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天才魔道剣士は、異世界からきた聖女を手放さない(仮)  作者: 堂島 都


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「ステキ~」

「気に入ってもらえたみたいだね」

 目の前に並べられた靴を見て、リナは目を輝かせた。


 ピックの店に、できあがった靴を取りに来たリナとレオ。

 ロングブーツのつやつやした表面を撫でてうっとりとする。


「こんな素敵な靴…人生で初めてよ」

 どうしても足が小さくて、自分の好きなデザインの靴は見つからない。

 運良く見つけたとしても、靴というのは自分の足を無難なデザインの靴に無理やりはめる行為だと思っていた。

 しかし、ピックの靴は違う。足を通した靴は自分にピッタリフィットする。


「歩いてみて。僕の縫製に間違いはないはずだけど」

 ふふんと自慢げに笑うピックがかわいらしい。


「わっ」

 まるで履いてないような軽さ。柔らかさ。ひざ下までカバーしているのにこの吸い付くようなフィット感。これは全力疾走しても何の問題もないかもしれない。


「すごいすごい。こんな気持ちのいい靴が作れるなんて、ピック。貴方最高よ」

「あはは。お褒め頂きありがとうございます。お姫様」

 念のため、全部の靴を試したがどれも履き心地は堪らないものがあった。

 普段用の靴に履き替えて、ピックと握手してお店を出ると石畳の歩きやすさにびっくりする。


「ありがとう、レオ。スキップできそうなくらい足が軽いよ」

「くっくっく。良かったな、お姫様」

「私がお姫様だったら、レオは王子様よ」

「俺が王子様ってツラかよ」

「そんなことないわよ。レオってかっこいいじゃない」

 レオはリナの言葉にきょとんとした。

「だって、整った顔してるじゃない」

 今度はリナがきょとんとした。

「異世界の美的感覚はよくわからなんな」

「え?そんなかけ離れてる?」

 手をつないで歩きだす。


 何でもかんでも「かわいい」といい、「キモ可愛い」などという言葉まであった元の世界の女性たちの感覚は、こちらでは浮くかもしれないが、リナはレオは笑った顔が可愛いと思うのだ。


「笑った顔、かわいいよ。レオ。そうやって眉間にしわよってると強面だけど、それでもかっこいいと思うよ」

「顔なんか褒められたことねえよ」

 ふっと顔をそらすレオの耳がちょっとだけ赤く染まってる。

「可愛いねぇ」

 思わず口にしてしまったが、リナの言葉に嘘はない。

「リナ!」

 本心にしろ、男の人に可愛いは言いすぎたかと思った。

 レオの鋭い声にびっくりしたが、すぐに抱き寄せられてマントに隠された。


「走るぞ」

 レオはリナを抱き上げて走り出した。

 リナはもう学んでいる。話すな。舌を噛む。

 なにがなんだかわからないうちに細い建物の間、路地裏に立たされた。


「リナ。俺を信じるか?」

「うん」

「いい子だ」

 目線を合わせたレオに頭を撫でられる。


 両方の脇に手を差し込まれて持ち上げられる。

「お前を隠す。安心しろ。声を出すな」

 リナは優しくいうレオの言葉に頷いた。


 レオが下したのは、レオの影の中。

 リナは急に足元に地面がなくなって声が出そうになったが、ぱっと口を抑えた。


「大丈夫。落ち着け」

 震えながらうんうんと頷く。

 怖い。足が付かない底なしの穴に突っ込まれるのを怖がらない人はいないだろう。


「世界一安全な場所だ。必ず出られる」

 ちゅっと頬にキスをされて、リナは影の中に全身を押し込まれた。



 レオはリナを影に入れて隠してから、路地裏から出た。

 何事もなかったかのように広場に向かって歩く。

 広場には噴水があり、待ち合わせの人々や子供たちの遊ぶ声がする。


「いない!」

「奥もしっかり探せ!」

 先程、レオが出てきた通路に駆け込んで行って叫んでいる集団がいる。

 一目で教会関係者だとわかる白の服装だ。


「貴様……聖女様をどこへ隠した?」

 噴水の縁に腰かけて眺めていたら、目の前に来た男が恨みがましい声で問うてきた。

 禿頭の白髭を生やした老人だ。目が濁っているのが恐ろしい。


「聖女?なんだそれ?」

 知らん顔するレオ。


「貴様が連れているのは聖女様だ!我々を天空都市へ導く存在なのだ!!」

「へー」

「どこへ隠した!!早く聖女様を教会へ渡せ!」

「知らん」

 ぎゃあぎゃあ喚く教会関係者が集まってきたこともあって、噴水の周りには人が去ってまばらになってきた。子供たちは逃げていった。


「その聖女ってのは、教会の教えなのか?それとも天からの『お告げ』でもあったのか?」

「悪魔め…」

「お前だって同じだろ?魔力を持ってる。それを捨てるための修行をしてるんだってな」

「我々は悪魔の誘惑を振り切り、天界へと至る道を――」

「うるせえよ」

 空気が切れるような冷たさを持った。

 微妙に会話が成り立たない老人も、流石に自分に突き付けられた殺気に黙った。


「人攫い集団。天空都市に行きたいなら自分で行け。他人に縋って何とかしてもらおうとするんじゃねえよ」

「聖女様は…すべてを救う…手を差し伸べ…」

 もう老人とは会話にならないと思ったのか。レオは立ち上がってその場を去った。


 レオはリナと買い物をしたかったのに、よくわからんじじいに邪魔されて機嫌が悪かった。

(教会関係者はますます危ない集団になってるんじゃないだろうな)


 金の子ヤギ亭に帰ってきて、部屋についてからリナを影から出そうとしたが、手が届く位置にリナがいない。


「リナー?」

 頭を突っ込んでみると、ほの暗い闇の中できらりと光りを反射する瞳が。

「リナは…寝てんのか」

 レオはそっと犬たちに埋もれて眠っているリナを抱き上げた。 

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