19 歌うのは嫌なので「平々凡々ルート」を目指します!
原作でいうと、婚約の儀からロングプロローグが始まる。これからかなり長いエピソードが続いていくはずだ。帝国&王国からの刺客はこのロングプロローグ中にはもうそんなに現れない筈だ(オープニングともいえる婚約の儀でかなり派手インパクトを与えたので、制作サイドが物語的に満足している為)。
これからやらなくてはならないことを考えよう。
ええと、ロングプロローグだから、ひとまず他の攻略対象に会っておかないと駄目よね。
王立騎士団長 ランドセル・ガイア・キングヘルム
王立図書館司書見習い ブックカバー・ブックオン・ブックマーク
魔城の天才魔導士 ガーファンリンクル
王国第二王子 ダークアイ・イビル・サブリミナル
この四名がロングプロローグ中の攻略対象である。
ロングプロローグは簡単に言うと「お試しシナリオ」である。婚約の儀が明ける半年の間に、攻略対象と出会い、会話や行動を共にして好感度を上げることによって、その後に始まる本編でそれぞれのルートに分岐される。
本編に入ってしまうと命の危険がグンと増すのだが、それはヴィオランテで戦闘してみた感触としては、正直なんとかなりそうな気がする。つまり、本編クリアも可能ということ。
だけど、だけどだけどだけど。メインルートとなると、ミュージカルパートもえぐくなりそうなのよね。それだけが目下最大限の懸念で、勘弁して欲しいところなのだ。
なので、そうなると、目指すべきはただ一つ。
「平々凡々ルート」しかない。
「平々凡々ルート」とは、誰ともフラグを立てずに、攻略対象とそんなに仲良くならずにロングプロローグを終えると、本編へと進まずに発生するエンドである。
タイトル画面に戻され、それ以上プレイ出来なくなるので、一般的にはゲームオーバー扱いされているけど「平々凡々ルート」の最後にはこう記されているのだ。
「ヴィオランテはその後、特に何もなく、何も起きず、平和にその生涯を生きるのであった……。~HappyEnd~」…………と。
ハッピーエンドなんだから! 死にもしない。私がこの世界でヴィオランテとしてこのルートに進んだら、平凡な日常が続いていくはず! 何も起きないってことは、ミュージカルにもならないでしょう。こうなったらこれを目指さないわけにはいかないわ。
普通のゲーム転生だったら、推しとのラブラブ生活やハーレムエンドを目指すんだろうけど、なにぶんここは、ミュージカルだから。イベントの度に歌わなくちゃならないと思うと、絶対に耐えられない。
まあ、それにしたって、ロングプロローグも結構イベントがあるから、あと何回歌わないといけないのかしら…………。
「ああ、気が滅入る…………もういい!寝る!! 今日は寝るから!!」
あれこれ考えたって仕方ない。今日は沢山戦ったし刺客も殺したから、疲れた。寝よう。寝て、明日のことは明日考えて行動しよう。
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……ええと、寝れない。
眼が冴えて? とかじゃない気がする。
もう、このまま一生寝れない、ってぐらい寝れないのが、自分でも分かる。
え? 一生寝れない? そのフレーズに、既視感を覚えた。
嫌な予感から、右目を開けて真眼を発動すると、その理由が分かった。
婚約の儀、大広間で見た「♪」マークが空中に浮いていたのだ。
そこに書かれている文字を見て、私は目を疑った。
【♪M3『ヴィオランテ独白』《ミュージカルソロパートです。歌って下さい》】
その下には、先ほどと同じく、歌詞も宙に浮かび上がっている。
え? ソロ!?
ソロもやらないと駄目なの?
ええ? 絶対に嫌なんですけど。そりゃあ、大勢の前で歌うのもいやだけど、かといって誰もいないところで歌うのも、凄くイタいじゃないですか。
〈ああ、何故こんなにも気になるのー♪〉
「……………………」
〈ああ、何故こんなにも気になるのー♪〉
「……………………」
歌詞が、私を急かすように、ぷかーっと浮いている。
〈ああ、何故こんなにも気になるのー♪〉
気になるのはこの空中に浮かぶ歌詞システムだよ。ミュージシャンがコンサートとかで使うプロンプター(カンペ)に丁度いいじゃん。それに利用すればいいと思います。私はいらないから。
〈ああ、何故こんなにも気になるのー♪〉
よし、無視しよう。無視だ無視。寝れそうにないったって、頑張れば寝れるでしょう。
私は目を瞑り、深い眠りに落ちていった。




