エピローグ
~~~新堂新~~~
その後の永遠子さんの答えは秘密だ。
一生、誰にも教えない。
ふたりだけでこそこそ懐かしむつもりだ。
事実だけを言うならば、俺は卒業を待って永遠子さんと結婚した。
古い木造の一戸建てを購入し、移り住んだ。
ほどなくして子供が産まれ、俺たちは本当の家族になった。
子供は男の子だった。
助と名付けた。
俺と永遠子さんの子どもだから、きっと極度の世話焼きになることだろう。
そういう意味で名づけた。
みんなのその後を語ろう。
小鳥は進学せず、紅子のアシスタントをしている。ペーパートワコさんズからチーフアシスタントの地位を奪おうと、日々切磋琢磨しているらしい。
真理は服飾系の専門学校へ進学した。ゴスロリ系のファッションブランド「マリーマリー」を立ち上げるつもりらしい。特別顧問は当然あの人だ。
黒子は相変わらずだ。スロットで万枚を出したとかその逆になったとか、そんな話ばっかりだ。鈴ちゃんのために体を張った片鱗は、今や影も形もない。だけどそれでいいのだとも思う。ひねくれ者の彼とはきっと、いつか力を合わせることがあるだろう。
奏は桃華と共に地元の大学へ進学した。官能小説家という夢は、教師としては応援していいものかどうか甚だ疑問だが、団先生の指導もあることだし……いや、それはむしろダメなのか? ううむ……。
世羅は東京の大学へ進学した。公言通り、民俗学者への道を志している。帰省する都度、俺に全国の様々なIF事情を教えてくれる。みんないろいろ大変らしい。
真田兄弟は世羅と同じ大学へ進学した。たまたま偏差値がぴったしだったのか、世羅と同じ大学へ行きたかったのかはわからない。いずれにせよ、高校時代と同じようにゼミの後輩として扱き使われているらしい。
ヒゲさんは古屋先生と結婚した。古屋先生は専業主婦として家に入り、ハート形のエプロンをつけてヒゲさんの帰りを待ってくれているんだとか。
HBMはさすらいプロレスに留まった。新世紀プロレスや他団体との対抗戦を増やし、集客アップを狙っている。所属レスラーの中には今もなお、HBM2号と3号の名前がある。
鈴ちゃんは東京での大会に優勝。いまや全国区の歌手として活躍している。今度子役として朝ドラに出るとか、紅白に出るだとか、もう凄すぎてよくわからない。
ギィは第二マネージャー(第一はトラ)として常に鈴ちゃんに帯同。この前何かの拍子にテレビに映った時には、引きつった笑顔を見せていた。タスクの守護のために女の子をひとり派遣するとか言っていたが、果たしてどんなコが来るものか楽しみだ。
ミカグラ様とタツは完全に復縁し、女児をもうけた。3人仲良くお茶の間に座り、鈴ちゃんの活躍を応援している。ふたりはいつも仲睦まじく、IFと人間としての、まさしく俺の理想の夫婦像だ。
勝は結婚し、二児までもうけたが離婚した。子供は引き取ったものの育て手がなく、朝働きに出る前に配達用のバイクでうちへ訪れ、永遠子さんに預けて働きに出て行く。いや、うちとしては賑やかだからいいんだけどさ……。
雛は俺と別れた後、人が変わったように働き始めた。絵描きではなく小鳥遊グループの後継者として、いまや全国を股にかける実業家として活躍している。時折地元へ訪れてはうちに顔を見せ、タスクのほっぺを鬼気迫る表情でつついている。ちょっと怖い。
「ねー、新ー」
古びた日本家屋の中、遠くで誰かが俺を呼ぶ。
「いいかげん出かけるわよー?」
永遠子さんが襖を開けて入って来た。
いまだ着替えすらせずにPCに向かっている俺を、呆れ顔で見やる。
「まぁだ着替えてないの? ほんとにもう、のんびりしてるんだからっ」
腰に手を当て、ぷうと頬を膨らませる。
子供を産んだとは思えないスレンダーなボディ。いつまでも変わらぬ美貌。
長い足に、2歳の男の子が絡みついている。
「ほら、タスクも呆れてるわよ? しょうがないお父さんねーって」
「あーた? あーあ?」
舌足らずな声で、俺の名を呼んでいる。
「わかった。保存したらすぐ行くよ」
「まーた例のを書いてたのね? ほんとにもう……」
呆れ顔で、彼女は言う。
俺は小説を書き始めた。
かつて失われた絵日記の代わりに、永遠子さんとの出会いから今までのことを書き始めた。
どこぞの賞に応募しようとかそういうんじゃない。
純粋に記録としてだ。
彼女とともに体験した様々なことを、忘れないようにと思ったんだ。
永遠子さんは、俺と一緒に失われる。
死体すら残らず消え去る。
にもかかわらず、いつかこの世のどこかに生を受ける。
人間としてでなく、メンターか、あるいはアンダーテイカーとして存在をやり直す。
俺はもういないのに、彼女だけは生き続ける。
それは逃れようのない定めだ。
だから覚えていてほしいんだ。
タスクに、自分の母親のことを。
いつかそこにいた彼女のことを。
いつまでもおまえを見守っている人のことを。
おまえが将来的に、彼女を見ることのできる人間になるのかどうかはわからない。
だけど何年か経って、何十年か経って、あるいはすべてが風化し消え去ったとして。
いつかどこかで、何か不思議な出来事があったとしたら、まっさきに彼女の仕業を疑って欲しいんだ。
存在を信じて欲しいんだ。
呼びかけて欲しいんだ。
そうすれば、すべてが報われるから。
その一言で、すべてが報われるから。
ねえ、そこにいるの?
ねえ、あなたは……。
ボクの、永遠子なんですか? ってさ。
「いいじゃないか。これは俺のライフワークなんだから」
「別にダメとは言ってないわよ。だけどね……」
「あーはいはい、お説教ならあとで聞くよ。とにかく行こうか。ええっと、買い物だっけ? ほらタスク、パパの肩に乗りな?」
「もう……新ったら……」
「あーたったらー」
永遠子さんの真似をするタスクが可愛くて、ふたりして顔を見合わせて笑ってしまう。
「――そうだ。永遠子さん」
俺の呼びかけに、彼女はくるりと振り向いた。
「なぁに? 新」
「俺の書いてる例のやつさ。タイトルをそろそろ決めなきゃと思うんだけど……」
「まだ決まってなかったのよね……そういえば」
永遠子さんは肩を竦めた。
「自分の出てくるお話のタイトルを自分で考えるって、なんだか間抜けな話だけど……そうね。わたしだったらこうするわ」
──トワコさんはもういない、ってね。
~~~Fin~~~
長い間のご愛顧、ありがとうございました!!
「トワコさんはもういない」鷹揚の完結にございます!!
文字数含め、だいたい想定通りの結末を迎えられました!!
黒子の話とかギィの話とか、語りたいことも語り足りないこともございますが、どうしても蛇足になってしまうので、そっちはシリーズもの短編みたいな形で処理したいと思います!!
最後に出て来た新の子供のタスクや、勝の子供たちの活躍は、拙著「美少女(攻略対象)まみれのハーレム・スターウォーズ!!」のほうにて執筆中です!!
興味のある方はどうぞご覧ください!!




