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152.お疲れ様

「! 扉が……」


 ルーテシアが驚きの声を上げた。

 閉ざされた扉が開いていく――その先を目指しているのはノルだ。


「たぶん、ノルさんが開けたんだと思います。あの扉も魔導技術で開閉されているので」

「つまり、外に出て戦おうって魂胆か――いや、もしかしたら外からこの都市を丸ごと壊すつもりかな?」


 すでに、都市内の建物の多くはノルによって破壊されている。

 まだ戦いは終わっていない。

 シュリネはヌーペの背中に乗った。


「最後だからさ、気合入れてよね」

『……グゥ』


 低く、唸るような声。

 けれど、頷いているようだった。


「シュ、シュリネさん!」


 ヌーペが飛び立つと同時に、リネイが叫ぶ。


「ノルさん――あの人が言ってました! ボクはもう、平気だと思いますっ! どうか、この都市を守ってください! お願いしますっ!」


 頭を下げる彼女を見て、シュリネはその場で声を掛けなかった。

 ノルの言っていたことが事実なら――それは逆に、ノルを斬っても問題ないことになる。

 それこそ、シュリネが望んでいた状況だった。


「――引き受けた」


 シュリネは呟くように言って、ヌーペが呼応するように加速する。

 ヌーペの体力もすでに限界のはずだが、先ほどよりも速く――ノルを追う。


 開いた扉の隙間から、ノルが飛び出した。


「キヒッ、キヒヒッ! 狭い場所じゃ本領が発揮できないからね。ここからが本番――アタシの本当の力を見せてやるよ」


 ノルはそのまま、勢いよく上空へと向かっていく。

 外は暗く――ちょうど夜明けが近い時刻になっていた。

 この騒動が起こってから、随分と時間が経っていたのだ。

 今度こそ、確実に――ノルの持つ全ての力を解放する。

 魔力を集約させ、『魔力弾』などという生易しいものではない――都市の全てを破壊し尽くすほどの、強力な魔力の塊をぶつける。

 都市を一つ崩壊させるほどの力は――ノルがこの世界において最強の生物である証明になるのだから。

 そんな彼女の視界の端を通り抜けた小さな影があった。

 ノルよりも速く、天高く飛び上がったそれは――『複製品』とノルが罵った子竜、ヌーペ。

 ぐるりと地面に背中を向けたヌーペから、シュリネが勢いよくノルに向かっていく。


「小娘……! またアタシの上を……! アタシを――見下そうとするなァ!」


 怒りに満ちた表情で、ノルはシュリネに吠えた。

 シュリネはノルを間合いに捉えている――先ほどは片腕で防がれてしまった。

 今回も一撃――たったの一振りを防げば、ノルの勝利が確定する。

 すでに体力が尽きたヌーペでは、自由になったノルと戦い続けることは不可能だ。

 つまり、シュリネの技で全てが決まる。

 刀を振るうと、ノルは防御の姿勢に入った。

 ――魔導義手でできた両腕はどこまでも強固であり、シュリネの一撃をかろうじてだが防ぐ能力がある。

 勢いよくぶつかって、ノルの腕は弾かれた。

 だが、それはシュリネも同じこと。

 これで勢いはなくなり、シュリネはもう――ノルに対して決め手となる技はない。


「アタシの勝ち――」

「二刀――」


 瞬間、眼前に迫ったのはもう一本の刀だった。

 シュリネが刀を握っているのは左腕――魔導義手だ。

 一振り目は囮であり、本命は二振り目――シュリネは本来、一刀流の使い手である。

 だが、二本の刀を扱う技も持っている。


弾落はじきおとし


 風を切る音と共に、もう一つの刃がノルの首を綺麗に通り抜けた。

 そう、通り抜けるように見えた――それほどまでに静かに。

 けれど、確実にその首を落とした。


「二刀流は得意じゃないんだけどね。せっかくだから使わせてもらったよ」

「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなッ! こんなことがあり得るのか!? アタシが……『竜種』と一体化したこのアタシがッ! 魔力もろくにない小娘一人に!? こんなの認めるわけ――ギッ」


 さらに一撃――宙を舞うノルの頭部をシュリネは両断する。


「わたしに斬られるくらいだからね。所詮はあなたも同じ人間ってことだよ。それと、あなたを迷わず斬れたのも、あなたのおかげからさ。感謝してるよ。ただ――いい加減耳障りだから、あなたの声」

「――」


 もはや声を発することもできなくなったノル。

 首を失ったその身体は――やがてゆっくりと地面へと向かって落ちていく。

 シュリネもまた、上空から勢いよく落ちていくが――最後の力を振り絞ったヌーペがシュリネを回収し、地面に滑り落ちるような形となった。

 そのままシュリネは地面に転がるように寝転ぶと――見上げた先にはルーテシアがいた。

 どうやら『魔導車』に乗ってやってきたようだ

 目が合うと同時に、シュリネは魔導義手を真っすぐ伸ばして言い放つ。


「今回は大怪我しなくて済んだみたい」

「……私はずっとハラハラしっぱなしよ。あなた、迷わずに飛び出すんだもの」

「ああいう時は迷った方が危ないからね。ハインの方は?」

「クーリと一緒よ。ハインはかなり大怪我みたいだから、私はすぐに戻らないと」

「そっか。まあ、わたしは大丈夫だから。とりあえず――」

「ええ」

「「お疲れ様」」


 二人の声が重なって、ルーテシアもまたシュリネに応えるように拳を突き出して、ぶつけ合う。

 ――『要塞都市』での戦いは、こうして幕を閉じた。

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