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第43話 【番外編】桃色したきつね その2

 話しかけるたびに、怪訝な顔して慌てたり赤くなってたりとビリーくんは退屈しない子だった。それでも仕事だから、わたしの気持ちが入り込む余地はない。


 ビリーくんの怒りや復讐の激情は今はずいぶんと削ぎ落とされている。結果を出すだけの事にしては、強すぎるあの気持ちはマイナスにしか働かない。




 ──こんな仕事ならたまにはいいかも知れない。割とあの子はいい方向に変わったと思う。


 けどその時間にも終わりがある。


 もう鐘は鳴らない。


 ダリルには約束の飴を渡しておく。


「ありがとう」


 ダリルのその言葉はその意味するところに反して、抑揚なくただの言葉でしかない。それも仕方のないことだけど。


「今夜で、わたしは……」


 つい、口にしてしまう。


「全てが消える。それでも俺だけはミーナを覚えているだろう」

「……うん」


 目から何かが頬を伝う。


「そうだな……望みがあるかはわからないが、細工はできる。ミーナが成してきた結果なら望みはそこまで薄くはないだろう」


 パァッと笑顔になってしまった。


 わたしがわたしには有るまじき言葉を口にしたのに、それに対して力を貸してくれる。まったく無愛想なのがその感情を読ませてくれないけど。




 誰も居なくなった工房で、ダリルとわたしは向き合う。


 ダリルに手渡されたナイフで、後ろで束ねた髪を切り落とす。


 受け取ったダリルの顔には、少しの悔しげな表情が宿っている。そうだね、今回の飴はまだきみには辛いものだったかも知れないね。


「ごめんね」


 そう口にした言葉が、声となったかどうかはわからない。


 光とともに景色が白く、塗りつぶされていく。




 それが彼にとって何度目なのかはわからない。前にチラと目にした時はまだわたしは小さかったから、ここから出られなくて、早く成長出来るようにと祈ったものだ。


 その時から幾度の昼と夜を繰り返したかはわからない。


 彼はそれでも足繁くこの丘のひまわりに会いにきてくれる。冬にも咲いているひまわりを不思議に思いつつ、それでもここに来てピクニックをしてくれる。


 ひまわりはダリルが植えてくれた特注で、ビリーくんが来た時だけ、その役目を果たしてくれる。


 彼とピクニックするという役目。


 ビリーくんはとても嬉しそうで、思わずわたしも嬉しくなる。


 ある日、ダリルがやってきてわたしのいる茂みに、記憶にあるものより少し小さいけど、白のシャツとかわいい下着。あと紺色のオーバーオールに可愛いブーツと、いつかの麦わら帽子を置いて行ってくれた。


 なぜ気づいたのかわからないけど、ありがとうと声にならない感謝をした。


 ダリルは右手を上げただけで立ち去っていく。




 そしてその年の夏の午後。


 ビリーくんはいつものようにピクニックをはじめて、おもむろに一本の瓶を取り出した。


 ダリルがいつもポケットに入れている瓶だったと思う。


 栓を抜いた瓶をひまわりの根元で中身の桃色の魔水を注いだ。


「願いの叶う魔法とか言ってたけど、なんなんだろうなこれ。ただのいたずらか? 最近少し笑うようになったのもあいつの心境の変化かなんかかな?」


 ビリーくんはそんな独り言を言いながら、ひまわりを見て微笑んでいる。


 いよいよと服を着て、麦わら帽子をかぶったわたしは、少し縮んだし彼は覚えていないけど──それでも彼めがけて駆け出したわたしを、驚いたビリーくんは泣き笑いの笑顔で受け止めてくれた。


 こうしてわたしは、あのときのピクニックの約束を果たした。


 そして──。


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