病により、深層世界の奥に眠っているということだったのに、実際は攫われていたなんて。


 抱きしめているリナの熱が伝わってくる。

(リナ? 熱があるんじゃないのか? かわいそうに)

(レオ。早く私を助けて。ここに居たら私…)

(わかった。朝を待て。朝が来たら、俺はリナを救いに来る。必ずだ)

(…わかった。待ってる。絶対に来てね)

(俺はリナに嘘をつかない。必ずだ。愛してる、リナ)

(レオ。愛してる)

 二人は抱き合い、唇を合わせ、夢がほどけるまで一緒にいた。


「聖女様? 目が覚めましたか?」

「……モーラ?」

「はい。モーラです。起き上がれますか? 大天使様から熱が出た時のために薬を預かっています。飲めそうですか?」

「薬…。いま、夜?」

「そろそろ日が沈みそうです。カーテン開けましょうか?」

「ううん。大丈夫よ。薬、飲むわ」

 モーラから手渡されたオレンジ色の液体の入った瓶を、グイっとあおった。

 子どものころに飲んだ、風邪シロップみたいな味だ。懐かしい。


「明日には、春の地で、この天空都市への新しい住人を選びます。おめでたいことです」

「そう…」

 汗をかいたので、タオルで汗を拭いて、着替えさせてもらう。


「聖女様、早く熱が引くといいんですけど…」

 モーラは小さな手で、リナの額に触って熱が高いのを心配してくれる。


「大丈夫よ。朝までにはきっと熱も引くわ」

「そうですね。朝には元気になっているでしょうね!」

 必ず、朝には元気になっていないといけないのだ。

 リナにはやることがある。


「モーラ、あのね…」


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