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「お き た」
「む?」
リナが目を覚ましたら、女王の顔が一番最初に飛び込んできた。
「…女王様!!ひぃ!私、寝ちゃって!すすすすみません!!」
「いい かわい い」
可愛かったので喜ばれたようだ。
「重かったですよね。おろしていただいて大丈夫です」
「かるい あか ちゃん」
赤ん坊と同じようにしか感じなかったのらしい。
「トーマ ス」
呼んだ先にはトーマスがいて、ツノにたくさんの布をひっかけて歩いている。
「きがえ」
よく見ると、トーマスの角の布は美しいドレスだった。色とりどりだ。
「どれが いい?」
「お借りしてもいいのですか?」
「ぷ れ ぜんと」
「もらえないです。レオに怒られちゃう」
「れおな るど おこらない」
リナを抱っこしたまま歩き出した女王は、トーマスの角に掛かったドレスを選ぶ。
「れおなる ど が えらん だ」
「そうなんですか?」
「にあう の を がんば って え らんで た」
レオが選んだというならば、着てもいいということだ。
「えーっと、ピンク、いや、ブルーにしようかな?」
「しろ きれい」
「白は花嫁さんの色だからなぁ」
「?」
「私の世界では、結婚式の時に着るのが白のドレスなんです。私も結婚式は白のドレスを着たいから、それまでお預けです」
「ふー ん」
「ブルーにします!これ素敵です」
たっぷりと布を使われたドレスは濃紺の裾。グラデーションで上に行くほど淡くなる色合いで、キラキラの宝石が縫い付けられている。肩はレース編みが使われているが、程よい透け感で生々しさはない。
まるで雪の女王のようではないか。
「きがえ る」
トーマスの角からドレスを受け取ると、ドレスと一緒にドレッシングルームに入れられた。
ここもきれいでかわいい部屋だった。
女の子が好きそうな、ファンシーな部屋だ。
大きな姿見。これ一つだけでもテンションが上がる。
リナは早速着ていた服を脱いで、ドレスに袖を通した。
「なんでピッタリなんだろう…?」
リナは小さい。この世界の女性は大きい。なんでこんな小さなサイズのドレスがあるのか。
「あとで聞いてみよ」
腰回りのホックを止めるところまでは順調だった。肩は無理だ。
肩回りのレースの編み込みを止めるのも苦戦する。ちょっと爪が引っ掛かったら破ってしまいそうだ。
「女王様に結んでいただこうかしら」
「俺がやろう」
「ありがとう、レオ……って、なんでいるのおおおおおおおおお!!!」
「こら。しぃー」
「い、いつから居たの?ずっと見てたの?」
「それは見ていたかったが、リナが怒ると思ったから、今入ってきた」
「ノックして!!」
「したが、返事がなかった。すまない」
全然済まないという顔をしてないじゃないか。
「もう!気配を殺して近づくの無しよ」
「わかった」
背中を向けると、さらっと髪を左に避けられて、ホックを下から順番に止めてもらう。
「きれいだな。このドレスが一番似合うと思ってたんだよ」
「そうなの?」
「これなら黒のアクセサリーも似合うだろう?」
「そういえば、レオがくれるアクセサリーって、黒が多いね」
「ふっ。気づいてなかったのか。俺の髪の色だ。俺はお前の薄茶の髪色の髪飾りをつけるために髪を伸ばしたい」
「愛が深い…」
「髪が結べるくらいになったら、薄茶のリボンをくれ」
さらっと言われた言葉は、将来の約束だ。
「リボンが結べるくらいになるまで、どれくらいかかるかな?」
「半年か? 1年か? まあ、そう遠い話じゃない」
「今でも結べるんじゃない?」
レースのリボンがドレッサーにあるので、それをレオの頭に巻いてあげる。
「これで過ごしてくれてもいいのよ」
「本気にするぞ」
「あはは!真面目な顔してリボン!!」
「笑ってるじゃないか」
「だって…かわいいんだもん」
プレゼントボックスみたいになったレオ。
「レオ。レオも私にとっては宝物よ。あの時、見つけてくれてありがとう。私を連れてきてくれてありがとう」
「俺こそ。リナ。俺を信じてついてきてくれてありがとう。愛してる」
「レオ……」
レオの目線から逃れるように、リナは目を閉じた。
「嫌がってると、思わないぞ」
「嫌がってないよ…」
ささやき声の後、二人の唇が重なる。
熱くて、熱くて、溶けてしまいそうだ。
「レオ…」
「ああ…リナ。もっと口を開けてくれ」
レオのおねだりが出たとたん、入り口をどんと蹴破るように押し入ってきたのは
「トーマス!!」
「ブフーーーーー!!」
真っ赤になったリナはうつぶせて小さくなるし、レオはトーマスを怒るし大騒ぎだった。
「とにかく食事の用意が出来たから早く来いと呼びに来たんだな」
「ブフーーーーー!!」
トーマスはのっしと歩く。まだ真っ赤なリナはレオが手をつないで案内している。
角で大広間の扉を器用にノックして、返事があると自動的に扉が開く。
「か わ い い」
女王はリナの脇に手を入れて、すっと持ち上げるとくるくる回って喜んだ。
喜び方がいつかのレオとおんなじだ。
リナはくるくるされながらもくすりと笑う。
きっとレオナルドもされてきたんだろうと思う。
「りな は ここ」
女王の隣の席にストンとおろされた。




