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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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30

 

「ごめんね、レオ」

「もういいのか?」

「うん。ゆっくりできたよ」

 お風呂を使い終わって着替えたリナが、レオを部屋に招き入れた。


「わふ」

 影犬が部屋に入ったレオの影にスルスルと戻っていく。


「髪、乾かすな」

「ありがとう」

 椅子に座ると、風魔法でレオの手からふわふわと温風が出てくる。


クリーン(魔法)で体がきれいになってるってわかってるんだけど、やっぱりお風呂入りたくなっちゃうんだよねぇ」

「いいんじゃないか?血行を良くしたり、リラックスしたり、風呂の効果ってやっぱりあるだろ」

「レオはいいの?」

「俺はクリーンで十分だよ。リナを守らなきゃならんしな」

「ワンちゃんいるから大丈夫だよ?」

「無防備な状態になるのが慣れないんだ」

「あー」

 リナは旅を続けていて、レオの神経質で過敏なところを何度も見た。


 目線は常にいろんなところを見ているし、体全体をセンサーの様にして神経を張り巡らせている。

 リナといてもいつでも剣を抜ける態勢でいるらしいし、気を抜いてる瞬間がないのじゃないかと思う。


(そりゃ眉間にしわもよるよ)


「レオ。やっぱり別々に寝たほうがレオもゆっくり眠れるんじゃない?」

「リナは俺と寝るの、嫌か?」

「嫌ってわけじゃないんだけど、レオ、寝返りもしないでじっと寝てる。疲れが取れないんじゃない?」

「リナが一緒に寝てくれたら、疲れが取れるんだ」

 ニコッと笑う。


(ずるいんだよなぁ、その顔)


 こんなに安心したような顔、ずるいなぁ。


「リナは俺に魔力を分けてる」

「え?」

「リナの魔力は俺に馴染んでる」

「それは私も感じてるけど、分けてる?」

「ああ。リナは俺に魔力を補填してる」

「他人の魔力って馴染まないんじゃなかった?それを分けてるの?」

 乗合馬車の中で、ラギスやレオに教えてもらった話によると、他人に魔力の譲渡は出来ない。家族でもない限り、魔力が混じることもないって聞いてる。


「それが、不思議なことに、出来てるんだよ」

「不思議で片づけていいのかわかんないけど、結構、大変なことでは?」

「そうだな。ラギスにはっきりとバレたら魔法省に強制連行されるかもしれないな」

「えー!やばかったんじゃん!」


「譲渡は手を握る、なんかの接触でできるようだな」

「ああ、それはなんとなくわかる。レオと魔力流すの練習すると、私の魔力?レオに寄って行ってるもん」

「リナの魔力はある。それは確実だ。魔法に変換されないのは、他人に譲渡できる特殊な魔力だからかもしれない」

「はー。魔法使いになり損ねたのかぁ…」

「いや、まだはっきりと決まったわけじゃないが、俺の養い親が魔法に詳しい。聞いてみるのもいいだろう」


「リナの魔力は俺の癒しだ。俺が嫌じゃないのなら、取り上げないでくれ」

 乾いた頭頂部にちゅうとキスされる。


(やっぱりずるいんだよなぁ。こんな言い方されたら断れない)


「わかった。でも、体痛くなっても知らないからね」

「大丈夫だ。旅をしていたらベッドで寝られないことの方が多い。リナと寝るだけで回復する」

 今日も巨大なわんこのような大男は、リナの横にちょんと寝そべって、リナにベッドの大部分を譲って目を閉じる。


「おやすみ、レオ」

「おやすみリナ」

 ランプの光が消える。


(養い親、なんだよなぁ……)

 リナは最近その言葉がとても気になる。

 養い親というくらいだし、レオも最初、「独り立ちできるまで面倒をみる」と言ってくれていた。

 リナと一緒に居たいと言ってくれて、ずっと一緒にいてもいいというようなことも言ってくれる。

 どういう気持ちで接したらいいのか、ちょっとわからなくなってきた。


(私のこと、子供だって、思ってるみたいだし)

 面倒見はいいし、親鳥の様に温めてくれる。

 リナが成人しているとはわかっているが、接し方は完全に子供に対するそれだ。


 恋愛感情や下心があれば、リナもさすがに感じることがあるだろう。

 前の世界では鈍感だと言われたけれど、痴漢や下心のある人はわかった。


(ないんだよなぁ…)

 ポカポカするレオの手。

 暖かさのみ感じる。

 よくよく感じてみれば、レオの魔力が循環しているのが分かる。


 とても心地よい。


(この心地よさを、手放せないなぁ……)


 離れがたいのはレオだけではない。

 リナも同じようにレオから離れたくないと思っている。


(ずっと一緒にいられるのかな…?)


(ずっと天使から逃げることもできるのかな…?)


(ずっと好きでいて、いいのかな…?)


 リナは自覚した。

 自覚してしまった。


(レオが、好きなんだ…)


 言葉にすればしっくりきた。


(私、レオが、好きなんだ…。ライクじゃなくて、ラブで)


 好きだという自覚はあった。

 何日か前に二人で好きだと言い合った。

 あの時と変わらず好きだと思っていたけれど、ちょっと好きの種類が変わってしまったようだ。


(レオが悪い。私が好きになっても困らないとかいうから、好きになっちゃったじゃん!)


 リナはぷりぷり怒って布団をすっぽり頭まで被った。


(自分のこと、子供としか思ってない人好きになってもしょうがないじゃん)

 しかし、これこそ考えてもしょうがないこと。


 好きになっちゃったもんはしょうがない。

 まあ、しゃーないか、精神で二人旅するしかないのだ。


 リナは自分の手を包む大きな手に、反対の手を重ねた。


(自分の面倒をみてくれる人がいい男でよかったと思っとこう)

 リナはふうっとため息をついて、眠りについた。


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