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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「気に入らない。気に入らないったらないよ」

「思い通りにならなくて残念ね」

 リナは震える腕を抑えながら、レオを見つめ、天使に悪態をつく。怖くて震えてるのか、怒りで震えているのかわからない。ただ握った手が真っ白になるくらい力がこもっている。


「頑固なのは父親譲りかなぁ? それとも母親?」

「アナタに私の両親のこと、言われたくない」

 どうもこの天使はリナの両親の話を持ち出す。気に入らないのはリナの方だ。


「り な はなさ なく て いい」

「はい」

 女王の言葉にうなずいて、リナはじっとレオを見つめて祈った。

(レオを助けて。愛するレオに私の魔力を全部全部…)


「ああ。かわいそうに。すっかり悪魔に手懐けられて」

 天使はリナを憐れむように見つめる。


「そうやって、悪魔に魔力を分ける物としてしか見られてないのに。僕たちは君を助けに来たんだよ?」

 ふんと鼻を鳴らして天使が馬鹿にしたように笑う。


「どうして悪魔が異世界人を拾うかわかるかい? 世にも珍しい、魔族に魔力を分けられる生き物として飼われてるんだ。いくらでも魔力を分け与える、魔力を使い切っても異世界人はいくらでも魔力を満タンにする。そうやっていずれ、異世界人は魔力を使い切って死んじゃうんだ」

 リナは返事しない。


「そして、すっごく不愉快なことに、魔力の相性がいい悪魔と出会って惹かれあうんだよね。騙されてるのに。好きだ、愛してるって言われたら、その気になっちゃうよね。リナは子どもだし、悪魔は口がうまいからね。魅入られたら抜け出せない。だから僕が迎えに行くまで待っててほしかったのに。そうしたら、リナは僕を好きになってたよ」

「なるわけないでしょ!!」

 我慢できなかった。

 こんなやつ、好きになるわけがない。


「すごい自信だね」

 あははっと声をあげて笑われる。


「僕と一緒に来たら、リナの秘密を教えてあげるよ」

「いらない」

「どうして自分が異世界から呼ばれたのか知りたくない?」

「今更知ってもしょうがない」

「帰れるって言ったら?」

「必要ない」

「なんでそんなに僕のこと拒否するのかな?」

「虫唾が走る」

 あははとまた楽しそうに笑った。


「リナ。僕は君の本当の名前を知ってる。無理やりいうことをきかせることもできるよ」

「リナ!聞くな!!」

 レオが叫んだのと女王が魔法陣の強度を硬化しようとしたのは同時だった。

「リナフェリックス。僕と一緒に来い!」


 リナが気づいたら、4枚羽の天使の腕の中にいた。

(え?)

 声も出ない。


「リナーーーー!!!」

 レオの声が足元から聞こえる。


「リナフェリックスは返してもらった。では」

 上空からの挨拶とともに、すべての天使が姿を消した。

 魔法陣を押さえつけていた腕も消えた。

 リナも消えた。


「り……リナ」

 レオは膝をついて蹲った。

 守れなかった。あんなにレオを信用してくれていたのにも関わらず。


「れ おな るど」

 顔を上げたレオの頬を驚くほどの力で女王は(はた)いた。

 レオの体がすっ飛んでいく。


「りな たす け に いく」

「ああ」

 リナは信じているはずだ。

 必ずレオが助けに来てくれると。絶対にあきらめないはずだ。



 リナは気が付いたらしんとした部屋の中にいた。

 子どもたちが髪に差した花は全部燃やされて、女の天使に風呂に入れられ、下着から全部着替えさせられて、化粧され、髪をまとめて身支度が終わると、この真っ白の部屋に入れられたのだ。

 召使のような女の天使は何人か壁際に控えているが、誰も微動だにしない。

 こうしてみると、本当に陶器で出来た人形のようだ。


(なにをそんなに畏まる必要があるんだか)

 リナはソファに座ってふんぞり返っていた。

 テーブルには食べ物や飲み物が準備されていたが、手を出さない。


 ノックの音とともに、召使が扉を開けると、あの4枚羽の天使が入ってきた。

 召使が全員お辞儀する。

 よっぽど地位の高い天使なんだろう。


「リナフェリックス。ああ、やっと悪魔の匂いが消えたね。よかったよ。言っちゃあ悪いけど、臭かったよ、君」

 つかつかと歩み寄ってきて言うことがそれか。

 リナは返事せず、フンと鼻を鳴らした。

 みんなそれぞれ清潔でいい香りだったし、青バラの香りは特にいい香りだった。子供たちが集めた氷の花も、シャリシャリのはちみつの結晶みたいな香りだった。それを臭いとはなんということか。


「リナフェリックス。口を利かないつもりかい?」

「私の名前、そんなんじゃない」

「君の名前だよ。父親が付けたんだから、間違いないさ」

「アンタが父のことを知ってるわけないじゃない」

「知ってるよ。僕の兄さんだからね。何なら母親のことも知ってる。僕の婚約者だった」

「はぁ?」

「やっとこっち見たね」

 向かいのソファに座って召使が用意したお茶を飲む天使。


「僕はアリステッド。アリスと呼んでいいよ。これから夫婦になるんだからね」

「ふうふ?」

 初めて聞いた単語のように頭の中に入ってこない。


「そうだよ?僕の兄さんが僕の婚約者と駆け落ちしちゃったから、娘の君と結婚するんだよ」

「意味が分からないんだけど」

「そのままだよ」

「いやいや、その話が本当だとして、叔父さんじゃん」

「どこに問題が?僕は婚約者の君が大人になるまで待ってたんだ」

「気持ち悪い」

「あはは。君の嫌がる顔はいいね。もっと嫌がらせたくなる」

「変態じゃん」

 アリステッドはあははっと楽しそうに笑った。



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