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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「寒くなってきたね」

「ああ。息が白いな」

 リナの吐く息が白くなっているのを見て、レオは暖かい風を回してリナを温めた。

「ありがとう」

「ああ」


 出発してから半日、小さな町に着いた。

 ここは休憩だけの町だが、北の祭りのために土産を売る店などがたくさん出ている。


「あ、あれなんだろ?」

「食ってみるか?」

「うん!」

 じゅうじゅうと煙をあげながら肉を焼いている屋台を指さす。

 レオが2本頼んでくれて、串に刺した鹿肉をじゃぼんとタレのはいった壷に突っ込んで、スパイスを振ってから渡してくれる。


「熱いよ」

「ありがとう」

 紙袋に入れて渡してくれるから、さっさと食べないとべたべたになる。


「あちっあちっ」

「気をつけろよ」

 あっつあつの串肉は歯ごたえがあって獣の野性的な味がするが、たれが辛くて甘くて美味しい。


「おいひぃ」

「そうか。じゃああれも食べてみるか?」

「あれは何?」

「猪だな」

「食べたい!」

「よし。買おう」

 イノシシ肉は鹿肉よりももっと辛いスパイスが使われていた。多分、そのままだと獣臭いのだろう。


「牛と違って美味しいよ。辛いけど」

「辛いか。口直しをしよう」

 ちょっと辛さに苦戦していたら、リナが食べていた串をがぶっと横から食べられた。


 スパイスを入れて不思議な味わいの、甘くてスパイシーなココアを飲みながら、2人で手をつないでぶらぶら歩く。

 みんな活気があって楽しそうだ。


「おねえちゃん。氷の花冠はどう?」

 籠を持ったちいさな女の子に声をかけられる。


「氷の花冠?」

「いいな。1つくれ」

「ありがとうございます」

 リナが頭にはてなを浮かべていたら、横からレオがお金を払ってしまった。

「髪飾りの青バラはあるか?」

「もちろん!」

「それももらう」

「本物と造花とどっちがいいですか?」

「本物を」

「ありがとうございます」

 女の子はほっぺたを赤くした笑顔で下げていた籠から、キラキラと光を反射するガラスでできたような花弁の花がふんだんに使われた花冠を出した。


「うわ…きれい」

 まるで宝石のような花弁を見て思わずつぶやいた言葉に、女の子が嬉しそうに笑う。

「私が毎日、朝に摘んでるのよ。それをママと編んでるの」

「すごいねぇ」

「うふふ。ママの花冠は人気なのよ」

 レオは商品を受け取ると、氷の花冠をリナにかぶせて、耳の上に青バラの髪飾りをつけた。


「ありがとう、レオ」

「ああ。似合うよ」

「お買い上げありがとうございまーす。幸せな恋人たちにおめでとうございまーす」

 女の子は腰に付けた籠から花びらをばっと撒いて、口上を述べると手を振って去っていった。


「恋人、って言った?」

「言ってたな」

 フッと笑うレオ。これは確信犯だ。


「好きな女に贈るんだ。男がな」

「!!」

「これで誰も俺のリナに声をかける心配がない」

「俺の…!」

「俺の独占欲だよ。北に着くまでしばらく我慢してくれ」

「…う、うん」

 真っ赤になった顔で返事すると、レオがリナの頭のてっぺんにキスをする。


「レオ!」

「そんな可愛い顔をする方が悪い」

 ははっと笑ってレオはリナの手を取る。

 2人で楽しく屋台を見て回り、買い食いをして馬車に戻ると、みんなに「おっ」という顔で見られた。


「なんだいなんだい。仲がいい夫婦だと思ってたけど、結婚してなかったのかい?」

 隣に座るおばあさんに声をかけられた。

 もうすっかり夫婦だと思われていたようだ。


「まだ!結婚してません!」

 慌てて否定したら、レオが嬉しそうに笑ってる。

「そのうち、結婚してくれるか?」

「ひぃ!」

 まだということは、そのうち、と言われてもしょうがない。

 大慌てするリナに、レオは珍しく大笑いした。


「あー。俺、リナちゃん気になってたのになぁ」

 養い親と子だと思ってたという護衛の一人が笑いながらつぶやいて、レオに氷点下の目線を向けられて慌てて謝ってた。

 冒険者ギルド、上級者のレオナルドを知らない冒険者はいない。


 リナの被っている花冠と髪飾りの生花の青バラは、とっても熱烈に愛されているように見えるものらしい。

(伝わってる。伝わってるのよ、めちゃくちゃ)

 レオからどんどん愛情が伝わってくる。

(ワンちゃん、あんまり仕事しないでぇ~)

 という泣きが入るくらいには。


 レオの心はポカポカしてる。

 リナの心の冷えたところを温める。

 寒い日に暖かい部屋で飲む、ホットミルクのようだ。

 お腹の中から暖かさが全身に広がるみたいに、指の先まで暖かくなる。


 今更、これが全くなくなるって考えらえるだろうか。

 レオがどこかに行ったら?

 しかし、この気持ちが、「異世界にやって来て不安だから、助けてくれそうな人に向かっているだけ」じゃないって言えるだろうか。


 純粋に、レオが好きって、本当に言えるだろうか。言ってもいいのだろうか。


 なんとかこの世界に馴染んで、自分一人でも生きていけるようにならないと。

 自立してからじゃないと、純粋な「好き」を返せないような気がする。


 リナは恋愛をしてこなかった。

 まだ頭で恋をすると思っているのだ。


 そんなリナを、レオはほほえましく思っている。

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