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096 幼女は友人に命を狙われる

 ラークがアレース神!?

 い、いやいやいやいや。

 気のせいと言うか、人違いだよね?

 うん。

 似てるだけとかだよね?


「ご主人、急展開過ぎて話についていけないッス」


「み、右に同じくだよ……」


「あーあ。なんだよ、もうばれたのかよ。ったくよー」


 ラークは呟くとため息を吐き出して、途端に表情が一変した。

 その表情は冷たく何もかもを見下すような、いつものラークからは考えられないようなものだった。


「アルテミス、お前の言う通りは戦の神アレースだ」


 余!?

 あれ?

 もしかして別人?

 ラークに化けてるみたいな?


「アイツ本当にあのバカッスか? 雰囲気が全然違うッスよ?」


「う、うん……」


「しかし、まさかここまで呆気なく余の正体がばれるとは思わなかったぞ。褒めてやろう」


「はあ? えらそーでムカつくんだけど! って言うか、んな事どーだっていいっての! よくも私を殺したな!」


「余が何故お前を殺さなければいかんのだ? それよりどうだ? アルテミス、余の正体を見破った褒美に、お前も余の配下に加えてやる。これよりゼウスを呼び出し、本格的にこの国に戦争を仕掛けようじゃないか」


 それは一瞬だった。


「させると思っているの?」


「――アマンダさん!?」


 アマンダさんが一瞬でラークの背後に回って、こめかみに銃口をピタリとくっつける。

 ラークはこめかみに銃口を向けられたにも関わらず、とくに焦る事も驚く事も無く、表情を変えずにセレネちゃんと会話を続ける。


「お前が吸血鬼に変えた奴等は実に良い働きをしてくれている。それで余も考え直したのだ。お前の能力は非常に便利で使い勝手が良い。お前さえその気になれば余は歓迎するぞ?」


「はあ!? えらっそーにムカつくわね! 誰がお前なんかの配下になるかっての!」


 セレネちゃんがラークを睨みつけ、ラークはため息を吐き出した。


「やれやれ。余も下等な人間共の生活をしてきたのでな。下等な魔族になった貴様に対しても、随分と甘くしてやっているというのに、アルテミス、貴様は本当に不愉快な女だな。やはり、女は感情でしかものを考える事が出来ない哀れで馬鹿な生き物だ。死んでも尚、そのつまらぬ感情を捨てきれんとはな」


 あ、これ、やっぱりラークだ。

 余とか言いだすから、やっぱり別人なんじゃって思ったけど、ラークって女の子を直ぐ馬鹿にするんだよね。

 と言うか、そもそも自分だって感情的なのにどの口がって感じだよね。

 なんか懐かしいなぁ。

 このイラってくる感じ。

 ラークはやっぱりラークなんだなぁ……はぁ。

 って言うか、なんか偉そうな感じに拍車がかかった感じがする。

 ここにリリィがいなくて良かったよ。

 もしいたら、絶対喧嘩にな――


 その時、ラークが突然何かに吹っ飛ばされて壁に勢いよく激突する。


「男の癖につまらない事言ってんじゃないわよ! 糞ラーク!」


「り、リリィ……」


 いつの間にこっち来たの?

 って言うか、うわぁ……。

 大丈夫かなぁ?


 ラークが吹っ飛んで激突した壁は、結構広い範囲で崩壊していて、幾つもの瓦礫が散らばっている。

 吹っ飛んだ当の本人はと言うと、瓦礫の下に埋もれてしまって姿が見えない。


「よくやったわリリー! このままぶっ殺しちゃえー!」


「任せなさい」


「ストーップ! リリィ待って!?」


「え?」


「はあ? ジャス、何で止めるのよ!」


「何でって言われても……」


 殺すとか言いだしたら普通は止めるよ。


「ちっ。相変わらずだなリリィ。余が神でなければ今の一撃で死んでいたぞ」


 ラークが瓦礫の下から立ち上がり、自分の上に乗っかっていた瓦礫を放り投げてリリィを睨みつけた。


 あ、良かったぁ。

 生きてたんだね。


「アンタが神? 寝言は寝てから言ってくれないかしら? それとも、打ち所が悪かったの? 自分の事を余とか言っているし、一度リリオペに看てもらったら?」


 鼻で失笑してラークを見るリリィ。

 その態度にラークの顔の表情が、私のよく知るラークの怒った時の表情へと変わっていく。


「本当に吐き気がする程(かん)に障る女だな!」


「アンタみたいなクズには言われたくないわよ」


 リリィがゴミを見る目でラークを見て、ラークがリリィに殺気を放って睨み見る。

 その時、アマンダさんとナオちゃんが私の側までやって来た。


「ジャスミン、あの少年はジャスミンのお友達なの?」


「え? あー……うーん、一応そうなるのかな?」


「姉様とニャーで攻撃を仕掛けたけど、全部効かなかったにゃ。多分魔法は全部無効化されるにゃ」


「そうなんだ…………え? 攻撃を仕掛けた?」


「ええ。先程銃口をアレースと名乗る少年に向けてから、ナオと同時に五回ほど」


 ……嘘でしょう?

 おかしいな。

 そんなの私の目には映ってなかったよ?

 うーん……考えないでおこう。

 きっと私には分からない別次元のお話だもんね!


「あ、でも、ニャーのひっかき傷は足に残ってるにゃ」


 え?

 ひっかき傷?


 ラークの足に注目すると、確かに傷跡がそこにはあった。

 ホントの本当にいつの間にって感じである。


「だから攻撃が効かないと言うよりは、魔法が効かないって感じだにゃ」


「そうね。しかしそうなると、かなり厄介ね。ナオはともかく、私は魔法以外の攻撃手段が無いわ」


「その銃で攻撃すればいんじゃないッスか?」


「それは出来ないわ。これは魔力を魔法で銃弾に変えて攻撃する魔銃だもの。実弾は使えないのよ」


「そうなんだ……」


 今まで実弾だと思ってたのって、実弾じゃなかったんだね。


 と、その時、ラークが怒鳴り声を上げて氷で縛られているロークさんを睨みつけた。


「おいローク! いつまで遊んでいるつもりだ!」


 ラークに怒鳴られたロークが苦笑しながら立ち上がる。


「座ってろ! グラビテ――」


 近くにいたマモンちゃんがロークに重力魔法を使おうとした時、ロークを縛っていた氷が弾けて、ロークがマモンちゃんの頭を掴んで私に向かって投げ飛ばす。


「リーフクッション」


 フォレちゃんが私の目の前に、葉っぱで出来たクッションを魔法で出してマモンちゃんを受け止める。

 マモンちゃんは目をクルクルと回して、その場に力無く倒れてしまった。


「それでいい」


 ラークがニヤリと笑い、私を見た。


「ジャスミン、悪いがお前にはここで死んでもらう」


「何言って――」


「答えなくて良い。お前の意見は意味が無いからな。ここで殺す。それだけだ」


「ラーク、アンタの事はムカつく馬鹿だとしか思ってなかったけど、認識を改めるわ」


 リリィがラークに殺気を放って睨みつける。


「殺すですって? その言葉、アンタにそっくりそのまま返してあげるわよ。神だか紙だか知らないけど、ジャスミンの命を狙った事を後悔しなさい」


「上等じゃねーかリリィ! てめえもここで殺してやるよ!」


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