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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 アリステッドはぺらぺらと、リナが聞いてようと聞いてなかろうと楽しそうに話す。


「君の母親はね。生まれてすぐにこの世界に呼び出したんだよ。僕の婚約者として育てるためにね」

(ニコニコして、何がそんなに楽しいんだろうか。生まれたばかりの赤ちゃんを誘拐しておいて)


「でも、同じように世話してたはずなんだけど、兄さんに懐いちゃったんだよねぇ」

 んーと悩むように顎に手をやって「残念だ」とつぶやいた。


「顔も似てるし、どうして兄さんだったのかわからない。聖力も僕との方が相性が良かったはずなのに」

(気持ち悪いからだよ)とリナはお腹の中で思う。母の見る目は正しかった。


「で、結局、僕との結婚式前に2人で駆け落ちってやつ? しちゃったんだよね」

(そうか。2人は異世界から駆け落ちしてきたのか。そりゃ親戚の1人もいないはずだ)


「兄は完全なる天使だろ? どうせ異世界に行ってもすぐ死んじゃうし、改めて1人になった君の母親を呼び出せばいいと思ったんだよね。一回は元の世界に戻って兄とも生活できたし、赤ん坊も産んだし、喜んで戻ってくると思ったんだけどねぇ。まさか数年、目を離したすきに死んじゃうなんて」

(なんなのだ、その執着は)


「別の天使と結婚すればいいじゃない。なんで母なの?」

「馬鹿だなぁ。それが出来ないからわざわざ異世界から呼び出してるんだよ」

 馬鹿呼ばわりされる筋合いはないが、理由は分からないので反論せずに聞く。


「天使同士では聖力が合わない。合わなければ子供が出来ない。だから伝統的に力の強い天使には異世界からの番を呼び出すことになってるんだ。だから、君の母親は僕と結婚しなければならなかったのに、役目から逃げてしまった」

(ゲー)

 目が回りそうなくらい気持ち悪い種族だ。

 何が天使だ。

 なにが善だ。

 教会の人間はこういうことを知っていて、この天空都市に住みたいと思っているんだろうか。


「人間って、育ててくれた人とか、優しくしてくれた人を好きになるんだろ? 今まではそうやって小さい時に連れてきてうまくやってきたのにさぁ。時間かけて育てたのに全くの無駄だったよ」

(こいつの口を縫い付けようと思ったらどうやったらいいのかな…)

 わなわなと震える手を反対の手で押さえるので精いっぱいだ。


「君の存在を知った時に、本当にうれしかったよ。今度は慎重に、大人になってから連れてくることにしたんだよね。君も小さい時から育ててもうまくいく気がしなかったから。それなのに悪魔に連れ去られるなんて、うまくいかないねぇ~」

(大人になってからもアンタみたいなの無理に決まってるだろ)

 もうアリステッドの姿を見ないように目をつぶるしかない。

 このままでは怒りのまま飛び掛かってしまいそうだ。


「そういえば、この天空都市って、どうやって浮かんで移動してるか知ってる?」

「知らない。興味ない」

「そっかー。これ、悪魔を燃やしてるんだよね」

「は?」

「悪魔の魔力を動力にしてるんだ」


 頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。


「君が懐いてた悪魔、なんていったっけ? 君のこと助けに来るかな?」

 サッと顔が青くなる。


 絶対来る。

 レオはどれだけ時間がかかろうが、方法がなかろうが、諦めないで絶対に助けに来る。

 それだけは信頼できる。


「何百年前か前に北の悪魔を捕まえたから、今は平和に飛んでるんだけど、そろそろ燃料も追加しないとね」

「北の女王様の前の王様のこと?!」

「そうだね。あそこは青バラが生えてたり、寒かったりするから僕らもあんまり近づかないんで油断してるのさ。今回は天空都市ごと移動させたから、力技だったけど。悪魔もどうせ対応って言ったって、天使が苦手な匂いだって香を焚くくらいだろ? あんなもの、我慢できる程度だよ」

「嘘よ。燃やしたら逃げたって聞いたわ」

「あはは!弱点があるって思ってる方が、希望があっていいじゃないか!」


(遊んでるんだ。地上の魔族で)

 全身に鳥肌が立つ。


「リナフェリックス。結婚式は白のドレスがいいんだろ?用意させるよ」

(どこからレオとの会話を聞いていたのだ)


「黒がいいわ」

「黒?そうなの?」

「全身真っ黒で」

「ふーん。なんか意味あるの?」

「気分よ」

「まあいいけど。お葬式気分なんだったらそれでもいいよー」

(知ってるんじゃない。性格悪い)


「悪魔と一緒にいて、君はいま穢れた存在ということになってる。悪魔の子供を宿してないか、健康状態はいいか、隔離して確認する。まあつまり、この部屋にしばらく監禁だ」

 アリステッドがやっと立ち上がった。


「じゃ、たまには顔を見に来るから」

 召使たちもみんな部屋から出ていく。


「食事は健康的なものを1日3回。トイレもシャワーもついてるから勝手に過ごして」

 ドアノブに手をかけたアリステッドはにこりと笑う。


「泣いても喚いても防音だから安心して」


 バタン


 大きな扉が閉められて、リナは1人きりになった。


(なんなの? 天使ってどういう生き物なの?)

 リナは本当に叫び出したかったが、頭の中に浮かぶままに口に出さなかった。

 防音だなんて信じてなかった。


 アリステッドの言うことなんて、一つも信じたくなかった。




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