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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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 リナは少し考えて、レオの影犬を受け入れることにした。

 護衛が増えて、レオの負担が減ることも理由の一つだ。

 リナを1人にしないためにも、良いことのように思える。


 いつでもどこでもついてきてくれて、何かあれば戦ってくれる影犬。

 使い道がなくて膨れ上がるリナの魔力を食べて、「普通の人」程度にしてくれる。

 いいことばかりのようである。


 譲渡は簡単だった。

 影からするりと1匹出てきて、リナの影にするりと入っていった。

 何も感じない。

 魔力を食べられてる感じも、負担もない。


「リナ。おはよう」

「おはよう…レオ」

 支障はない。

 リナが朝、目を開けた瞬間からレオの溺愛感情が流れ込んでくる以外は。


「きれいな目だ」

「レオ。口に出ちゃってるよ」

「思ってることが伝わるなら、声に出しても一緒だ」

「そう…なのかな?」

 腑に落ちないが、まだ具体的にはレオが考えてることはわからない。

 しかし、リナに対して溺愛ともいえるくらいの愛情がビシバシに伝わってくる。


(目を開けただけでこんなに喜ばれるとは…)

 リナは目覚めた瞬間、流れ込んでくるレオの感情にも驚いたが、レオの開き直りにも驚いてる。


 ただ、影犬はリナにレオの感情を伝えてくるが、レオにはまだ伝わりにくいのらしい。

 いまはまだ、リナの影の中に馴染むのに時間がかかっているようだ。


「か、顔洗ってくる」

「ああ。行ってこい」

 ベッドから降りて、走って洗面所へ行く。

 そんなリナの姿を見て、嬉しそうに笑うレオ。


 リナはレオが笑う理由が分かった。

 鏡に映った顔が真っ赤である。


(こんなの、口に出さなくても私の考えてること筒抜けなのでは……)

 冷たい水を出して、顔をバシャバシャ洗って冷やすのであった。



「リナの体調はどうだ?」

 食堂で朝ご飯を食べながら、レオが尋ねる。

「もうちょっとで全快って感じ」

「了解だ」

 リナの食べる食事の量を見ながら、体調が戻ってきたのを感じてくれているようだ。喜んでいる。


「貧血のお薬ももらったからね。だいぶいい感じ」

「飲ませようか?」

「いい!ダイジョウブ!」

 リナが慌てると、くつくつと笑われる。

 からかってるんじゃなくて、本気だとわかるから余計に困る。


 困ってるんだろうか?

 何に困ることがあるんだろうか?

 レオはリナに愛情を向けてくれていて、大切にしてくれてる。

 レオが好きだと自覚したリナに、困ることなどあるんだろうか。


(困るよ!こんな恋愛上級者みたいな人と対等に渡り合えるわけないじゃん!!)

 リナの心の叫びである。


「レオ、私、あの――」

「わかってるよ。ゆっくりでいい。俺は待てるよ」

 レオは焦らない。


「リナがどういう気持ちを育てたって、俺はリナの選択を尊重する」

 レオは優しい。


「リナが俺の気持ちを知ってくれているだけで、俺は嬉しい」

 レオは無邪気だ。


「スパダリかよぉ~」

「すぱ?」

 思わず顔を覆い隠して嘆いてしまった。

 こんなドラマの王子様みたいなセリフ、リナには一生かかっても出てこない。

 どうやったら育つんだ、こんな人。


「リナ。リナ。落ち着け。お前はそのままでいいんだ」

「あうう~、はい」

 真っ赤な顔が収まらない。


「リナには俺の気持ちが筒抜けだからな。隠してもしょうがないし、疑われるようなこともしない」

「な、なんでそんなに、気に入ってもらえたんでしょうか……」

「わからないか? リナは美しいよ。一緒にいると安らぐ。ずっと一緒に居たい」

「あうう~」

「ははは。照れる顔も可愛いな」

 王子様か。


 食事が終わったので、食後のお茶が出てきた。


「レオ。今日は魔法の練習しないほうがいいかな?」

「そうだな。犬が魔力を食い続けてるいまはやめておこう。食われても安定するくらいになってからの方がいいだろう」

 影犬は大飯ぐらいの魔物で、そもそも飼い慣らせるような魔力がある人が少ないらしい。

 いまは影犬がわしわしリナの魔力を食べているので、それが満腹になって落ち着くまで待った方がいいらしい。


「洗濯は宿の洗濯係に洗ってもらうといい」

 下着まで出すのは恥ずかしいが、しょうがない。


「リナの体調が万全になったら北に向けて出発しよう。今から行けばゆっくりでも祭りの前に到着する」

「お祭り?」

「ああ。北を治めている女王の在任二百年だったか? いや、三百年だったか? まあそんなような時期で祭りがおこなわれるんだ。だから北に行く旅人が増える。北までの旅路に警備も増えるしギルドの冒険者も稼ぎ時だ。リナも安全な旅ができるだろう」

「在任二百年…」

 どうやら北の女王様はずいぶんと長生きのようだ。


「ほかにも王様っているの?」

「大陸を東西南北でなんとなく分けてそれぞれ治める王がいるな」

「なんとなく?」

「なんとなくだなぁ」

「ケンカしたりしないの?」

「それぞれの国を司る魔族だからな。ほかの国を攻める理由もないし、王はだいたい面倒くさがりだ。自分の魔力の研鑽に忙しかったり、怠惰に眠っていたり、王もそれぞれだ」


 本当にこの世界の諍いというのは、天空都市と地上とでしか行われていないようだ。


「リナは北の女王に気に入られるだろうな」

「え?私、女王様と会うの?」

「会わなくてどうするんだ?」

「どうするって…? そんなに簡単に会えるもんなの?」

「俺の養い親だぞ? 言ってなかったか?」

「なんてこった……」

 レオは本当に王子様だったようだ。

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