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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 翌日から、散歩は天使の居住区に加えて、人の居住区にも入ることが出来るようになった。

 人の居住区は、昔の田舎町といった雰囲気だ。


 中世ヨーロッパの一般人はこういう生活をしていたんだろうな、というような普通の生活だった。

 魔法もないし、貧しさが蔓延しているが、みな一生懸命に働いている。


 モーラの説明では、「天使様の住まう空中都市へと選ばれた民は、天使様に仕えることで生まれもった罪を洗い流し、来世、天使様に生まれ変わることが出来る」という信仰があるのだそうだ。

 地上の教会の信徒たちも、その教えを信じて天空都市へと目指しているのだということだった。


 天空の楽園。そう教えて信仰を集めている。


 確かに天使は優雅なものだ。

 労働をすべて人に任せて、自分たちは歌ったり寝たり本を読んだり。のんびりしている。

 労働者からすれば、憧れの生活だろう。


 ただ、現代日本の感覚を持っているリナには、体のいい奴隷制度にしか思えない。

(なによ、生まれながらの罪人って。本当にその教えが本当だったら、天使だって元は罪人じゃない)という具合である。


 人々が天使を護衛に連れて現れたリナを見て跪くのを、モーラに言って普通にしていていいと伝えてもらうが、みなリナを直接見れば罰が当たるというように、目を伏せてしまう。


 しばらくあるいて畑を見て回っていると、部屋では聞いたことがなかった鐘の音が聞こえる。

「モーラ。これは?」

「お清めの時間を知らせています」

「お清め?」

「大人たちはお仕えに加えて、お清めで罪を洗い流します」

 モーラが護衛の天使を見ると、了解の頷きを返された。

「ご案内いたします」


 建物の中に、清めの部屋というものが用意されている。

 扉は開け放たれ、中が見えるようになっているので覗いてみると、大人たちが静かに並んで自分の順番が来るのを待っていた。

 列の先には巨大な真っ白の6枚羽の天使像が建っている。

 天使像は右手に杖を持ち、杖の先に付いた水晶の玉のようなものをこちらに向けていて、人々は像の足元に跪き、像が持っている杖の先にある水晶玉に触れて一心に祈る。

 1人の祈りが終われば、水晶はきらきらと輝く。


「早く罪が浄化されるように、大天使様の像に祈りを捧げています」

「あれはじゃあ、罪が浄化された証なの?」

 きらきらの輝きを指させば、モーラは笑顔でうなずいた。


「私たちの持っている罪。それを大天使様の像は吸い取ってくださいます」

「罪……」

 なんだか引っかかる。


 じっと祈っている男性を見ていると、水晶の輝きが一層強くなったかと思うと、男性が倒れてしまった。

「倒れた! 助けないと」

「ダメです! 聖女様。()()()()()!!」

 焦ったモーラの強い言い方に、護衛天使がモーラをひっぱたいた。


「モーラに何するの!?」

 走り出そうとしたが、倒れたモーラに気をとられているうちに、倒れた男性は人々に担がれて部屋を出て行ってしまった。


 護衛は何もしゃべらない。

「モーラ。大丈夫?」

「平気です。聖女様に失礼な口をききました。失礼いたしました」

 モーラは赤い頬を抑えながら頭を下げる。


「いいのよ。これからモーラがどんな口を聞こうが、私に断りもなくモーラを罰することは許さないわ」

 護衛天使が頭を下げた。


「モーラの手当てをしないと。部屋に戻りましょう」

「はい…」



 部屋に戻って、モーラの頬を冷たい水で濡らしたタオルで押さえる。

「モーラ。私が勝手に動いたから。ごめんなさい」

「平気です! 聖女様が倒れた人を助けようとしてくださったのは分かっています」

「じゃあ、どうして止めたの?」

「あの大人は罪を許されて、生まれ変わります。おめでたいことです。そして、聖女様が触ってしまったら、聖力が使われてしまうかもしれないからです」

(…魔力だ。あの男の人、魔力を使い果たして死んだんだ……)


 リナが触ればもしかすると魔力を回復させてしまう。

 すると、またこの奴隷の生活が続くのだ。

 あの男性が、生まれ変わりを本当に信じていたのかはわからない。本当は生きたかったかもしれない。

 でも、モーラは見張りの天使がいる前で、教義を信じている人がいる前で、余計なことをしないほうがいいと判断した。

 モーラは毎日リナに触れて、一緒に寝ている。

 リナの聖力と言われるものが、魔力と一緒で、自分にも流れてきていることを、もう勘づいているんだろう。


「ああ。私がうかつだったわ」

「聖女様がお優しいのは知ってます」

 ニコッと笑って傷が痛んだのか、「いたた」と呟いたモーラ。


 タオルを外すとくっきりと手の指の形に赤くはれている。

「ひどいわ」

 リナは泣きたくなった。こんな子供が普通に殴られてしまうなんて。

(愛してるわ。モーラ)

 祈った。頬に手を添えて、じっと目をつむって。


「あ、あれ?」

 モーラは自分の頬を撫でる。

 腫れが引いて赤みもなくなった。


「よかった。モーラにも効いて。もう痛くない?」

「はい! 平気です。聖女様、ありがとうございます」

 魔法は使えないはずだが、レオはリナの愛が効くと言っていたので賭けだった。

 きっと分けた魔力が、体内で勝手に変換されて、回復に向かって行くのだろう。


 自分にもできることがある。

 やっとリナは物事を前向きに考えることが出来るようになってきた。

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