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092 幼女はお着替えでミスをする

 大精霊ノームさんの力で下半身だけのセレネちゃんのおへそとお話が出来る様になり、私達は驚きの真実を聞く事になった。


「え? それじゃあ、セレネちゃんの上半身は西塔にちゃんとあるんだ?」


 私はお洋服に着替えながら、セレネちゃんのお話を聞いて聞き返す。


「そそ。なんかさ~、この東塔と西塔の両方で神に等しい存在を生贄として捧げると、くそじじーを呼び出せるって事で、私を使っちゃおーって事になったっぽいのよ。いー加減にしろっての」


 く、くそじじーって……。

 セレネちゃん、相変わらず口が悪いなぁ……ん?

 あれは……。


 フォレちゃんが真剣な面持ちでセレネちゃんに訊ねる。


「ふむ。しかし、何故その様な事を企てたのぢゃ? 神であれば、その様な事をせずとも連絡くらいとれるのではないか?」


「あー、ちょー無理。くそじじーは基本下界には顔出さないから。ってか、どーせ娘の私を生贄に使えばいーっしょって、考えたっぽいんだよね~。娘が死んでも動かなかったくそじじーが、来るわけねーだろって感じ。考えたらムカついてきたわー」


 む、娘!?

 セレネちゃんって、神様の時はゼウスの娘だったんだ……。


「って言うか聞いてよー。ポセイドーンがくそじじーを呼び出す理由がマジ糞すぎて笑えないんだよね」


「そうなの?」


 私はお洋服に着替え終わって、今度は水着を脱ぎながら質問する。


「あいつくそじじーを使って――」


 と、セレネちゃんがゼウスを呼び出す理由について話そうとした時、それを遮るようにして声がした。


「ありゃりゃ。騒がしいと思ったら、いつの間に入って来ちゃったのかね~?」


 私は大事な事を忘れていた。

 声を出して現れたのは鬼人ローク。

 定時報告とやらを終わらせて戻って来てしまったのだ。


 忘れてた!

 呑気にお着替えとお話してる場合でも無かったんだよ!

 とにかく脱いだ水着を小瓶に入れて……。


 水着を小瓶に入れて、それを腰にかけているポーチにしまって、私は重大な事に気がついた。


 あれ?

 私、まだパンツ穿いてない?


「ジャスミン殿、こ奴からウンディーネの魔力を感じる。気をつけなされ」


「ふぇ?」


 パンツを穿き忘れている事に気がついて焦っている時にノームさんに話しかけられて、思わず変な声を出してしまったけど、今はそれどころでは無い。

 私は急いでパンツを穿かなければいけないのだ。


 だけど、残念ながらそれは出来なさそう。

 何故ならロークが現れた途端に、ハッカさんが体を震わせたからだ。

 私は、ハッカさんを後ろに隠して気を落ち着かせる為に頭を撫でてあげる事にした。


「その様ぢゃな。この塔に入ってから、ウンディーネの力を感じておったが、やはりノームと同じ様に敵の手の内に堕ちている様ぢゃな」


 フォレちゃんとノームさんがロークと向かい合って睨み合う。


「オレってさ、こう見えても魔力の扱いには自信があるわけよ。だからウンディーネの魔力を隠してたんだけど、直ぐにばれるなんて自身無くすな~」


 ロークが小さいペットボトルサイズのマトリョーシカを2つ取り出して、1つを真上に放り投げる。

 マトリョーシカは上空で大きくなって開き、まるで某有名なゲームのモンスターの様に、中から金砕棒が飛び出してロークがキャッチする。

 金砕棒をロークが手にすると、ロークが立つ床はその重みでヒビが入り、その重量感が一気に伝わってきた。


「さーて本命を見せようかね!」


 ロークは取り出したマトリョーシカを軽く目の前に投げる。

 マトリョーシカはさっきの物と同じ様に大きくなって開くと、今度はさっきと違って中からもマトリョーシカが現れた。

 そして、それも開くと更にマトリョーシカが現れて、それが何度も繰り返される。

 最後には元々の小さいペットボトル位のサイズになって、それが開いた瞬間に青く眩い光が飛び出した。


 青く眩い光は集束し、そこから水が溢れだす。

 溢れ出た水は形を成して、それは人の姿となって現れる。


 現れたのは、長く美しい髪と綺麗で美しい瞳の、セーラー服に身を包んだ中学生位の見た目のお姉さん。

 髪と瞳はどちらもマリンブルーで、透き通る様な綺麗な色をしていた。


 私は驚いてお姉さんに注目した。


「ウンディーネ、久しいのう。其方、もしやそこの鬼人と契約を交わしたのか?」


「ご名答。アタイの今のマスターは、このロークよ」


 この人が水の大精霊ウンディーネさん。

 セーラー服を着ているのは何でなんだろう?

 うーん……可愛い。


「ウンディーネよ。やはりお主も無理矢理契約を結ばされたのか?」


「まあね~。ノームの言う通りそんなとこ。まあ、でもスピリットフェスティバルとか退屈なイベントしてるより、こっちの方が楽しそうだし良いかな~って思ってるけどね」


「なんとまあ嘆かわしい事ぢゃ。其方、大精霊としての自覚が足りぬではないか?」


「そんな姿で言われてもね~。説得力に欠けるわよ」


 フォレちゃんとウンディーネさんが睨み合う。

 ロークが大精霊の様子を見てから苦笑すると、私に視線を移して微笑みかけてきた。


「魔性の幼女ジャスミンちゃん。これ以上の狼藉は譲歩出来ないんだよね。オレの恋人になってくれるなら見逃してあげるけど、もしならないってなら、君や拘束しているあそこの三人、それに精霊やそこの女の子をここで殺す必要が出て来る。選ばせてあげるよ。恋人か死、どっちがいい?」


「恋人にならないし殺されるつもりもないよ」


 私は考える間もなく答えた。

 と言うかだ。

 セレネちゃんとお話している時に、私は実はある事に気がついてしまったのだ。

 そのある事に気がついたのは、セレネちゃんがゼウスを最初にくそじじーと言った直後。

 私の視線にはラヴちゃんが入っていたのだけど、ラヴちゃんが凄く可愛くてやばかったのだ。


 ラヴちゃんは目をつむっていたのだけど、その時目を開けて私と目がかち合って、慌てて力一杯ギュウッて目をつむったのだ。

 しかも、私達には聞こえない声で「がお」って言ってて、それを聞いたナオちゃんが尻尾を振って半目でラヴちゃんを見てニコニコした。

 更にそれに気がついたアマンダさんが、ちょっとだけ眉間にしわを寄せながら、目に見えない速度でナオちゃんの尻尾を自分の足の下に挟んだ。

 ナオちゃんは涙目になってぐったりして、ラヴちゃんがチラチラ私の方を見る可愛い。


 そんなわけで、私は3人のその可愛くも何だか可笑しい行動のおかげで、わざと捕まっている事に気がついたのだ。

 と言うか、これに気がつかなかったら、もっと早くお着替えできていたし、パンツだって穿けてたんだよね。

 って、それはともかくとしてだ。

 下手な事をすると猛毒が3人を襲うと聞いていて何も出来ないでいたけど、もうそれも終わり。

 もう相手のペースに合わせる必要なんてないのだ。


「ははは。随分とあっさり答えちゃうんだな。だったら、もう本当にいいや。オレさ、言う事聞かない女ってゴミだと思ってるんだよね」


 ロークが物凄く失礼で最低な発言を言って鋭く私を睨み、殺気を放って眼光を光らせる。

 その瞬間に、ラヴちゃん達が猛毒と思われる紫の液体に襲われた。


「ピラーファイア!」

「バレットウォーター!」


 同時だった。

 ナオちゃんとアマンダさんが魔法を唱えて、3人が獄炎の猛火を思わせる程の激しい火柱に包まれて、アマンダさんが一瞬で構えた銃の銃口から物凄い速度の水の銃弾が放たれた。

 猛毒は一瞬で焼かれて、水の銃弾はロークの後頭部に直撃してつらぬ――かない。

 貫かないどころか、ロークにかすり傷一つ与える事が出来なかった。


 ロークは機嫌悪そうに3人を包み込む火柱に視線を向けて、その場から消える。


 消えた!?


「悪いな! オレに水の魔法は効かねーのさ!」


 声のした方へ視線を向ける。

 ロークはいつの間にか火柱に近づいていて、金砕棒を大きく横に払った。

 火柱が消えてラヴちゃん達の姿が現れる。


「がお!?」


「ポセイドーン様の加護は【海神の加護】! 全ての水属性の攻撃を無効化し、更に傷を癒す最高な力なのさ!」


 何そのチート能力!


 ロークが金砕棒をアマンダさんに向かって振り上げ、瞬時にナオちゃんが間に入って鉤爪で金砕棒の攻撃を受け止めた。

 周囲には鉄と鉄がぶつかり合うような甲高い音が響き、2人を中心に風がうまれて吹きぬける。

 私はその風を浴びながら、顔を引きつらせた。


 わぁ……ちょっと生温かい風~。

 次元違いすぎてあの中に入れないよ?

 私って結構モブポジションだよね。


「ロークったら一人だけズルいな~。まあいいや。アタイさ~、一度アンタ等とやってみたかったんだよね」


 ウンディーネさんが、フォレちゃんとノームさんに向かってニヤリと笑みを浮かべる。


「アタイ等も始めようよ。殺し合い」


 こ、怖わわわわ……。


 ウンディーネさんの笑みはもの凄く恐ろしくて、恐怖を感じずにはいられなかった。

 私はごくりと唾を飲みこんで、これから始まる戦いに身を投じる事になってしまうのだった。


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