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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 アリステッドが部屋に来たのはお昼ご飯が終わったあとだった。

 ワゴンを押してモーラが出て行ったのと入れ替わりで、部屋に入ってきた。


「君が世話して、あの子供、見れるようになったね」

「きちんと世話したらどの子も可愛くなります」

「可愛いとまでは言ってないよ」

 あははと笑うアリステッド。

 本当に憎らしい。


「誰のことも、可愛いなんて思ってなさそうですものね」

「そうだねぇ。興味がないね」

 のほほんとしたものだ。


「でも、リナは面白いから見てて飽きないよ」

「全然、顔あわせてないけどね」

「なんだ。来てのもいいの?来ないほうがいいかと思ってたんだけど」

「来ないでいいわよ」

 あははと本当に楽しそうに笑う。


「本当に嫌そうだ」

「本当に嫌です」

「会話って楽しいね」

 どこが会話になってるのか不思議だ。


「好きなだけ天使たちとの会話を楽しめばいいじゃない」

「ほかの天使たちとは会話にならないよ」

 どういうことか気になったが、アリステッドのプライベートのことを気にしてる場合じゃない。


「なにしに来たの?」

「婚約者の顔を見に。少し外を歩いただけで倒れちゃうなんて心配じゃないか」

 心配するという神経があったことが驚きだ。


「それはどうも。元気になりました」

「まだ青い顔して何言ってんの?リナフェリックスは自分の体調を自分で管理できないのかな?」

「で・き・ま・す。早く出て行って欲しいだけです」

「魔法で回復させようか?」

「偉大なる大天使様の聖力を使っていただくことはございません」

「あはは。あの子供の話し方がうつってるよ。アリスって呼んでよ、リナフェリックス」

 アリステッドは歩いてリナのベッドに近づき、端に座った。


「顔がこわばったね」

 手をのばしてくる。

「僕が怖い?」

「……怖いわ。だって私を攫ったのよ」

「僕の物を取り返して、何が悪いのかな?」

 きょとんとした顔。本当に何が悪いのかわかってない。


「レオを殺そうと、した……」

「リナフェリックスを召喚場所から攫ったからね。罪深い悪魔だよ」

「子供たちがたくさんいるのに攻撃した!」

「悪魔なんて、勝手に増えるんだから、多少減らしても平気さ」

 ひゅっとリナの手がアリステッドの顔を叩こうと振りかぶられたが、受け止められた。


「なんてこと言うの!」

「君こそ何を言ってるの? リナフェリックス。君を迎えに行った天使が何人命を落としかのかわかってるの?」

「知らないわよ!」

「君は命の価値を天使と悪魔で分けてる。それって普通なの?」

「魔族は私を助けてくれて、天使は私を攫いに来たわ。魔族のみんなは私を守ってくれようとしたのよ。そもそも、あなたが私を元の世界から呼ばなければこんなことになってない!」

「ふーん。やっぱり君の中で天使の価値って低いんだね」

「悪いわね。私は自分の小さい範囲でしかものを考えてないわ。好きか、嫌いかよ」

「僕だってそうだよ。リナフェリックスしか好きじゃない。だから悪いとは言ってないよ」

「……」

 この状況で、何をいいだすのだ。


「なんでそんなに…私のこと好きなのかしらね」

 それくらいしか言えなかった。


「見てて楽しいからね。君の母親にそっくりだ」

「私じゃなくて、母のこと見てるのね」

「あ、あ~。えっと、あれだ。嫉妬! リナフェリックス嫉妬してる?」

 ぴっと指を差された。


「母のことも私のこともさっさと忘れてください」

「あはは。忘れないよ」

 リナの頭をゆったり、なでた。


「忘れられないものって、この僕にもあるんだよね」

 いつもの変な笑い方でなく、一瞬だけ普通に笑ったように見えた。


「じゃあ、ケンカする元気が出たみたいだから、そろそろ行くよ」

 立ち上がって、ドアまですたすた歩いて行った。


「あ、そうだ。元気になったらいろんなところを見に行けるように連れて行ってあげるよ。君のお世話係もね」

 外に出てからドアを閉める前に、こちらを見た。


「見たいんでしょ?いろんなところ。リナフェリックスは特別に見せてあげるから、早く元気になってね」

 パタン。

 リナの返事がなくとも、アリステッドは分かっているようだった。


(わかってて、なんで協力するようなことするのかなぁ…?)

 わからない。

 どうせなにもできないと思っているのか。


 窓の外を見る。

 今日は雲が多い。

 すっかり冬の土地から移動して、今は秋の土地をゆっくり動いているらしい。

 窓を開けると風が冷たくて気持ちいい。ちょっと寒いくらいだから、まだ遠くはないのかもしれない。

 もう、あのきれいな北の大地の冬が懐かしい。


(レオと飲んだホットワイン、美味しかったな)

 熱々のスパイシーな鹿肉。

 子どもたちと飲んだココア。


 青いバラの香り。

 子どもたちが作ってくれた、ふにゃふにゃの雪の花の花冠。

 深層世界のピクニック。


 レオの香り。

 あの装備品の手入れをしているときに香る柑橘の匂い。


(レオ……)


 リナは布団をかぶって、声を出さず、流れるままに涙をこぼした。


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