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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「モーラ。荷物は?」

 朝目覚めたリナが、モーラに尋ねた。

「これです」

 モーラは鳥の巣のような藁の寝床を部屋の端っこに置いていた。


「着替えは?」

「ありません。水浴びの時に洗ってまた着ます」


「因みに今まで食事は1日に?」

「1回です」


 リナは頭が痛くなってきた。

(どこの世界の奴隷なんだ……。いや、この世界の天空都市での人の扱いはこんな風なんだろうね)


「モーラ。天使に言って。モーラの着替えを用意するようにって。最低でもそうね、3セット」

「3セット…」

 息をのむように数字を口にする。

「そうよ。モーラには毎日お風呂に入ってもらうわ」

「毎日!?」

「当たり前よ。私のお世話係なんだもん」


 リナの要求はすぐに通った。

 モーラが天使にお伺いに行って、すぐに着替えを持って帰ってきた。


「ありがとうございます!聖女様」

 きゅうと大事そうに簡素な服を抱いて礼を言うモーラはかわいらしい。


「そこの私の服がかかってるところ、空いてる引き出しがあったわ。モーラの着替えはそこに入れたらいいよ」

「ひえっ! 私の服は寝床の横に置きます!」

「寝床? その藁に寝るつもり?」

「はい!」

「だめよ。毎日お風呂に入って、私と一緒にこのベッドで寝てちょうだい」

「そんな! 聖女様のベッドなんておそれおおいことです」

「じゃあ、私がモーラの藁のベッドで一緒に寝るわ」

「ひぃ!」

「モーラがどうしても1人じゃないと眠れないならあきらめるけど、そうじゃないならお願いできない? 1人で寝るのに慣れてないの…」

「聖女様…」

 良心に付け込むようで罪悪感が湧くが、こういうふうに言えばモーラは渋々了承してくれる。


「私は子どもたちと一緒の寝床なので、平気です」

「じゃあ、お願いしていい?」

「はい!」

「じゃあ、さっそくお風呂に入りましょう」

「準備します!」

 モーラは楽しそうに、嬉しそうに、バスルームにスキップして入っていった。



「聖女様。これでは私がお世話されているようです」

「いいのいいの。好きにさせて」

「…はい」

 浴槽に入ったモーラの頭をわしゃわしゃ洗う。

 モーラの髪は絡んでいて、少しずつほどきながら何度もシャンプーで洗った。

 最初は泡が出なくてびっくりしたが、水浴びしかしてなかったのなら仕方のないことだ。


(それにしても、細すぎるわ)

 モーラの体は骨が浮き出ているところがある。天使ではない子どもたちや大人も、こんな扱いを受けているのだろうか。

 トリートメントをしながら、モーラの背中をタオルで優しくコシコシ擦ってあげる。


「モーラ。子供たちは毎日何をしてすごしているの?」

「畑仕事や家畜の世話です」

「重労働ね」

「天使様の生活のために、私たちがいます」

(それにしては扱いがなってないわね)


「お父さんやお母さんは一緒にいるの?」

「親ですね。親は生まれた子供と離れた場所で働いています」

「たまには会うの?」

「私は自分の親が誰かを知りません。なので会っているかもしれません」

(なんてことを!!)


 聞けば聞くほど虫唾の走る天空都市の実態。

 人を騙してここに連れてきているんだろうけど、これでは地上の方が楽園ではないか。逃げ出すものはいないのだろうか。


「モーラ。ここは好き?」

「ええ。聖女様。私は天空都市に住むことを許されたのです。幸せです」

 モーラは手のひらを見せて、また手の甲を見せるジェスチャーをした。


「地上は争いが多く、人を()()()させる悪魔がいると聞いています。恐ろしいことです」

 またジェスチャー。


「聖女様も悪魔に()()()()()と天使様がおっしゃっていました。しばらく私や天使様と過ごすと悪魔にかけられた魔力が抜けるそうです」

「地上の魔力と、天使の聖力って違うの?」

「聖女様! なんということを!! 天使様の力と悪魔の力を比べるなんて!!」

 モーラは慌てた声を出したが、ジェスチャーをしながら真剣な目でこちらを見た。

(ああ。思ってることと違うことを言うときにこのジェスチャーをして教えてくれてるんだわ)


「そうなの。天使の聖力は魔族とは違うのね」

「そうです。天使様は偉大なこの天空都市の支配者様です。尊いお方たちです」

 ジェスチャーをしながらしゃべるということは、天使に反感を持っている人が少なからずいるということ。

 あとはこの部屋に、いつでも聞き耳がたてられていて、天使やアリステッドに会話の内容が知られているということ。


(やっぱり防音だなんて安心させて、私が何かしようか企んだらすぐにわかるようにしてたんだ。気持ち悪い男だ)

 モーラを全面的に信用していいのかどうかはわからないが、羽の生えた連中よりまだ安心できる。

 優しいモーラが一緒にいてくれるだけで、心が安らぐ。

 心を許す相手が出来れば、それが弱点になることは分かる。

 嫌らしい天使がモーラを使ってリナに言うことを聞かせることもできるようになるだろう。

 でも、やっと見つけた会話のできる子供を、リナは邪険にできない。

 モーラの世話をしなければと思った途端に、食事もできるようになった。

(世話されてる時より世話してる時の方が、確かに元気なのよね)

 アリステッドにいいように扱われてるような気がするが、孤独に潰されそうになるよりはいいのだ。



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