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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「はれ?」

 リナはいつもみたいにベッドで目が覚めた。


「わんこベッドが……」

「起きたのか」

 わんこに囲まれて童話の様に眠っていたのに、気が付いたらベッドで横に大きな犬のような男が。


(筋肉が固い……)

 レオの胸に触れて、あのわんこの毛皮の柔らかさを懐かしむ。


「どうした?さみしかったのか?」

 ぎゅっとリナを抱きしめてくれるが、今はあのふかふかの毛皮が欲しいのだ。

 むちむちの筋肉ではない。


「わんこ、犬がわふわふ、いっぱい、いたんだけど」

「ああ。たまにいるよ」

「たまに」

「また影に入ることがあれば、遊んでもらえ。あんな姿初めて見た。犬もリナが気に入ったんだろう」

「あんなに大きいのに犬なの?」

 お座りした姿でも座ったリナより大きかった。

「ああ。犬だ。俺の影に住んでいる」

「いいな。かわいいね。餌とかあげてるの?」

「魔力を食うんだ。かなりの大食いだからな。リナのそばにいるのは犬にとっても気分がよかっただろう」

 起き上がったレオがハーブティーを入れてくれる。


「そういえばさっきのアレ、なんだったの?」

 リナはベッドから起き上がってテーブルに向かう。

「教会関係者だな」

「うう~!もう教会って聞いただけで私、寒気がするようになってきたんだけど!」

 腕をさするリナの腕には鳥肌が。


「リナの旅装を買いに行って、二人分の野営道具をそろえたかったんだが…。この街でのんびりしてる暇がないかもしれない」

「マリーナさんたちに会えなくなるのは辛いけど、早く教会がないところに行こうよ」

「教会と天空都市を避けながら旅するとなると、結構厳しめの旅になるぞ。せめてリナの服装を何とかしないと。今の服装で北に向かうのは厳しい」

 レオはカバンから地図を出して見せてくれた。


「今ここだ。ヴァレリー街。王都への街道にある大きな街だな。これから天空都市は南へ移動する。それを避けて俺は北に向かうのがいいんじゃないかと思ってる」

「北はどんなところ?」

「美しい雪の街だ」

「……今、夏だよね?万年雪の降る街なの?」

「夏?どこの地域も年中気候は大きく変わらないな。ここはこんな感じで年中暑いし」

 どうやら天空都市は四季を感じるようにゆっくりと世界を移動しているのらしい。

 贅沢なことで。


「厳しい旅って、私基準?それともレオでも厳しいの?」

「俺のことは気にしてない。リナが心配だ」

 馬にもまともに乗ってられないのだから、旅以前の問題かもしれない。


「私、相当足を引っ張るのでは…?」

「移動は大きな街道は通れないが、乗れるところはでは馬車を乗り継ぐから気にしなくていい」

「クロくん置いていくの?」

「あいつはもともと俺の馬じゃない。借りていただけだ」

「そうだったんだ。お友達?」

「知り合いの王の馬だ」

「…知り合いの…王様の…」

 どうりで賢いわけだ。


「荷物は俺の影に入れる。気軽な旅ができるはずだ」

「便利だね!じゃあ、私がレオの影に入って旅するのは?」

「天使に追われたときに短時間、隠れることはいいかもしれないが、俺は長時間、自分の魔力の影響下にリナを置くのが心配だ」

「そうなの?」

 ハーブティーのお代わりを入れながら、レオは考え考え、ちょっとずつ話してくれる。


「あー、リナが、俺の魔力を、なんというか、心地よいと感じてくれたことが、普通の魔族からすれば信じられないことなんだよ」

「どうして?」

「もともと、人の魔力ってのは親子でもない限りは交わらない。しかも俺は、特殊なんだ」

「特殊?」

「ああ。魔力が多いのはもちろんなんだが、魔力の種類が本当に、変わってて。攻撃的なんだ。通常の状態であれば人は近づくこともできない」

 そんな言葉は全く信じられなかった。

 リナには優しくて、包み込むような魔力だ。


「でも、マリーナさんとかグリッドさんとかみんな近づいてても平気そうだよ?」

「影の犬にほとんどの魔力を食わせてるのと、俺が常に魔力をコーティングしてる。まあ、してても過敏な奴には不愉快だな」

「今もしてる?」

「ああ。もう無意識なんだ」

 魔力感知が鋭い人は、レオの特殊な魔力を感じて最初から近づかないという。


「レオ。大丈夫だよ。私、レオの魔力好きだから。レオの影の中もとっても過ごしやすかった。よかったよ、私、鈍感で」

 えへへっと笑って見せた。


 とげとげとしたレオの魔力。

 どこに行っても嫌われる子供時代。

 だから親にも捨てられたと罵声を浴びせられた。

 親も抱き上げることが出来なかったのだろうと思う。


 レオを育てた北の魔女のばあさんは、深層世界の北部を統べる女王だ。

 哀れな幼子を拾うことが出来たのは、彼女だけだった。

 乳をやり、下の世話をして、抱き上げて育て上げた。

 レオが今でも頭が上がらないのは女王くらいだ。


「ばあさんにもリナを紹介したい。北の街は俺の育った故郷でもある。きれいな雪景色をリナに見せたい」

「私もたくさん雪が降ってるところ、行ったことがないんだ。楽しみよ」

 リナは明るく笑って、レオの手を掴む。


「レオ。私と一緒に旅をして!」

「勿論だ。俺がお前を連れてどこまでも行く」

 二人は一緒に地図を覗き込んで、これから行く先を想像して笑いあった。


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