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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「礼には及ばない」

「とにかく、レオナルドさんが仕留めてくれたおかげで助かりました」

「情けないことに、今回の天使の急襲は自警団では情報がなく……」

「あの1体だけだったのか?」

「ええ――」


 遠くの男性たちの話し声に目が覚めてみれば、見たことのない部屋に寝かされていたリナ。

「あら?起きた?」

「…ここは?」

「病院よ。レオナルドってあなたの養い親?真っ青な顔してあなたを担ぎこんできたのよ」

 耳が特徴的に尖っている美女が、リナのベッドに近づいてきた。


「貧血ね。食事もあまり摂ってなかったみたいだし」

「ええ。すみません。ご迷惑を」

「迷惑じゃないわよ。食事が難しいようなら栄養剤を投与するけど、どうする?」

「頑張って食べます。貧血も一時的なものなので」

「そう?貧血に効く薬は?」

「それは欲しいです」

「じゃあ、受付に回しておくから帰りに受け取ってね」

「ありがとうございます」

 リナが青い顔でお辞儀したら、優しい顔で微笑まれる。


「リナ!」

 レオがリナの声を聞いたのか、病室に駆け込んできた。


「ああ。リナ…。まだ顔色が悪い。怖い思いをさせた。すまない」

「大丈夫よ」

 上半身を起こして、青い顔のレオを抱きしめる。


「レオの方が倒れそうな顔してる」

 フフッと笑うと、優しくぎゅっと抱きしめられる。


「リナの容態は?」

「貧血よ。あとは悪いところは見当たらないわ。精神的ショックも合わさって気を失ったのよ」

 カルテを見ながら美人医師が語る。

 そりゃ窓から人が飛び込んで来たら驚くに決まってる。


「別の宿をとったから、そっちに移動しような?」

「レオの用事は終わったの?」

「自警団の聞き取りは終わった。有益な情報もなかったがな」

「レオ。私、北に早く移動したい」

「どうした?」

 レオがリナの顔を覗き込む。


「天使の来ないところに行きたい」

「リナ」

「あんな風に襲ってくるの、いつ、来るかわかんない、のに、ずっと怖いの…嫌なの」

 リナは我慢していたことを口にしたら、ハシバミ色の瞳から涙がぽろぽろこぼれた。


 教会関係者の人じゃない、天使に襲われたのが衝撃だった。人が行う誘拐と同じように考えていたのだ。

 日中の建物の中にいる、レオと2人の時に襲われたのだ。

 建物の窓をぶち破って侵入してきた。それがリナには想定外だったのだ。

 話もできないくらいの相手だとは考えてもみなかった。


 また襲われるかもしれない。

 それが、寝てる時だったら?

 レオと離れてお風呂に入って1人きりだったら?

 1人になるときなどいくらでもある。レオと四六時中一緒にいるのは不可能だ。


「貧血だし、疲労がたまってるしね。普段と違って感情的になりやすいのよ」

 医師はおろおろするレオにそう告げる。


「気分が落ち着く薬もあるわよ。飲む?」

「ひっく、う、うん。ください…」

 しゃくりあげながらも薬をもらって飲む。

 リナも自分の今の感情はおかしいと思う。

 普段ならこんなにも悪いことばかり考えて、ドツボに嵌るようなことがないのに。


「リナ。少し眠れ」

「レオ。どこにも行かないでね。1人にしないで」

「約束する。離れない」

 リナのおでこにキスするとともに、スリーピー(安眠)の魔法をかけた。


「窓から急襲してきた天使を一撃で倒した人連れてて、これ以上ないくらいの戦力もってるのに何がそんなに不安なのかしらね」

 医師はのんびりしたものだ。


「リナはこの世界に馴染もうとしてるところだ」

「ああ。異世界人なの?道理で体のつくりが魔族と違って弱弱しいと思ったのよ」

「魔力はどうだ?」

「魔力は、そうね。結構な量を持ってるわね。それこそこの小さな体に不釣り合いなほどね」

「異変は感じないか?」

「特に感じないわね。いい魔法使いになるんじゃない?」

 医師では、魔力が魔法にならない件は診察してもわからないようだ。

(魔法障害ではないようだな)


 レオはリナを抱いて病院を後にした。


「リナに影犬をつけようと思うんだ」

 目覚めたら、また別の場所だった。

 ちょっとお高めの内装。高級な宿のようだ。

 そこで神妙な顔をしたレオに影犬の提案をされた。


「ワンちゃん?」

「そうだ。リナの大きな魔力を隠すために、影犬に食わせる」

「私の影に住んでくれるの?」

「ああ。その代わり、今住まわせる影犬は俺の犬だからな。俺の影にもつながってるままなんだ」

「うん」

「だから、あの、リナの影と俺の影が、つながることになる」

「ワンちゃんが行き来できるってこと?」

「そうなる」

「…? 何か困ったことになるの?」

「ああ、えー、まあ、俺は困らない」

「私が困るの?」

「あの、な。影ってのは――、面倒だな」


(急に面倒にならないで欲しい)

 そう思ったら、レオはリナにニコッと笑いかける。


「考えてることがある程度相手にも伝わる」

「え?」

「喜怒哀楽は簡単に伝わる。もう少し複雑に考えてることも、ある程度は伝わっちまう」

「え?え?」

「時間が経つほどに、心の中で思ってることが伝わる。それこそ、会話しなくてもいいくらいに」


(なんということだ…)

 以心伝心どころの騒ぎではない。


「私の考えてることが、レオに筒抜けに…?」

「そうなる」

「こう、レオは私に隠したいこととか…?」

「ない」

「ないのかぁ~…」

「今のままでもいい。1人きりになる瞬間が怖いのなら、影犬をつける方法もあるという提案だ。リナがどうしたいかを考えておいてくれ」


 1人きりにならない方法をレオは提案してくれた。

 それを飲むかどうかはリナ次第だ。

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