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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 捨て子を拾い、レオナルドと名前を付けて育てたのは、北の大地を治める女王グリンベッドだった。

 女王は「なにかを育てるのが好き」で、子供が少なく大切にされる魔族の中でも起こる「捨て子」の面倒をみるのが好きなのだ。


「――というだけなんだよ」

「そうなんだ」

 うんうん、と頷かれる。


 だから、王子様という言葉は当てはまらないのらしい。

 魔族の王様というのは特別な存在で、寿命もないに等しいくらい長いし、王も世襲制ではない。

 レオが次の王様になったり、グリンベッドに北の大地のことで何か頼まれることもないという。

 レオにしたら自分を拾ったのはあくまでも「魔法使いのばあさん」という感じなのらしい。


「地域で育てられないような子供がいたら、嬉々として拾うんだよ。俺以外にも厄介な子供ばっかり育ててる」

 カラッと笑う。


 基本的に魔族は寿命が長いので、子供が生まれにくいという。

 両親が育てられなくても、近所の人で面倒見るので、飢えたり愛情が与えられないということはないのらしいが、それでも育てにくい子供というのは、稀にいる。

 そんな時に現れるのが女王グリンベッドなのらしい。


「女王が育ててるのは、魔力に問題があるものが多いからな。育った子供が所属する北の冒険者ギルドや騎士は最強だと言われている」

「レオは北のギルドに定住しなかったの?」

「世界を見て回りたかった。探し物があったんだ」

「そっか。みつかったの?」

 そっと頬に手を当てられ、レオの気持ちがするするっと流れ込んでくる。


「みつかった」

「なに?」

「目の前にいる」

「あ、え、あの…」

(愛がすごい)

 真っ赤になるしかないではないか。


「レオ、あとどのくらいで北に着くの?」

「そうだな。ゆっくり乗合馬車で5日くらいか」

 露骨に話をそらしたので、レオがくっと笑った。


「リナは早く着きたいかもしれないが、犬も馴染むし街道には人も多い。道には天使除けのまじないもされる。安心していい」

「天使除け?」

「天使の苦手な香を焚くんだ」

「苦手な匂いがあるんだ」

「それがあれば出現率は0だな。よほど苦手なんだろう」


 普通は天空都市から離れない天使が、先日の様に離れて襲ってくることは珍しいのだという。

 それで自警団も油断していたらしいが、今回は情報が共有されたので、念には念を入れて北までの出店や街で香を焚くことになったらしい。


「今も香を焚いている店があるみたいだな」

 くんっと鼻を鳴らすレオ。リナには全然わからない。


「どんな匂い?」

「青バラやなんかの花の燻した匂いだな」

「青いバラがあるの?」

「北はそこらに生えてる」

「すごいね。私の世界では青いバラって奇跡みたいな花なんだよ」

「そうなのか。北が襲われにくい場所なのは、青バラの生息地だからだな」


 天使が大昔襲ってきたときに、青バラが焼けて天使が一斉に逃げたことがあるらしい。

「そんなに苦手なんだ」

「そうだな。だから青バラは虫よけとして恋人に贈られる」

「虫よけ?」

「愛するものに、余計な虫が付かないように願って贈る。リナにも北に行く道中つけていてほしい」

「うぐっ」

 きりっとした顔で、そんな甘いこと言わないで欲しい。紅茶がこぼれるではないか。


「まあ、まじないだよ。そんなに深く考えなくていい」

「うん」

 本当に深く考えなくていいんだろうか。段々周りを固められているような気がしなくもない。


「北に行くのが楽しみになってきたな」

 リナの言葉にレオが喜ぶ。



 1日ゆっくりと高級宿で休ませてもらい、翌日に出発することにした2人。

 リナの体調も万全だ。

「うーん。めっちゃいい天気!」

 乗合馬車の駅に着いたところで、馬車が後ろと前に香炉をぶら下げているのを見つけた。


「んー?そんなに強い香りかな?」

 すんすんと鼻を鳴らしてみるが、忌避するほどの強さの香りは感じられない。

 確かに良い香りがするが、逃げるほどだとは思えない。


「それが、天使には効くんだよ」

 乗合馬車の馭者が話しかけてくる。


「魔族にはいい匂いなんだが、天使はこれが大層苦手なようだよ」

 はっはっはと笑いながら切符を受け取ってくれる。


「さあ、乗ってくれ。出発しよう!」

 今回の乗合馬車はちょっと豪華で、馭者が2人。護衛が3人つくらしい。


 馬車の中は12人乗り。

 今回も定員いっぱいだが、レオが一番奥を陣取った。


「リナ。膝の上に」

「…いや、あの、どーしよ」

 いつもならちょんと座って終わりだが、こんなに溺愛感情が流れ込んでくる中で平常心を保つ自信がない。


「…リナ?」

「えーっと。いい馬車だから、最初は自分の席に座ろうかな?」

 きゅうんと流れ込んでくるレオの感情。


 目の前に差し出されたご褒美をもらおうとお座りしていて、ずっとずっとお預けされているわんこが、「きゅーん」と悲し気に鳴いても平気な顔ができる人はどれくらいいるだろうか。


 そんな精神力はリナにはない。


「…ジョウダンデス」

 あきらめてレオの膝に座ると、いつもの安心感。暖かさ。

 そして、いつもよりダイレクトに感じられるレオの愛情。


(のぼせそう)

 リナはもう真っ赤な顔して目をぎゅっと閉じて、寝るふりをするしかなかった。


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