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097 幼女を護る者もまた幼女である

 リリィとラークが睨み合い、私がごくりと唾を飲み込んだその時、トンちゃんとラヴちゃんが何かに気付く。


「ヤバいッスよご主人!」


「がお!」


「え?」


 トンちゃんの言葉と、ラヴちゃんの指さして私は思いだす。

 ロークの側にいたのはマモンちゃんだけではなく、ハッカさんもいた事に。


 私が思いだしたのと同時だった。

 ノームさんがロークに接近していて、岩で作られたハンマーでロークに攻撃を仕掛けた。

 ロークと同じ様に縛られていた筈のウンディーネさんがノームさんの目の前に立ち、魔法で出した氷の盾でノームさんの攻撃を受け止める。


「やだーっ!」


 ロークにハッカさんが捕まり、ラークがいつの間にかノームさんの頭上まで飛んでいて、そこから体重を乗せる様にしてノームさんの頭をふみつけた。

 ノームさんは床に頭から叩きつけられて白目をむき気絶して、ラークは追い打ちをかける様にノームさんを蹴り飛ばした。


 あまりにも一瞬の出来事で、私は見ている事しか出来なかった。

 ただ、もう見ているだけでは許されない。


 ハッカさんを助けなきゃ!


「トンちゃんラヴちゃんフォレちゃんお願い!」


「任せるッス」

「がお!」

「承知した」


 作戦なんて凄いものは無い。

 正直頭で考えても、あのスピードについて行く事なんて出来やしないのだ。

 でも、魔法が当たりさえすれば、それなりにどうにか出来る自信はある。

 だからこそ、私は3人が魔力に変換してくれた加護を両手に集中する。


 きっとチャンスはあるはず。

 リリィがこの状況を黙って見ている筈がないんだ!


「にゃー!? 姉様の拘束魔法が解かれたにゃ!」


「まさかとは思っていたけど、やはり騙されていた様ね」


 ナオちゃんが声を上げてアマンダさんが呟くと、セレネちゃんが首を傾げる。


「騙された? どーゆー事?」


「先の戦闘で、氷の魔法が有効だったから使ったのだけど、実際は海神の加護の前では無力で騙されたって事よ」


「ふーん。ま、そー言う事になるわね」


 どうやら私がいない間の戦いで、色々あったようだ。

 多分お話から察するに、水の魔法が効かない相手に対抗する為に、上位である氷の魔法を使ったのだろう。

 土の大精霊であるノームさんに私の土属性の上位魔法の重力魔法が聞いた事を考えると、厄介なのは海神の加護の水属性無効化だから、多分そうなんだろうなと考えられる。


「って言うか、何でそこの鬼がアレースの言う事聞いてんの!? お前はポセイドーンの配下っしょ!?」


 セレネちゃんが指をさして大声を上げると、ロークの代わりにラークが答える。


「簡単な事だ。この女はポセイドーンの奴隷でもあるが、余の奴隷でもあると言うだけの事」


「だから何だって言うのよ!」


 リリィがラークの背後に回って回し蹴りをしかける。


「甘いなリリィ」


 リリィの回し蹴りは届かない。

 戦神の加護の力が発動しオートガードでマトリョーシカが現れ、その中から港町で出会った龍族の少女マーレが現れた。

 そして、最悪な状況が起きてしまった。


 突然のマーレの出現に、不意をつかれたリリィは一瞬だけ動きを止めてしまったのだ。

 その一瞬は本当に一瞬の事で、私からしたら動きが止まった事にすら気がつかない程のものだったけど、それはこの人外な人達からしたら決定的な事だった

 マーレがその決定的な一瞬を逃すはずがなく、リリィに触れて能力を使う。

 リリィの姿はみるみると縮んでいき、5歳だった頃の姿になってしまった。


「リリィ!?」


 嘘でしょう!?

 何で!?

 能力が何でリリィに効いたの!?


「どう言う事ッスかご主人!? ハニーに能力が効いちゃったッスよ!?」


「そんなのわかんないよ! だけど!」


「がお!」


 ラヴちゃんが頭上に向かって指をさす。


「え?」


「させないにゃ!」


「――きゃあっ」


 上を見た瞬間だった。

 いつの間にか私の上空にウンディーネさんがいたのだ。

 そしてウンディーネさんは魔法で作り出した水の槍で私を貫こうと攻撃を仕掛けて、ナオちゃんがそれを阻止してくれた。

 鉤爪と水の槍がぶつかり合い、この場全体に甲高い金属の音が鳴り響き、私は小さな悲鳴を上げた。

 同時にアマンダさんがラークに向かって走り出した。


「ジャスミン様、魔力の集中がきれておる」


 そうだ!

 ボーっとしてる場合じゃないんだ!


 リリィが幼くなってしまった事への同様が未だ消えない気持ちを抑え込み、私は魔力を集中する。


「あっは~! いっただきー!」


 マーレがアマンダさんの前に出て、魔法で水の短剣を作りだし斬りかかる。

 アマンダさんがそれを銃で受け止めて、2人は目で追えない程の速度で戦いを始めた。


 そしてその時突然何かが――いいや何かでは無く、ロークの穿いていたズボンが爆ぜる。


「何!?」


 あまりにも突然の出来事で、ロークが驚きハッカさんがその隙を見て、幼くなったリリィの手を握って私に向かって走り出した。


 あれはハッカさんの能力……っ!?

 って、私まで驚いてる場合じゃないよね!

 今だ!


 私は目の前に魔法陣を浮かび上がらせて一気に魔力を解放する。


炎烈嵐槍グングニル!」


 魔法陣から炎を纏った槍が飛び出して、それはラークに向かって飛翔する。


「ちっ」


 ラークが舌打ちして私の魔法を避ける。

 魔法はラークに避けられると、そのまま壁に大穴を空けて突き抜ける。

 大穴からは激しい炎が燃え広がり、爆風を発生させて熱気がここまで伝わって来た。


 避けられた!?

 でも!


 私は魔法を放った時には既に走り出していた。


「リリィ! ハッカさん!」


 リリィとハッカさんを2人同時に抱きしめる。


「もー! お姉ちゃんでちょー!」


「あはは。うん、お姉ちゃん」


 と、私が微笑んだ瞬間、ロークが目前に迫り、金砕棒を振り上げる。


「おいたがすぎるんじゃないか?」


 ダメ!

 間に合わない!


 魔法でロークの攻撃を防ごうとしたけど、私の速度じゃ対応しきれるわけもなく、ロークの金砕棒が私に襲い掛かる。


「ジャスミンに酷い事しちゃダメーッ!」


「……がはっ!」


 幼くなったリリィがロークのお腹を蹴り上げて、ロークがもの凄い速度で天井向かって吹っ飛んだ。


 ……うそ。


 私は絶句して天井を見上げた。

 ロークは天井に激突すると地面に落下して気絶した。


 え、ええぇぇぇ……。

 嘘でしょう?

 幼女な可愛い姿にされちゃっても、相変わらずの強さなの?

 リリィ凄すぎるよ。


「さ、流石はハニーッスね。幼女になってもこの強さは凄すぎッス」


「そうぢゃな。流石は妾の恋敵ぢゃ」


「が、がお」


 私はリリィを見つめる。

 リリィが小さくなってしまったその体で私の前に立ち、力強く足裏を床に叩きつけて地震の様な揺れが起きる。

 そしてリリィは私に振り向いて、とっても可愛らしい笑顔を私にくれた。


「ジャスミンは私が護ってあげるね」


 そのリリィの笑顔はとっても可愛くて、私の驚きや困惑が全部可愛いで上書きされてしまった。


 きゃあーっ!

 幼女化リリィ可愛いいいぃぃっ!

 頬っぺたプニプニしたいー!


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